AIに毎朝、決まった仕事をさせたい。前日のデータを集めて、まとめておいてもらう。指示は書けました。決まった時刻に実行する仕組みも用意できました。
翌朝ひらいてみると、何も起きていません。
原因はAIの側ではありませんでした。その時刻に、パソコンが眠っていたのです。調べると、スケジュール機能で起動できます、ターミナルで pmset というコマンドを打ちなさい、という答えが出てきます。
この記事が立てる問いは違います。起こす設定を入れれば、毎朝確実に動くのでしょうか。
AIエージェントの自動化は、AIの外側で止まる
AIに毎日仕事をさせる仕組みは、3つの層でできています。何をさせるかという指示、いつ実行するかという予約、そしてそれを載せる機械です。
最初の2つは、その場で確かめられます。指示は読めば分かります。予約はコマンドを打てば一覧で確認できます。
3つ目だけが違います。朝7時に機械が動いていたかどうかは、朝7時にならないと分かりません。ここだけ、確認が未来にずれます。
起こす設定は5分で終わる。動いたかの確認は毎朝続く
実際のコマンドは1行です。sudo pmset repeat wakeorpoweron MTWRFSU 07:00:00 と打てば、毎日7時にスリープ解除または起動する予約が入ります。設定済みの内容は pmset -g sched で確認できます。
作業時間は5分もかかりません。ターミナルを開くのが億劫なだけで、技術的な難所はどこにもない。
問題は、そのあとに残るものです。
失敗は、静かに起こる
予約が入っていても、朝7時に本当に起動したかどうかは、翌朝にならないと分かりません。そして失敗したとき、エラーは出ません。ただ何も起きていないだけです。
起動を妨げる条件は、電源の接続状態からOSの更新まで、設定画面の外側に散らばっています。どれか一つが噛み合わなければ、静かに何も起きない。
つまり、設定はできます。できますが、自分の環境で動くかどうかは、翌朝になるまで分かりません。
工程を1つ足すごとに、毎朝の確認が1つ増える
ここが、この記事の核心です。
朝7時にAIが動き出すまでに、いくつの段があるかを数えてみます。電源が入る。OSが起動する。ログインが通る。実行の予約が発火する。AIが処理を始める。5段あります。
各段に、失敗する可能性があります。1段増えるごとに、毎朝そこを通過したかを確かめる対象が増える。これをここでは確認点と呼びます。
自動化の負担は、設定の負担ではありません。確認点の数です。設定は一度きりですが、確認は毎朝続きます。
だから、止めないことにした
選んだのは、パソコンを待機させることでした。
朝6時の時点で、MacBook Proはすでに動いています。というより、前の晩から一度も眠っていません。本体はスリープさせない設定にして、そのまま待たせています。
こうすると、電源投入と復帰という2段が消えます。確認点が2つ減り、残るのは予約とAIの処理だけです。
pmset で起こす方法と比べて、こちらが高度なわけではありません。むしろ何もしていない。ただ、確かめなければならないものが減っています。
止めないコストを、正直に書いておく
待機させることには、代償があります。
まず電気代です。私の環境では外付けディスプレイが3枚あり、稼働すると一斉に点灯します。本体とディスプレイ3枚で合計150Wと仮定し、処理にかかる3分間だけを数えると0.0075kWhになります。全国家庭電気製品公正取引協議会が2022年に改定した目安単価31円/kWhで計算すると、1回あたり0.23円です。毎日動かしても1か月で7円ほどになります。
この金額は判断材料になりません。ただし、これは点灯している3分間だけの計算です。24時間待機させる電力は別に乗ります。そこまで含めて許容できるかは、環境によって変わります。
明るさと寿命について
早朝に部屋が明るくなる問題もあります。私の場合はベッド周りの遮光が効いているため、3分間の点灯で目が覚めることはありませんでした。ここは完全に環境依存です。寝室と作業机が同じ部屋にある方には勧められません。
もう一つ、待機させ続けることが本体の寿命に与える影響については、私は判断材料を持っていません。数年単位で観察しないと分からない話なので、現時点では分からないと書いておきます。
夜は何もしない。画面だけが消える
待機させる設計で最初に詰まるのは、夜です。
寝る前に何もしないと決めたのに、画面が明るいままでは気になります。かといって手動でスリープさせると、朝の確認点がまた増えます。
macOSは、本体をスリープさせない設定にしていても、ディスプレイの消灯時間だけを別に指定できます。この2つは独立した設定です。だから本体は待機させたまま、画面だけを消せます。
私はディスプレイオフを3分にしました。作業を終えて席を立ち、そのままベッドに入れば、3分後に部屋は暗くなります。操作はゼロです。
昼の面倒は、消灯とロックを分けると消える
ここで問題が一つ出ます。
ディスプレイオフを3分にすると、当然ながら日中も3分で画面が消えます。電話が来て少し話しているだけで暗くなる。そして復帰のたびにTouch IDを求められる。パソコンが手の届かない位置にあると、これが毎回の負担になります。
解決は、消灯とロックを切り離すことです。macOSでは、ディスプレイをオフにするまでの時間と、パスワードを要求するまでの時間を、別々に設定できます。
私は消灯を3分、パスワード要求を1時間にしました。日中に画面が消えても、1時間以内ならマウスを動かすだけで戻ります。夜は放置すれば3分で暗くなる。同じ設定が、昼と夜で違う働きをします。
ただし、パスワード要求を延ばすことはセキュリティを緩めることでもあります。自宅の個室で自分しか触らないという条件があって成立しています。共有スペースに置いている場合は、この設定は勧められません。
判断基準は、失敗に気づけるかどうかで決まる
では、起こす工程は常に避けるべきなのでしょうか。そうではありません。
Q:AIの自動実行を、スリープ解除で組んではいけないのでしょうか。
A:失敗にすぐ気づける処理なら、問題ありません。結果が自分に届く処理、たとえば毎朝レポートがメールや通知で来る仕組みであれば、来なかった時点で失敗が分かります。逆に、静かにファイルを書き出しておくだけの処理は、動かなくても何日も気づけません。起こす工程を挟んでよいかどうかは、機械の性能ではなく、失敗に気づける経路があるかどうかで決まります。
私が朝7時に走らせているのは、前日24時間分のデータを集めて可視化する処理です。自分から見に行かなければ、動いていないことに気づきません。だから起こす工程を外しました。
最適ではない選択が、いちばん確実なことがある
スリープは、消費電力を減らすために設計された機能です。省エネという物差しの上では、間違いなく最適です。
ただし、確実性という物差しでは設計されていません。復帰は速く、たいていは成功します。そのたいていは、というところに毎朝の確認点が残ります。
物差しが違えば、最適解も変わります。省エネを捨てて月に数円を払い、確認点を2つ減らす。省エネの観点からは明らかに劣った選択ですが、確実性の観点では上に来ます。
起こす設定を疑って、待機させる設計を選ぶ
この記事の答えをまとめます。
AIエージェントが朝に動かないのは、指示や設定が足りないからではありません。眠った機械を起こすという工程を、途中に挟んだからです。工程は、増やすほど毎朝の確認点を増やします。そして確認点は、設定と違って一度きりでは終わりません。
やるべきことは、起こす設定をより正確に書くことではなく、起こす必要をなくすことでした。待機させておけば、起きたかどうかを確かめる必要そのものが消えます。技術的には何もしていません。ただ引いただけです。
引いたコストは、月に数円と、早朝の3分間の明るさでした。この交換が成立するかどうかは、環境によって変わります。
AIに任せたはずの仕事が朝に動いていないなら、指示を見直す前に、その処理が何段の工程を通っているかを数えてみてはいかがでしょうか。







