情報漏洩事案:GMOの謝罪会見は、なぜ開いたこと自体が悪手だったのか?

GMOインターネットグループは、クラウドサービス「お名前.com デスクトップクラウド」への不正アクセスを10月21日に公表しました。10月24日には、全利用者への見舞金と、不正な取引で生じた損失の補償を第4報で発表しています。そのうえで11月2日、GMOは初めての記者会見を開き、謝罪しました。

会見には、多くの批判が集まりました。会見は開いたこと自体が悪手だったのでしょうか。

目次

悪手は、会見を開いたことそのものだった

まず、会見の前後で何が出ていたかを並べます。利用者に届けるべき謝罪と補償は、会見の前に書面で出そろっていました。GMOは10月22日から29日までの8日間に、お知らせのページで第2報から第16報までを出しています。侵入の経路と再発防止策は、会見でも出ませんでした。

以下のとおりです。

時期出ていたもの
会見の前(10月21日〜30日)不正アクセスの公表、全利用者へ一律5,000円の見舞金、代替環境の6か月無償、不正取引による損失の補償(第4報)。情報を公開された人への特別見舞金(1区分1万〜2万5千円、1公開につき上限300万円。第12報)
会見で初めて出たもの(11月2日)侵入は8月5日で、8月17日には管理サーバーにも侵入されていたこと。約80億円を要求されていたこと。2024年にグループ会社が弱点を指摘していたが、経営トップに上がっていなかったこと。役員報酬の減額(会見の映像)
会見でも出なかったもの最初の侵入経路、悪用された弱点の詳細、再発防止策

会見は映像と画像になり、メディアがこぞって取り上げた

では、会見を開くと何が起きるのかを見ます。会見は文字ではなく映像と画像になるので、インプレッションが取れ、メディアはこぞって取り上げ、人も注目します。書面の第16報までは文字で読まれていましたが、会見は映像として流れました。

会見は、テレビ局やネットのメディアが生中継し、切り分けた映像もYouTubeに次々と上がりました。翌11月3日の朝の時点で、THE PAGEの生中継は49万回、ニコニコニュースの生中継は22万回、TBSとANNの映像はそれぞれ12万回再生されています。主な配信だけで、再生は合わせて100万回を超えました。

映像で広がったのは、漏洩の中身ではなく、会見の中の言葉と表情でした。質疑で繰り返された「命の砂時計」という言葉は、午後6時半ごろにXのトレンドに入りました(ITmedia NEWS)。漏洩の中身を知らない人にまで、会見の悪い印象だけが残ります。

会見の日は、グループの別の漏洩の発表と重なっていた

次に、会見を開いた時期を見ます。会見の日は、グループの別の会社で漏洩の発表が続いている最中でした。10月30日にはGMOグローバルサインが、ログインのサービスで約4万5千人分の情報が漏れたと発表しました。会見と同じ11月2日には、GMOペイメントゲートウェイが顧客情報69件の窃取のおそれを発表しています。

3件の原因は、それぞれ違います。デスクトップクラウドは金銭目的の攻撃、ログインのサービスは約9年続いた保存場所の設定の誤りで、外部の研究者の報告で見つかりました。それでも、外から見れば「GMOで漏洩が続いている」と映る時期に、会見は開かれました。そのため会見は、1件の漏洩を謝る場ではなく、グループ全体の管理を問われる場になりました。

会見で加わったのは、言い訳に聞こえる言葉だった

では、会見で何が語られたのかを見ます。会見で新しく加わった言葉のうち、漏洩の原因に触れたものは、原因をAIや攻撃者の側に置いていて、言い訳に聞こえました。ここからは、事実をもとにした私の解釈です。

会見は3部に分かれ、第2部では約30分にわたり、AIの発展に伴うサイバー犯罪の脅威と、グループの経営理念が語られました。謝罪の会見というより、講演会に近い構成です。情報漏えいが相次ぐ背景は「AIの発展が原因」とされました。会見に先立って、GMOの幹部は、北朝鮮の関与の可能性も含めて調べていると取材に答えていました。そのうえで会見では、攻撃者の手口が素人のように見えるのは「陽動作戦」だという見方が強調されました。

危機対応の研究では、こうした言葉の向きに名前が付いています。Coombs と Holladay は2002年の論文(Management Communication Quarterly、16巻2号)で、組織の責任を小さく見せようとする応答を「弁解(excuse)」と呼んでいます。そして、組織の判断の誤りで起きた危機には、是正措置と全面的な謝罪という、責任を受け止める応答が要るとしています。

今回は、グループ会社が2024年に弱点を指摘していたのに、その指摘が経営トップに上がっていませんでした。責任を受け止める応答が求められる型です。そこへAIや攻撃者の巧妙さを原因に置く言葉を足せば、会社は悪くないと言っているように聞こえます。確かめられていない国の関与の可能性は、公の場で語れば外交の問題にもなりかねません。経営理念やAIの話は、世間の同情にもつながりません。世論の形勢逆転を狙ったとしても、書面で済んでいた謝罪の上に持論を重ねれば、逆効果になります。

健康被害など喫緊の理由が無いなら、会見を開く意味は何か?

次に、会見を開く意味そのものを考えます。会見を開く意味があるのは、健康被害のように、会見でしか間に合わない喫緊の呼びかけがあるときです。食品の回収や薬の副作用のように、今すぐ使うのをやめてもらう必要があるなら、映像で一気に広がることが利用者を守ります。

今回は、利用者にお願いすることは第2報から第16報までの書面で伝わっていました。会見でしか届かない呼びかけはありませんでした。それでも開けば、映像で広がるのは謝罪の中身ではなく、会見の失点です。実際に解約が進んだかどうかの数字は、まだGMOからも報道からも出ていません。

書面での説明は、会見を開くかどうかにかかわらず続ける前提です。そのうえで、謝罪と補償がすでに書面で出ていて、健康被害も無い不祥事なら、会見に何を持って臨むのでしょうか。会見でしか届かない呼びかけも、再発防止策も無いまま開けば、映像で広がるのは失点です。

言い訳に映ることは事前に予測でき、止められなかったのはガバナンスの問題である

では、なぜ悪手になる会見が開かれたのかを、組織の側から見ます。呼びかけることが無い会見で、自分たちの言いたいことを言えば言い訳に映る。この構造は、会見を開く前に予測できました。補償と謝罪は書面で出ていて、再発防止策はまだ無い。その状態で会見を開けば、語れることは経緯と考え方だけになるからです。

予測できたのに会見が開かれたなら、それは広報の技術ではなく、ガバナンスの問題です。会見では、グループ会社の弱点の指摘が経営トップに上がらず、どの指摘をトップに上げるかの基準も無かったことが説明されました(会見の映像)。下からの指摘が上に届かない組織では、会見の開き方や構成に、開く前に異を唱える仕組みも働きにくいと私は考えます。弱点の指摘を生かせなかったことと、言い訳に映る会見を止められなかったことは、同じ形をしています。

会見を開いたこと自体が悪手だったのは、謝罪と補償が書面で済んでいたのに、映像で広がる場で言い訳に聞こえる言葉を重ね、失点とインプレッションだけを増やしたからです。そのうえで、それを開く前に止められなかったのは、ガバナンスの問題だと私は考えます。

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