ドラムスティックの太さと長さで変わるのは、重さ、振りにくさ、音量、先端が届く距離の4つです。Pearlの4本で計算すると、同じ振りで出る音量の差は、いちばん大きい組み合わせでも1.3dBでした。人が音量の違いに気づくかどうかの境目です。
しかし、太いスティックのほうが音が大きい、とよく言われます。細くて短いスティックを選ぶと、何を失い、何を得るのでしょうか。
4本の寸法から、重さ、振りにくさ、音量、速さの順に数式にしていきます。
比べるのは、Pearlの7NH・103NH・110NH・106NH
比べるのは、Pearlのナチュラルシリーズ(ヒッコリー、塗装なし)の4本です。材も仕上げも同じなので、違いは太さと長さだけです。
| モデル | 太さ | 長さ |
|---|---|---|
| 7NH | 13mm | 397mm |
| 103NH | 14mm | 384mm |
| 110NH | 14.5mm | 398mm |
| 106NH | 15mm | 405mm |
スティックの太さは5A、7A、5Bといった呼び名で示されることが多く、島村楽器の目安では、5Aが太さ14〜15mm・長さ390〜410mm、7Aが太さ13〜14mm・長さ350〜410mmです。
ここからの計算では、4本を同じ形の棒として扱います。チップとテーパーの形の違いは入れていません。103NHを1として、ほかの3本がその何倍かで比べます。
スティックの重さは、太さの2乗×長さで決まる
同じ材なら、重さは体積で決まります。体積は断面積×長さで、断面積は太さの2乗に比例します。だから重さは、太さの2乗×長さに比例します。
| モデル | 重さ(103NHを1とした比) |
|---|---|
| 7NH | 0.89 |
| 103NH | 1.00 |
| 110NH | 1.11 |
| 106NH | 1.21 |
太さを0.5mm増やすと、長さが同じでも重さは約7%増えます。14mmから14.5mmでも、14.5mmから15mmでも同じくらいです。
振りにくさは、太さの2乗×長さの3乗で決まる
振りやすさは、スティックの重さだけでは決まりません。手首を軸にしてスティックを回すとき、同じ重さでも、重さが手から遠くにあるほど振りにくくなります。この振りにくさを、物理では慣性モーメントと呼びます。慣性モーメントは、重さ×長さの2乗に比例します。重さが太さの2乗×長さなので、振りにくさは太さの2乗×長さの3乗に比例します。
| モデル | 重さの比 | 振りにくさの比 |
|---|---|---|
| 7NH | 0.89 | 0.95 |
| 103NH | 1.00 | 1.00 |
| 110NH | 1.11 | 1.19 |
| 106NH | 1.21 | 1.35 |
長さが3乗で効くので、長さの差が太さの差より大きく表に出ます。7NHは103NHより1mm細いのに、13mm長いので、振りにくさは103NHと5%しか違いません。反対に103NHは、太さのわりに軽く振れます。
そのかわり、長いスティックは先端が遠くまで届きます。103NHと106NHでは、届く距離が21mm違います。セットのタムやシンバルを遠くに置いている人ほど、長さで得るものがあります。
同じ速さで振ったとき、太く長いスティックで増える音量は1.3dBまで
打面に入るエネルギーは、回っているスティックの勢いの大きさで決まります。式にすると、2分の1×慣性モーメント×手首の回る速さの2乗です。手首を同じ速さで振ると、打面に入るエネルギーは振りにくさと同じ比になります。
エネルギーの比をデシベルに直すと、次のとおりです。
| モデル | 打面に入るエネルギーの比 | 103NHとの音量の差 |
|---|---|---|
| 7NH | 0.95 | −0.2dB |
| 103NH | 1.00 | 0dB |
| 110NH | 1.19 | +0.8dB |
| 106NH | 1.35 | +1.3dB |
人が音の大きさの違いに気づく幅は、およそ1dBです(ブリタニカ百科事典)。103NHと110NHの差0.8dBはその幅より小さく、106NHとの差1.3dBは、気づくかどうかの境目になります。
そして、この差は、スティックがくれたものではありません。振りにくさが1.35倍なら、同じ速さで振るのに入れる力も1.35倍になっています。太いスティックで増えた音量は、振った本人が多く入れた力の分です。
スティックを替えても、音の波形はほとんど変わらなかった
太いスティックは音が太い、とも言われます。しかし、スティックの違いを測った研究では、差はほとんど出ていません。
スウェーデン王立工科大学(KTH)のAndreas Wagnerさんは2006年の修士論文で、Vic FirthとPremierのスティックでスネアを叩き、音と打面の動きを記録しました。スティックを替えても、記録した波形の形はほとんど変わりませんでした。スティックの振動が音色を変える、という見立ても、測れる証拠は見つからなかったと書いています。
波形は、音の大きさが時間とともにどう変わるかを描いた形です。音が重い・軽いと聴こえる違いも、この形に表れます。比べた2本は、Vic Firthの5B(太さ15mm、53g)とPremierのKP2(56g)で、重さの差は約6%でした。103NHと110NHの重さの差(約11%)より小さい差での比較です。
太い・細いの違いは、聴いている人の耳より、叩いている本人の手に出るのだと思います。
BPM240では、振りにくいスティックほど振り遅れる
速い曲では、1打に使える時間が限られています。決まった時間で同じだけ振り上げて振り下ろすには、振りにくさに比例した力が要ります。106NHは103NHより、同じ振りに35%多く力が要ります。
私は110NHで、BPM240の8分のハイハットに追いつけませんでした。103NHなら追いつけます。振りにくさの差は19%で、その分の力が足りなかったのだと考えています。
速さに余裕がない曲では、重いスティックで振りが縮みます。振りが縮むと手首の速さが落ちるので、重さで増やしたはずの音量も、かえって下がります。
身体全体を使って叩く人は、軽いスティックを速く振って音量を出せる
打面に入るエネルギーは、振りにくさと、手首の回る速さの2乗を掛けた値です。重さで稼がなくても、速さで稼げます。身体全体を使って速く振れる人ほど、軽いスティックで同じ音量を出せると思います。
リズム&ドラム・マガジン2026年10月号の特集では、13mm×397mmの細いスティックを使う遠海准司さんが「パワーはショットスピードでカバー」と答えています。HAGANEのJUNNAさんも、7NHに替えて、無駄な力に頼らずに音量を出せるようになり、ブラストビートと高速のツーバスを組み合わせられるようになったと書いています。
リズムにのれるかどうかは、数式では分からない
数式で分かるのは、4本の間で音量の差が小さいことと、長く太いほど振りにくいことまでです。残るのは、叩いている本人の手応えです。どのスティックでリズムにのって叩けるかは、そのテンポで振り遅れない範囲で、手応えがいちばん合うものです。
プロの答えも分かれています。藤原佑介さんは、速い曲でも重さがあるほうが力を抜いて叩けると答えています。DRADNATSのKENTARO SASAMORIさんは、速いビートのために15mmにしたところ疲れやすく、14.7mm×412mmを作ってもらったそうです。
私は、速い曲と細かいスティックワークでは103NHで、速さに余裕がある曲では110NHを使っています。4本の数字を手元に置いて、自分のテンポで振り遅れない1本から試してみてはいかがでしょうか。
よくある疑問
Q:太いスティックのほうが、音は大きくなりますか。
A:同じ振りなら大きくなりますが、差は小さいです。Pearlの103NHと106NHで約1.3dBで、人が気づくかどうかの境目です。増えた分は、振るために多く入れた力の分です。
Q:長さと太さでは、どちらが振りやすさに効きますか。
A:長さです。振りにくさは太さの2乗×長さの3乗に比例するので、同じ割合で変えるなら、長さのほうが大きく効きます。







