電子ドラムの防音で見るものは4つです。暗騒音、壁、窓、距離。
しかし、窓が音を通しやすいのは本当なので、二重窓にすれば隣への騒音は片づくと思う方が多いのではないでしょうか。私もそう思っていました。
この記事では、一軒家で電子ドラムを叩いたとき、隣の家に届く音は何で、どう比べれば答えが出るのかを、4つの順に見ていきます。
「何dB下げるか」を数えても、答えは出ない
きっかけは、隣の家の掃除機の音でした。窓を閉めているのに、掃除機が壁に当たる音まで聞こえます。それなら、こちらの電子ドラムの音も向こうに聞こえているはずです。
そこで最初に考えたのが、窓を二重窓にすれば30dB下がり、隣まで5m離れているので15dB下がる、という計算でした。合わせて45dB下がるなら、十分に見えます。
しかしこの計算には、比べる相手がありません。45dB下げた結果は聞こえるのか、聞こえないのか。それを決めるには、隣の家の周りにもともとある音の大きさが要ります。それが暗騒音です。
隣の家の周りには、誰も音を出していなくても昼40〜45dBの音がある。それが暗騒音
暗騒音とは、その場所に常にある音の底の大きさです。数km圏内の道路を走る車、電車、各家の室外機や換気扇が足し合わさったもので、1つ1つは聞き分けられないほど遠くて小さいのに、合計すると底ができます。
だから昼と夜で違います。昼は道路の交通量が夜の数倍で、室外機も動いています。住宅地の奥なら、昼40〜45dB、夜35〜40dBが目安です。40dBは図書館の中と同じ静かさで、人はこれを「音がしている」とは感じません。「うちの周りは音がしない」という印象があっても、暗騒音はそこまでは下がっていません。突出した音が無いだけです。
そして場所で変わります。東京都環境局の調査では、甲州街道の道路端で昼73dB、夜71dBでした(世田谷区上北沢、平成23年度)。幹線道路沿いの家ならこれが底なので、電子ドラムの音はほぼ全部この中に埋もれます。幹線道路から100m奥に入って間に家が挟まると、上の40dB台まで下がります。同じ電子ドラムでも、家がどこにあるかで、届くかどうかの答えが変わります。
隣の家の外壁に届くのはキックの低音だけ。ローランドKD-222で45dB
基準が決まったので、次はこちらが出している音です。電子ドラムの音をヘッドホンで聞いていれば、スピーカーからは何も出ません。残るのは、パッドを叩く打撃音と、ペダルを踏む音です。
私が使っているキックパッドは、ローランドのKD-222です。22インチのシェルにメッシュヘッドを張った構造なので、ビーターがヘッドを押すときに「ボフッ」という低音が出ます。この低音は1mで80dB前後と見ています。ローランドの公表値は無く、推定です。シンバルパッドとメッシュのスネアの打撃音は「タタタ」という中高音で、1mで65〜70dBです。
この2つは、家の外へ出るときの減り方が違います。中高音は1枚窓と5mの距離で35dB以上減り、隣の家の外壁に着くときは20〜30dBです。昼夜どちらの暗騒音も下回ります。低音は1枚窓でほとんど減らず、隣の家の外壁で45dB前後です。昼の暗騒音と同じで、夜の暗騒音を5〜10dB上回ります。ここで言う「隣に届く」は、隣の家の外壁に着く音のことです。そこから家の中に入るときにさらに減り、窓が開いていれば10dB、閉まっていれば20dBほど下がります。家によって違います。
隣の家の外壁まで届く可能性があるのはキックの低音だけです。ここが分かった時点で、対策の話は低音の話になります。
二重窓にしても、低音は止まらず、壁が同じ弱さなら5dBしか変わらない
ここが盲点でした。窓が音を通しやすいのは本当です。45年前のアルミサッシの1枚ガラスは、中音域で20〜25dB、キックの低音域では10〜15dBしか止めません。だから窓を二重窓にすれば、と考えます。
しかし、2つの理由で効きません。1つ目は帯域です。窓の遮音等級は中音域を中心に測った値で、低音では等級線そのものが下がります。二重窓にしても、低音の減り方は10dB前後しか増えません。
2つ目は壁です。1980年代のモルタル外壁にグラスウールと石膏ボードの木造なら、壁が止める量は窓と同じくらいです。音はいちばん弱い経路から抜けるので、窓だけを上げても、壁から抜ける分がそのまま残ります。合計では5dB前後しか変わりません。
防音カーテンも同じで、厚くて重いものでも低音はほぼ止まりません。雨戸だけは、窓との間に空気層ができるので、低音でも数dB上乗せされます。
盲点は、「窓が弱い」が本当であることです。本当だから、窓を直せば済むと思ってしまいます。壁が同じ弱さなら、窓だけ直しても抜け道は残ったままです。
5m離れていれば、届く音はさらに14dB減る。振動は戸建てなら隣の家に届かない
距離は、空気を伝わる音にだけ効きます。1mから5mに離れると約14dB下がります。壁や床を伝わる振動には距離が効かないので、集合住宅ではキックペダルの振動が問題になります。電子ドラムの防音を扱う記事のほとんどが振動の話から入るのは、そのためです。
戸建てで隣と壁を共有していないなら、話が変わります。ペダルの振動は床から基礎、地盤へ行きますが、5m離れた隣の家には実質届きません。私はキックペダルの下にローランドのNE-10を敷いていますが、これは家の中の床振動を止めるもので、隣の家への対策としては要らない位置にあります。
掃除機が壁に当たった音が聞こえていたのも、空気音が窓を通って来ていたものです。振動なら5m先の隣の家には届かないので、どちらかの家の窓が弱い印でした。
昼は電子ドラムの音は暗騒音に埋もれる。それでも心配ならKDQ-8
ここまでを隣の家の外壁で並べます。昼は、KD-222のキックが45dB前後で、暗騒音の40〜45dBと同じです。窓を閉めた隣の室内では20dB台まで落ちて、室内の暗騒音に埋もれます。シンバルもスネアも、その下です。夜は、キックだけが暗騒音を5〜10dB上回り、隣の室内で意識すれば分かるかどうか、という水準になります。
それでも心配なら、窓を直しても効かないので、音源を替えます。ローランドの静音キックパッドKDQ-8は、クッションと二重メッシュの打面で、ローランドは従来のV-Drumsより騒音75%減と公表しています。この75%が音のエネルギーの比なら6dB、体感の比なら20dBにあたり、どちらなのかは公表されていません。構造からは、KD-222のヘッドが空気を押す低音がほぼ消えるので、隣の家の外壁で夜の暗騒音を下回ると見ています。
電子ドラムの防音は、暗騒音から順に見ると答えが出ます。あなたの家の周りの暗騒音が何dBか、スマホの騒音計アプリで一度測ってみてはいかがでしょうか。


