「人生は40歳から始まり、それまではただの研究に過ぎない」。心理学者カール・ユングの言葉として、SNSや名言サイトでよく引用される一文です。
しかし、この一文はユングの著作の中に見当たりません。では、言葉の中身まで外れているのでしょうか。
この一文は、誰が言ったかわからないまま、ユングの言葉として広まった
まず、この一文の出どころから確かめます。英語圏では「Life really does begin at forty. Up until then, you are just doing research.」の形で出回っていますが、ユングのどの著作から引いたかを書いた引用はありません。
一文を3つに分けて、それぞれの出どころを並べると、以下のとおりです。
| 一文の部分 | 出どころ |
|---|---|
| 人生は40歳から始まる | アメリカのウォルター・ピトキンが1932年に出した本『Life Begins at Forty』の題名。1933年にアメリカで最も売れたノンフィクションになり、決まり文句として広まった |
| それまではただの研究に過ぎない | わからない |
| 40歳前後で人の心が変わる | ユングの「人生の段階」。1933年に英語で出た『Modern Man in Search of a Soul』に収められている。「35歳から40歳のあいだに、人の心に大きな変化が準備される」と書いている |
私は2年間、この一文をユングの言葉だと思ったまま考えてきました。出どころの違う言葉を、あとから誰かがつなげて一つの名言にしたのだと思います。
「研究期間」とは、仕事や人間関係で、何が自分に合うかを試して確かめる期間
では、誰の言葉かをいったん置くと、「研究期間」は何を指しているのでしょうか。40歳までは、仕事や人間関係で何が自分に合うかを試し、分かったことを集める期間だと読めます。
ユングは「人生の段階」で、人生の前半の意味は、個人として成長すること、社会の中で自分の居場所を作ること、家庭を持って子どもを育てることにある、と書いています。仕事を覚え、人と付き合い、うまくいくこととうまくいかないことを経験する時期です。
心理学者ローラ・カーステンセンらは、残りの時間がたっぷりあると感じている人は、新しい知識や情報を得ることを目的に人と関わる、と論文に書いています(American Psychologist、1999年)。40歳までの過ごし方を「研究」と呼ぶのは、この知識を得る動き方を指していると思います。
40歳からは、試して分かったことを使って、これから続けるものを選び直す
研究期間が終わると、選び直す期間が来ます。40歳からは、それまでに試して分かったことを使い、何を続けるかを選び直す時期になります。
ユングは人生の前半を朝に、後半を午後にたとえて、「人生の午後を、人生の朝の予定表どおりに生きることはできない」と書いています。朝に大きかったものは夕方には小さくなり、朝に正しかったことは夕方には嘘になる、とも続けています。
カーステンセンらによると、人は残りの時間が限られていると感じると、新しい知識を得ることより、気持ちが満たされることを優先するようになります。試して分かったことの中から、自分にとって意味のあるものを選ぶ動き方です。
40歳前後に感じる迷いや不安は、この選び直す時期に入ったことの表れだと思います。
研究から選び直しに切り替わるきっかけは、年齢より、残りの時間が限られていると感じること
では、40歳という年齢そのものに意味はあるのでしょうか。研究から選び直しに切り替わるきっかけは、年齢そのものより、残りの時間が限られていると感じることです。
カーステンセンらは、若い人でも時間が限られた状況に置かれると、年配の人と同じように、気持ちが満たされることを優先すると報告しています。ユングも、変化の時期を「35歳から40歳」と幅を持たせて書いています。
40歳を過ぎてもまだ研究の途中だと感じる人もいれば、30代で選び直しを始める人もいます。どちらも、この言葉の読み方の中に入ります。
これまで試したことを書き出して、続けるものを選ぶ
ここまでをまとめます。「人生40歳までは研究期間」とは、40歳までに試して集めた材料を使い、40歳から続けるものを選び直す、という意味だと読めます。
40歳前後の迷いは、まだ何を続けるかを決めていないところから来ていると思います。これまでに経験した仕事や人との付き合いを一覧にし、これからも続けたいものに印をつけてみてはいかがでしょうか。







