担当範囲が増えても報酬が上がらないときは、実績の一覧をやめて、役職を求める形に変える

コンサルティングで入っていたクライアント担当者様は、担当している分野が増えても、報酬が動かない時期がありました。相談すると、別の役割に移ったほうが早い、と言われました。私が返したのは「いや、すでに6つぐらいの分野で責任者。それで認められないのか」でした。

世の中に流通している答えは、だいたい2つに分かれます。もっと成果を出す、という話か、外に出て市場で値段を付け直す、という話か。どちらも、いま持っているものはこのまま動かない、という前提で書かれています。

ここから書くのは、報酬が動かない理由の置きどころと、次に出す1枚の書き換え方です。担当範囲が増えても報酬が動かないのは、頑張りが足りないからでも、評価する側が渋いからでもありません。制度が、担当範囲ではなく役職に対して払うようにできているからです。だから「これだけやっています」をやめて、「これを見る役職にしてください」に変えます。

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聞かれていたのは、移る先の話ではなかった

最初にずれたのは、ここでした。私が持ち込んだのは、いま6つの分野を見ていて、それが報酬に反映されない、という話です。返ってきたのは、別の役割に移るのが早い、という提案でした。

提案そのものは間違っていませんが、聞いていたことと向きが違いました。移る先を探す話ではなく、いま持っているものがなぜ値段にならないのか、という話でした。

「今この瞬間にパフォーマンスを出しているんだけどね。。。」。この一言に、ずれが全部入っています。次の場所の話をされても、いま出ている分の説明にはなりません。

全部を横断して見ているのは、本人だけだった

言い換えたら通じたのは、この形でした。認められていないのではなく、知られていない。

分野ごとに見ている人はいます。1つ目を見ている人がいて、3つ目を見ている人がいる。ただ、6つを並べて見ている人は、本人以外にいません。誰も足し算をしていないので、合計は誰の頭の中にも出てきません。

実際、全量が1枚に書かれたのは、この件で試算表を作ったときが初めてでした。何年もその状態で働いていて、合計が紙になったことは一度もなかった、ということです。

だから「もっと頑張る」は効きません。足し算をしていない相手の前で、足される側の数字を増やしても、合計は出てこないからです。

削減できた金額を根拠にする案は、捨てた

最初に作りかけたのは、金額の資料でした。この範囲を持ったことで、これだけ減りました、という形なので、数字は大きく出ます。

その案を捨てたのは、金額の大部分が本人の時間の価値で、実際に減った現金支出はごく一部だったからです。そこを1つ突かれると、資料全体が崩れます。大きい数字ほど、根拠が薄いと逆に効きます。

代わりに置けるのは、置き換えにかかる金額のほうです。ひとりが持っている分野を、実務で束ねられる単位に割ると、複数人分になります。それを採用で埋める場合、年収だけでは足りません。会社が負担する社会保険料が乗り、人材紹介を使えば手数料が乗ります。手数料は理論年収の30パーセントから35パーセント程度が相場とされています(2026年8月時点)。さらに、入った人が戦力になるまでの期間が要ります。

この数字は、自分の手柄の大きさではなく、抜けたときに空く穴の大きさを示します。根拠が自分の外にあるので、突かれても崩れません。

昇格の順番が決まっているなら、成果を積んでも時計は速くならない

次に出したのは、上に伝わる速度を上げましょう、という案でしたが、これも撤回しました。

撤回したのは、昇格の順番が数年先まで決まっていることが、あとから分かったからです。誰がいつ上がるかが先に置かれていて、そこに配慮が働いている。理由が順番への配慮なら、成果を積んでも時計は速くなりません。速度を上げようとしていた先が、そもそも速度で動いていませんでした。頑張りの量でも、資料の出来でもなく、動かせるのは順番の側にあるものだけです。

制度は、担当範囲ではなく役職に払っている

担当範囲ではなく役職に払っている、というのは数字でも見えます。厚生労働省の令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査によると、役職別の賃金の平均は、部長級が63万5800円、課長級が52万9200円、係長級が39万9200円、非役職者が31万500円でした(男女計、1か月あたり)。

段の差ははっきり出ていて、この統計に「担当範囲の広さ」という列はありません。国が賃金を集計するときに刻んでいるのは、役職の段です。多くの会社の等級表も、同じ形をしています。

弱いところも書いておくと、この統計は、担当範囲に価値がないことを示してはいません。示しているのは、賃金が役職の段で集計され、そう分布しているということだけです。範囲を広げた人が段の中で上のほうにいる可能性は、この数字からは分かりません。それでも、範囲を10に増やしても段が同じなら金額は同じところにいる、という手ざわりのほうは合っています。

「これだけやっています」と「これを見る役職にしてください」は、行き先が違う

「これだけやっています」は、評価の話として受け取られます。評価の話は、既存の等級表の中で処理されます。表の中で処理される限り、答えは表の中にある数字のどれかになります。

「これを見る役職にしてください」は、人事の話になります。誰にどの役職を置くかという話なので、等級表の外へ出ます。求めているのは、範囲に対する上乗せではなく、範囲に見合う段です。

出す資料も変わります。実績の一覧ではなく、いま自分が見ている範囲を役職として定義したら、どういう名前と決裁の範囲になるかを書きます。そこに、抜けたときに空く穴の金額を添えます。

報酬を目的にすると、噛み合わなくなるものがある

ここに、引っかかりを正直に書いておきます。「報酬の話はもちろんだけど、目的が何かが大事でしょ?報酬を目的したときに人の動きはおかしなことになるんだよ。」

報酬を目的に置くと、測りやすい成果に寄ります。そして、手柄を人に渡せなくなります。一つの現場で成果を出して、それを横に広げる形は、現場の側が主役にならないと成立しません。この2つは噛み合いません。

だから、役職を求めることは報酬を目的にすることとは違う、と整理しました。役職は、いま見ている範囲に名前を付ける作業です。名前が付けば、次の人に渡せます。渡せる形になっていないと、横に広げる話は、そもそも始まりません。

手元にある資料は、実績の一覧になっていないでしょうか。次に出す1枚を、いま自分が見ている範囲を役職として定義する形に書き換えてみては、いかがでしょうか。

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