19時に退勤させて、朝は8時前に入館させない。そう決めて運用していても、無申告の残業をするメンバーがごくわずかですが、出てきてしまいます。この状態で労働基準監督署の臨検を受けると、何を見られるのでしょうか。
労基署が臨検で見るのは3つです。労働時間の長さと、その時間を何に記録しているかと、36協定に書いた措置を実際にやったかどうか。そして3つ目は、2026年9月1日から扱いが変わりました。
臨検で最初に開かれるのは勤怠記録である
労働基準監督官には、事業場に臨検して勤怠記録の提出を求め、使用者または労働者に尋問を行う権限があります(労働基準法101条1項)。出すことになるのは、勤怠記録、賃金台帳、労働者名簿、就業規則、36協定の控えです。時間が長いかどうかより先に、その時間が何に記録されているかを見にきます。
どれが最初に開かれるかは、監督官が来た理由で変わります。労働局の年度計画で来る定期監督なら、事業場全体の勤怠記録から入ります。在職者や退職者の申告で来る申告監督なら、監督官は申告の中身を先に持っているので、その労働者の記録から開かれます。労働災害が起きたときの災害時監督では、過労死と過労自殺が重点的に調べられます。是正勧告のあとに直っているかを見に来る再監督もあります。
特別条項があれば、月45時間を超えても違法にはならない
時間の線は、労働基準法36条にあります。線を45時間だと思っていると、引く場所を間違えます。
同条4項の限度時間は、1か月について45時間、1年について360時間です。ただし特別条項を結べば、この限度時間を超えられます。超えられるのは1年に6か月までです(同条5項)。
違法になる線は、同条6項です。時間外労働と休日労働の合計が、1か月で100時間以上になってはいけない。2か月から6か月までのどの組み合わせで平均をとっても、1か月あたり80時間を超えてはいけない。6項に違反すると、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(同法119条1号)。
月80時間には、別の意味があります。時間外労働が1か月80時間を超えた労働者には、その時間数を本人へ通知する義務があります(労働安全衛生規則52条の2第3項)。本人から申し出があれば、医師による面接指導が義務になります(労働安全衛生法66条の8)。
労働時間を把握する義務に、罰則は付いていない
時間の次が、記録です。
労働時間の状況は、客観的な方法で把握しなければなりません(労働安全衛生法66条の8の3)。管理監督者も、裁量労働制の対象者も含みます。除かれるのは高度プロフェッショナル制度の対象者だけです。
この把握義務に、罰則は付いていません。労働安全衛生法119条と120条が罰則の対象として並べている条文のなかに、66条の8の3が入っていないからです。
罰せられるのは、臨検の場です。帳簿書類を出さないこと、虚偽の記載をした帳簿書類を出すことが、30万円以下の罰金にあたります(労働基準法120条4号)。つまり、記録が無いまま臨検を迎えたときに問われるのは、記録を取っていなかったことより、その場で出せなかったことです。
出せないと、もう一段あります。自己申告で時間を集めていて、その時間が入館記録やパソコンの使用時間と著しく食い違っていたら、実態を調べて労働時間を補正しなければなりません(平成29年1月20日 基発0120第3号)。会社の側に記録が無ければ、補正は労働者が出した記録から行われます。
2026年9月1日から、36協定に書いた措置をやったかが見られる
3つ目は、この9月に動きました。厚生労働省が2026年8月19日に発表し、9月1日から実施しています。
これまでは、残業が月45時間を超えていると、時間数だけを見て45時間以内に減らすよう一律に指導していました。この一律の指導をやめました。
かわりに見るのが、45時間を超えた人に会社が何をしたかです。特別条項を結ぶときには、限度時間を超えて働かせる人に何をするかを、あらかじめ36協定に書きます。医師による面接指導、勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、代償休日や特別休暇の付与などから選んで書く欄があります。この欄に書いたことを、その月に実際にやったかどうかが見られます。
法律上の上限は動いていません。1か月45時間・1年360時間は労働基準法36条4項のままです。変わったのは、労基署がどこを見て指導するかです。過重労働による健康障害が生じるおそれが高い場合には引き続き必要な指導を行う、と厚生労働省は書いています。
無申告の残業で、その月の時間外労働が45時間を超えていたとします。会社の勤怠記録にその時間が無くても、監督官が入館記録から拾えば、45時間を超えた月として扱われます。そのとき問われるのは、時間の数字と、36協定に書いたことをその月にやったかどうかの両方です。
直さないと、再監督と送検まで進む
3つを見た結果、違反があると判断されると、是正勧告書が交付されます。期日までに是正報告書を出し、直っていなければ再監督が来ます。悪質だと判断されれば送検されます。
送検した事案と、労働局長が経営トップに指導して公表した事案は、厚生労働省のサイトに掲載されます。掲載期間は公表日からおおむね1年で、1年が経過して最初に到来する月末に削除されます(平成29年3月30日 基発0330第11号)。
令和6年度、長時間労働が疑われる26,512事業場に監督指導が入り、そのうち15.1パーセントが労働時間の把握が不適正だとして指導を受けています。時間の長さで引っかかった事業場とは、別に数えられている数字です。
よくある疑問
Q:労働時間の把握義務に罰則がないなら、記録は無くてもよいのでしょうか。
A:記録が無いこと自体を罰する条文はありません。ただし臨検で帳簿書類を出せなければ、労働基準法120条4号で30万円以下の罰金です。賃金台帳を作っていない場合も、同法120条1号で罰金があります。そして自己申告の時間と客観的な記録が食い違ったときに、会社の側から出せる材料がなくなります。
先月、45時間を超えた人がいた月を開いてみてください。その人の労働時間が何に記録されているかと、36協定に書いた措置をその月に誰へやったかが、その記録から出てくるでしょうか。出てこないなら、労基署が来たときに出てくるのも同じものです。





