販売や接客の経歴の人を営業で採るかは、自社が個人の成果にコミットしていたか?

採用エージェントから、同じ形の提案が定期的に届きます。販売や接客をしていた人を、営業職として雇いませんか、という提案です。私はこの種の提案を、かなりの割合で断ってきました。送られてくる経歴に問題があるからではありません。人柄も職務経歴も、読むかぎりは悪くないのです。

採用の実務では、こういうときの答えはだいたい決まっています。前職で一番の失敗と、そこから何をしたかを面接で深掘りする。ポテンシャルを見て採り、入社後の数か月をサポートで支える。異業種からの転職は珍しくないのだから、業種で弾くのはもったいない、という整理です。

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店舗に来た人は、その商品に興味がある段階から始まる

販売と接客の仕事は、お客様が店舗まで来てくれたところから始まります。わざわざ足を運んでくれたということは、その商品にはもう興味がある、という段階です。ここは、けっこう重い前提です。

だから販売接客の人にとって、仕事は背中を押すことになります。迷っている人がいて、後ろから軽く押す。押しすぎると嫌がられるので、力の加減を覚えていきます。何年かこれをやると、仕事の癖ができて、ものの見方ができます。

この癖は、欠点ではありません。店舗の中では、押しすぎない人のほうが、長い目で見れば数字が出ます。

営業は、決めましょうと決断を促すまでが仕事

営業職は、クロージングまでやり切ることを求められます。最後に、決めましょう、と迫る。この迫るを、無理やり売りつけることだと読むと、話が変な方向へ行きます。そうではなくて、お客様に意思決定をしてもらう、ということです。

販売接客の癖がついている人がここに来ると、押しすぎるとお客さんも嫌かな、という発想が先に立ちます。これは怠慢ではありません。前の仕事では、それが正解だったからです。仕事の捉え方が違う、というのは、そういう意味です。

面接で立てられる問いは、3つだけである

では、その捉え方の違いを面接で測れるかというと、測れる部分と測れない部分があります。私が最終的に残した問いは3つです。

1つ目は、迷っているお客様に、最後に何と言ったか。実際に口にした一言を、そのまま言ってもらいます。

2つ目は、その場で決まらなかった人を、そのあとどうしたか。追ったのか、それっきりだったのか。

3つ目は、個人の数字を持っていたか。未達だったとき、誰にどのような報告をして、次に何を変えたか。

3つとも、聞けば答えは返ってきます。難しいのは、返ってきた答えが薄かったときです。それが訓練で埋まるものなのか、そもそも無いものなのかが、その場では分かりません。

3つのうち2つは、トークと案件管理で後から埋まる

1つ目の、最後に何と言ったか。これは技術と許可の問題です。何と言えばいいかはトークの型として渡せますし、言っていいという許可は上司が出せます。言えなかった人の多くは、言い方を知らなかったか、言っていいと思っていなかっただけです。

2つ目の、そのあと追ったか。これは時間の問題です。追わなかったのは、追う気がなかったからとは限りません。次に何をするかを書き留める場所が無ければ、案件は自然に消えていきます。案件管理の仕組みがあれば、追うことは外から強制できます。

つまりこの2つは、候補者の中に無くても、自社の中にあれば成立します。面接で薄く見えたとしても、そこで落とす理由にはなりません。

埋まらないのは、個人の数字を持ったかどうかである

残る3つ目だけが、後から用意しにくいものです。個人の数字を持ち、未達のときに自分から報告し、次の打ち手を変えた経験。ここは経歴では代えがききません。

数字を持たせること自体は、明日からでもできます。一人ずつに目標を割り当てればいいだけです。埋まりにくいのは、数字を持ったときに何が起きるかを、本人が通っているかどうかのほうです。

未達の報告は、気持ちのいい作業ではありません。自分の数字が足りないと、自分の口から言います。そのうえで、次に何を変えるかを自分で決めます。この一連を何度か通った人と、通っていない人とでは、入社後の立ち上がりが変わります。

店舗では、立地も客数も品揃えも価格も本部が決めている

なぜ販売接客ではこの経験が積まれにくいのか。理由は本人の姿勢ではなく、変数の置き場所にあります。

店舗の売上を決めている要素を並べると、立地、客数、品揃え、価格が出てきます。この4つは、たいてい本部が決めています。店頭に立っている人の手元に残るのは、接客の質だけです。売上が落ちたときに、自分で動かせるものがほとんどありません。

これは、PDCAを回す気があるかどうかの話ではありません。回そうとしても、回す対象が自分の手に無い、という話です。だから職務経歴書に店舗内1位や前年比といった数字が並んでいても、その数字のどこまでが本人の打ち手だったのかは、書面からは読めません。

営業は逆です。誰に、いつ、何を、何回。ほとんどの変数が自分の手にあります。だから、PDCAを回した経験があるか、という問いは、実際には、変数を自分で握ったことがあるか、を聞いています。

うまくいくかわからない、は正しい認識である

ここまで来ると、最初の違和感の正体が見えます。人柄も経歴も悪くないのに、うまくいく気がしない。あれは、候補者の情報が足りないから起きていたのではありませんでした。仕事の捉え方が違う相手を、経歴の側から測ろうとしていたから起きていたのです。

だから、候補者側の情報をこれ以上集めても、判断はつきません。エージェントに前職の売上をもう一段細かく聞いても、面接をもう一回やっても、同じところに戻ります。

動くのは自社の側です。一人ずつに数字を持たせる形があるか。未達を報告する場があるか。その報告を受けて、次の打ち手を一緒に決める人がいるか。この3つが揃っていれば、仕事の捉え方は入社後に書き換えられます。揃っていなければ、書き換えは本人の努力頼みになります。

正直なところ、この形を用意するほうが、候補者を1人選び直すよりずっと手間がかかります。数字の割り当ても、報告の場も、作れば運用が要ります。それでも、書き換える仕組みが無いままなら、候補者を選び直しても、次の人で同じことが起きます。

次に同じ提案が届いたら、経歴を読み込む前に、自社の側にその3つが揃っているかを見てみるのはどうでしょうか。揃っていないと分かったなら、断るのは正しい判断です。そしてそのときは、断る理由が、はじめて自分の言葉になります。

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