電子ドラムの騒音を測ると、手元で70dBです。ここから引く場所は3つあります。自分の家の窓、隣の家までの距離、相手の家の壁。
しかし、この3回を引き終わっても、まだ答えは出ません。引いた先に、1つだけ落ちない音が残るからです。
この記事では、70dBを3回引いて、隣の家の室内で何dBになるかを出します。そのうえで、残ったその音が何の音なのかを見ます。
叩いている本人のところで70dB。ローランドの実測では58.9dB
シンバルとタムを叩いて手元で測ると、平均70dB、いちばん強く当たったときで80dBでした。バスドラムも70dBで、どれもローランドのKD-222と電子シンバルのCY-16R-Tを叩いたときの値になります。
ローランドは公式に、VQD106の打撃音を実測で出しています。ドライヤーの72dBに対して58.9dB。私のキットでVQDを使って測ると65dBでした。
ただし、これは全部、音源から1mほどの位置で測った値です。隣の家の人が聞く大きさではありません。音は、出た場所から相手の耳までのあいだに減っていきます。
音が小さくなる場所は3つ。窓と距離と相手の家の壁
では、どこで減るのか。音が隣の家の室内に届くまでに、大きさが減る場所は3つあります。
1つ目は自分の家の窓で、閉めた状態で20dB減ります。築45年の木造でアルミサッシに単板ガラスだと、このくらいになります。
2つ目は隣の家までの距離で、5m離れていると14dB減ります。距離が2倍になるごとに6dB減る計算です。
3つ目は相手の家の壁で、同じ木造なら25dB減ります。
音源での70dBから、20と14と25を順に引くと11dBになります。相手の室内では反射で数dB戻るので、隣の家の室内で17dB前後です。ささやき声より小さい値になります。
隣の家の中まで届くのは、キックの低音だけ
ただし、この引き算は中高音の話です。3回引くと、1kHz以上の音は隣の家の室内でマイナスになります。届きません。
残るのは低い音で、壁もガラスも周波数が低いほど通してしまいます。木造の壁が中高音で25dB止めるとして、63Hzでは15dB程度しか止まりません。
帯域ごとに計算し直すと、隣の家の室内に届くのは63Hzで28dB、125Hzで20dB、250Hz以上はゼロかマイナスでした。中高音は消えて、キックの低音だけが残ります。
キックの低音は、床が増幅させている
では、その低音はどこで大きくなっているのか。電子ドラムの音源はヘッドホンへ行っているので、パッドが空気に出しているのは打撃音だけです。スティックが当たる音で、中高音になります。
低音は、別の経路で作られています。ペダルを踏み込むと、その力の反作用でキック本体が床を押します。木造の床は面ごと動きます。畳数枚分の板が動けば、それだけの空気を押すことになります。床がスピーカーの振動板と同じ働きをしている状態です。
つまり、床が低音を増幅させています。電子ドラム本体は、低音をほとんど出していません。
防振と遮音と吸音は、全く別のものである
床が増幅させているのなら、効くのは床と本体の間を切ることです。ここで、売り場に並ぶものが3つに分かれます。防振と遮音と吸音は、「防音」の一語でまとめて売られていますが、止めているものが別々です。
防振は、床と本体の間に入って、床へ伝わる力を止めます。ローランドのノイズ・イーターNE-10がペダル用、NE-1がスタンドの脚用です。同じ目的の製品をヤマハで探しましたが、ペダル用の防振ボードは見つかりませんでした。
遮音は、壁と窓で空気を伝わる音を止めるもので、内窓の工事がこれにあたります。ただし、壁が窓より弱い家では効きません。私の家で計算すると、窓だけを30dBへ上げても全体は2.5dBしか上がりませんでした。人が音の変化に気づく境目のおよそ3dBに届きません。内窓は腰高窓で3から6万円、掃き出し窓で5から10万円かかります。
吸音は、厚手のカーテンや吸音材で部屋の中の反射を減らします。外へ出る音は、カーテンと床のカーペットを全部足しても2.5dBほどしか減りませんでした。
床へ伝わる力そのものを断てるのは、防振だけです。
集合住宅は床にお金を使い、戸建ては窓を閉めるだけでいい
その防振が要るかどうかは、住まいの形で変わります。床の下に人がいるかどうかで、買うものが入れ替わります。
集合住宅は床の下が他人の部屋なので、踏み込んだ力がそのまま下の階へ伝わります。ローランドが2階でVQD106を叩いて1階で測ると、平均29.4dB届いていました。隣の家より近く、あいだに壁も距離もありません。だから防振が要ります。
戸建ては床の下が自分の部屋なので、振動が落ちる先が自分の家の中で止まります。隣の家へ行くには基礎と地盤を通ることになりますが、5m離れて基礎が別なら、ドラム程度のエネルギーは地盤で消えます。だから、窓を閉めるだけで足ります。
28dBは、国の目安を19dB下回る
残った63Hzの28dBが大きいのかどうかは、比べる相手を置くと決まります。
1つ目は、国が出している目安です。環境省の「低周波音問題対応の手引書」(平成16年6月)に心身に係る苦情に関する参照値があり、63Hzで47dBです。規制基準や要請限度とは異なる、という但し書きが付いています。隣の家の室内に届く28dBは、これを19dB下回ります。
2つ目は、耳の側の事情です。人の耳は低い音に鈍く、同じdBでも高い音より小さく聞こえます。騒音計のA特性が低音を大きく削るのは、この性質に合わせた補正です。だから63Hzの28dBは、同じ28dBでも1kHzの音よりずっと小さく感じられます。
よくある疑問
Q:防音カーテンを掛ければ、隣への音は減りますか。
A:1dB前後です。カーテンは吸音材なので、部屋の中の反射を減らします。窓枠との隙間から音が回り込むので、窓の遮音は上がりません。部屋の中で聞く音はすっきりしますが、外へ出る量はほとんど変わりません。
Q:二重窓にすれば解決しますか。
A:壁が窓より弱い家では、変わりません。窓に払うのが正しくなるのは、壁のほうが窓より良い場合になります。まず自分の家の外壁が何でできているかを見てください。
Q:スマホの騒音計アプリで測れますか。
A:測れますが、A特性のままだとキックの帯域が数字に出ません。C特性かZ特性が選べるアプリを使ってください。NIOSH Sound Level Meterは無料で、内蔵マイクの精度が論文で検証されています。iPhoneのみです。
Q:雨戸を閉めるのは効きますか。
A:窓を通る音が5dBほど減ります。窓の外にもう一枚の面ができて、間に空気層ができるので、原理は二重窓と同じです。ただしレールと戸袋に隙間があるぶん、二重窓ほどは稼げません。費用がかからないので、順番としては先に試す価値があります。
70dBという数字を見て不安になっていたなら、自分の家の窓から隣の家の壁まで何メートルあるかを、一度測ってみてはいかがでしょうか。引き算はそこから始まります。


