転職は、今では珍しいことではありません。合わない職場から離れるのは、自分を守るための正当な選択でもあります。
しかし、新しい職場に移っても、しばらくすると前と同じような理由で辞めたくなることがあります。職場を変えても同じ壁にぶつかるのは、なぜなのでしょうか?
同じ壁にぶつかるのは、自分という変数が変わらず、最も要素として大きいから
職場が合わなかったのではなく、前の職場で自分に何が足りなかったかを持ち帰らないまま移るから、次の職場でも同じ壁にぶつかります。職場が変わっても、仕事をするのは同じ自分です。前の職場でつまずいた場面は、形を変えて次の職場にも現れます。
辞めた回数が多い人ほど、次の職場も辞めやすいことは、研究でも示されています。米国の若い労働者を追った調査では、その人が過去に何回仕事を辞めたかで、次に辞めるかどうかが説明できました(Judge・Watanabe、1995年、Journal of Management)。繰り返しは、職場の当たり外れだけでは説明しきれないということです。
うまくいかない理由を職場に求めるのは、誰にでも起きる心の動き
では、なぜ自分に足りなかったことを持ち帰れないのでしょうか。うまくいかなかった理由を職場や上司に求めるのは、性格の問題ではなく、多くの人に共通する心の動きです。
人は、うまくいったことは自分の力に、うまくいかなかったことは状況のせいにしやすい傾向があります。もちろん、ある部分ではそのとおりなのでしょう。この傾向は、強さに差はあるものの、年齢や文化を問わずほぼすべての調査で確かめられています(Mezulisら、2004年、Psychological Bulletin)。日本を含むアジアの調査では、弱めに出ています。落ち込みすぎないように、心が自分を守る働きだという見方があります。
ただ、この働きが続くと、次に直すところが見えなくなると私は考えています。「職場が変われば、自分はもっと力を出せる」と思えるのは、裏を返せば「うまくいかないのは自分の問題ではない」と考えている状態です。そう考えている限り、前の職場でのつまずきは「職場が悪かった」で終わり、次の職場で自分が直すことは1つも残りません。
新しい職場で手応えを感じるのは、最初の時期だけのことが多い
次の職場こそ合っている、と感じる理由もあります。転職した直後に仕事の満足度が上がるのは、移った先が自分に合っているからとは限らず、多くの場合は一時的なものです。
管理職を対象にした調査では、自分の意思で転職した人の満足度は、辞める前に下がり、移った直後に上がり、その後また下がっていました(Boswellら、2005年、Journal of Applied Psychology)。
入社して数か月の手応えを、「今度こそ合っている」という証拠にしないことです。満足度が下がってきたときに、前と同じ理由で辞めたくなっていないかを見てください。
次に動く前に、職場への不満と、自分に足りなかったことを分けて書き出す
次の職場で自分が直すことを見つけるには、書き出すのがいちばん確かです。辞めたいと思ったら、退職を伝える前に、職場への不満と、自分に足りなかったことを分けて書き出してください。
やり方は次のとおりです。
- 紙を1枚用意し、縦に線を引いて左右に分ける
- 左の欄に、職場への不満を3つ書く
- 右の欄に、同じ場面で自分に足りなかったことを、不満1つにつき1つずつ書く
- 最後に、前の職場でうまくいったことを1つ書く
たとえば、左に「上司の指導が厳しかった」と書いたら、右には「指摘されたことを、次の週までに直せていなかった」のように書きます。右の欄は、責めるための欄ではありません。次の職場に持っていく荷物の中身を確かめる欄です。
うまくいったことも書くのは、失敗だけを振り返るより、成功も合わせて振り返ったほうが、その後の成績が伸びたという研究があるからです(Ellis・Davidi、2005年、Journal of Applied Psychology)。この研究は兵士の訓練を対象にしたもので、仕事の振り返りでも同じことが起きるかは確かめられていません。それでも、自分の強みを1つ持って移れるかどうかは、次の職場での最初の数か月を変えると思います。
書こうとしても気持ちが沈んで手が止まる、眠れない日が続く、といった状態のときは、書き出しより先に、医師や専門の相談窓口に相談してください。
前向きな転職との違いは、自分に足りなかったことを話せるかどうか
転職そのものが悪いわけではありません。前向きな転職と繰り返しの転職の違いは、前の職場で自分に何が足りなかったかを、自分の言葉で話せるかどうかに出ます。
採用する側から見ると、前の職場の不満しか出てこない人と、自分の課題まで話せる人とでは、次の職場で同じことが起きる見込みがまるで違って見えます。右の欄に書いたことは、そのまま次の面接で話せる内容にもなります。
決して自分を責めるといったことではなく、同じ失敗のパターンを繰り返し、自分が苦しまないためにも必要なプロセスだと考えています。
次に辞めたいと思ったときは、退職を伝える前の週末に30分だけ取って、紙1枚の左右に書き分けてみてはいかがでしょうか。







