電子ドラムのモジュールを買い替えようと、3機種のカタログを並べる。V71は高い。V31は安い。この価格差は、きっと音の差だろう。そう受け取った方は多いのではないでしょうか。
よく言われるのは、上位機ほど音が良い、下位機は入門者向け、という説明です。楽器の世界では、たいていそれが当たっています。
ただ、この3機種については当たっていません。この記事が立てる問いはひとつです。V71とV51とV31で、鳴る音は本当に違うのでしょうか。
3機種は同じ音が鳴る
違いません。
ローランド(Roland)は公式の製品説明で、V31について「V71と同じ内部エンジンを搭載し、同一のサウンドと拡張パスを提供する」と書いています。V51にもまったく同じ説明が付いています。音源はDrum Workshop(DW)との共同開発で、幾重にもサンプルを重ねたライブラリです。
数字も揃っています。3機種とも、ドラムキットが200(うちプリセットが70以上)、インストゥルメントが1,000以上。プリセットの中身も共通です。
このライブラリは、もともと上位機のために作られました。V-Drums 7シリーズとV71が発表されたのは2024年9月26日です。V51とV31の発表は、その約1年後にあたる2025年10月16日でした。上位機で作った音源が、そのまま下位の2機種へ降りてきた形になります。
違いは、どのパッドをどうつなげるかに出る
では、何が違うのか。背面の端子です。
3機種の差は、入力の数と出力の数、そして手元で触れるつまみの数に集まっています。音を作る部分ではなく、音の出入り口の部分に差が付けられています。
V71は個別ジャック、V51とV31は1本のハーネス
V71には、アナログのトリガー入力が14系統あります。TRSフォーンの個別ジャックが、背面に14本並んでいる形です。
V51とV31は、個別ジャックの代わりにDB-25という多芯のコネクターを1つ持っています。ここにキック、スネア、タム3つ、ハイハット、クラッシュ1、ライド、ライドベル、ハイハットコントロールが通ります。専用のハーネスケーブル1本で、まとめてつなぐ方式です。
DB-25とは別に、V51はTRSの追加入力を4系統、V31は2系統持っています。デジタルパッド用の入力は、V71とV51が3系統、V31が1系統です。ここが最初の分かれ目になります。デジタルのスネア、ライド、ハイハットを3つとも入れたいなら、V31では足りません。
デジタルパッドを挿すと、アナログの口はその分ふさがる
入力の数を足し算するとき、見落としやすい注記があります。
公式仕様のトリガー入力の欄には、3機種とも「Exclusion use with digital pad」と書かれています。デジタルパッドとの排他使用、という意味です。V71の14系統にも、V51とV31のDB-25にも、同じ注記が付いています。つまり、デジタルのスネアを挿せば、アナログ側のスネア入力は使えません。デジタル3系統とアナログ14系統を足して17にはならない、ということです。
ここから先は、仕様書だけでは決まりません。どの系統がどの順にふさがるのかまでは、公式の表に書かれていないからです。パッドを詰めて組む方は、実機で確かめてから配置を決めることになります。
音をどこで鳴らすかが決まると、必要な出力が決まる
出力の差は、入力よりもはっきりしています。
V71は、マスター出力をTRSとXLRの両方に持ち、どちらもバランス接続です。加えて、バランスのダイレクトアウトが8系統あります。V51はマスター出力がアンバランスのTRSで、ダイレクトアウトはアンバランスの2系統です。V31にダイレクトアウトはありません。マスター出力だけです。
ダイレクトアウトは、キックやスネアを個別に外へ出すための口です。ライブでPAへ別々に送る、外部のミキサーで混ぜる、といった場面で使います。バランス接続は、長いケーブルを引いたときにノイズが乗りにくい方式です。どちらもステージや現場のための装備で、家でヘッドフォンをつないで叩くなら差は出ません。
USB録音チャンネルは、モジュールの音を録る人にだけ効く
カタログにUSB録音チャンネルという項目があります。これは、モジュールをUSBオーディオインターフェースとしてパソコンにつないだとき、同時に送れる独立した音声の本数です。
ステレオで2本、ではありません。キック、スネア、各タム、ハイハット、各シンバルを、それぞれ別のトラックとして流し込める。そういう数字です。全部をばらして録っておけば、あとから音量を混ぜ直すことも、音色を差し替えることもできます。
V71が32チャンネル、V51が32チャンネル、V31が30チャンネル。再生は3機種とも32です。V71とV51は同じ数で、V31との差は2本しかありません。ただし、この数字が効くのは、モジュールの中で鳴った音を録るときだけです。パッドの信号だけをパソコンへ送り、パソコン側のソフト音源で鳴らす使い方なら、モジュールの音声出力そのものを使いません。その場合、この項目は関係がなくなります。
フェーダーは、叩きながら音量を触る人にだけ効く
フェーダーの数も、3機種で違います。
V71には8本あります。キック、スネア、タム、ハイハット、クラッシュ、ライド、AUX、アンビエンス。V51には6本で、クラッシュとライドがシンバルの1本にまとめられています。V31にフェーダーはありません。
効くのは、叩きながら音量を触る場面です。ステージで内蔵音を出しているとき、ヘッドフォンの中の混ざり具合をその場で直したいとき。手が届く位置に物理のつまみがあることに意味があります。逆に、録ってから直す使い方なら、バランスは後からいくらでも変えられます。この場合、フェーダーの実益は小さくなります。
空間を作る道具は、3機種とも最初から入っている
上位機を待てば空間の作り込みができるようになる、と考える必要はありません。すでに全機種に入っています。
公式のエフェクト一覧を見ると、3機種とも同じ項目が並んでいます。レイヤーごとのトランジェントとイコライザー、パッドごとのイコライザーとコンプレッサー、オーバーヘッド・マイク・シミュレーター、ルーム/リバーブ/キット・レゾナンス。Rolandはこれを、実測データにもとづくアンビエンス機能(convolution-based ambience tools)と説明しています。
コンボリューションとは、実際の空間で測った響きのデータを、音に掛け合わせる方式です。マイクが近い演奏位置の生々しさから、広い部屋の空気感まで、この機能で作れます。V31にも同じものが載っています。音を作る部分では、やはり差が付けられていません。
空間を二か所で作ると、音はかえって遠ざかる
ここからは私の解釈です。仕様上の制約ではなく、運用上の判断として読んでください。
モジュールの中で部屋の響きを作り込み、そのうえでパソコン側のリバーブをもう一段かけると、距離感が二重になります。モジュールが作った距離と、プラグインが作った距離が重なるからです。ハードウェアと音を一体にしたくて内蔵音源を選んだのに、その一体感がかえって崩れる。そういう結果になりやすいと考えています。
だから空間は、どちらか一方に持たせるほうが素直です。モジュールで作り込むなら、後段のリバーブは基本的に切っておく。逆にプラグインで空間を作りたい曲では、モジュール側のアンビエンスを薄くして、近い音で出す。両方を厚くかけて足し算する運用は、避けたほうが安全だと思います。
パッドを新しくしても、音は変わらない
同じ理屈は、パッドの買い替えにも当てはまります。
音を鳴らしているのはモジュールです。したがって、同じモジュールに挿す限り、パッドが新しくても古くても、出てくる音は同じになります。ここで比べる相手を間違えないでください。従来のデジタル・スネアはPD-140DS、新世代のものはPD-14DSXです。型番が似ていますが、別の製品です。
公式仕様で確認できる差は、ストレイナーとフープである
PD-14DSXには、ストレイナーが付きました。公式仕様には、ストレイナー・レバー、ストレイナー・ノブ、ストレイナー・スイッチ、ストレイナー・インジケーターと並んでいます。生のスネアと同じように、レバーひとつでスナッピーを外し、ノブで張りを変えられます。PD-140DSの仕様表に、この項目はありません。
フープも変わりました。PD-14DSXはトリプルフランジ・フープで、リムの高さがアコースティックのスネアと同じだと公式が書いています。スティックを寝かせて構えられるので、リムショットの角度が自然になります。シェルはPD-140DSがスチール、PD-14DSXは素材の記載がありません。外形も380×380×160ミリから410×378×150ミリへ変わっています。
一方で、センサーの記載は両者でまったく同じです。マルチ・エレメント・センサー・システム、ヘッド・センサー、位置センサー3、リム・センサー、クロススティック・センサー3。この表記は一字も違いません。新型のほうがセンサーが良くなった、という説明は、公式仕様からは裏付けが取れないということです。反応が良くなったという声はありますが、モジュール側の世代差と切り分けられていません。
よくある疑問
Q:V31を買って、あとから物足りなくなったらどうなりますか。
A:音では物足りなくなりません。3機種の音源は同じだからです。足りなくなるとすれば、つなぐ口の数です。パッドはそのまま流用できるので、そのときはモジュールだけを買い足すか、買い替えることになります。
Q:デジタルパッドを持っていない場合、V71を選ぶ意味はありますか。
A:アナログのパッドを14系統ぶん並べたい方には意味があります。個別のバランス出力を8系統使う方にも意味があります。どちらも要らないのであれば、V71を選ぶ理由は音以外の場所にあることになります。
Q:パソコンのソフト音源を使うなら、どれを買っても同じですか。
A:音については同じです。パッドの信号を送るだけなので、モジュールの音源も、出力も、フェーダーも使いません。この場合に見るべき数字は、つなげるパッドの数だけになります。
判断基準は、音をどこで確定させるか
電子ドラムの3機種を並べて悩むとき、比べるべきは価格でも音でもありません。自分の音が、どこで最終的に決まっているかです。
モジュールの中で音を決めて、そのまま外へ出すのなら、出力の質と数が効きます。ステージで個別に送るならV71です。モジュールの中で音を決めて、パソコンで録るのなら、USBのチャンネル数が効きます。ここはV51でもV31でも足ります。パッドの信号だけを送り、パソコン側のソフト音源で鳴らすのなら、音に関する項目はすべて無関係になります。見るのは入力の数だけです。
入力が足りないという理由だけで上位機へ行く前に、もうひとつ道があります。安い機種を増設用としてもう1台足す方法です。音源は3機種とも同じなので、2台に分けても音は揃います。
あなたの音は、どこで決まっていますか。そこが決まれば、選ぶ機種はもう決まっています。



