睡眠圧とは、起きている間に高まり、眠ると下がる「眠りへの圧力」のことです。睡眠の研究では「睡眠恒常性」と呼ばれています。
AIエージェントから届く確認に一日中答え続けた日は、身体をほとんど動かしていなくても、夕方には頭がフラフラになることがあります。AIエージェントと働く時代に、なぜ睡眠圧が脳の回復で重要になるのでしょうか。
睡眠圧は、起きていた時間と、昼間に触れた新奇性で高さが変わる
まず、睡眠圧の高さを決めるものから見ます。睡眠圧は起きている時間が長いほど高まり、そのうえで、昼間にどれだけ新しいことに触れたか(新奇性)によっても、その夜の眠りの深さが変わります。
2004年に学術誌『Nature』に載ったHuberらの研究では、参加者が昼間に新しい動作を覚える課題に取り組むと、その夜、課題に使った脳の部位で、深い睡眠のときに出るゆっくりした脳波(徐波)が強くなりました。昼間に新しいことを覚えるのに使った脳の部位は、その夜に深く眠ります。 その部位の徐波が強かった人ほど、翌朝の課題の成績も上がっていました。
AIエージェントからの確認に答え続けて頭がフラフラになるのは、新奇性で脳の睡眠圧が上がるから
この結果を、AIエージェントと働く1日に当てはめます。AIエージェントを仕事で使うと、確認が届くたびに、内容を読んで、進めるか直すかを決めることになります。届くのは毎回違う問題なので、身体は座ったままでも、脳は新しい判断を続けています。
私も、AIエージェントから届く確認に答え続けた日は、夕方には頭がフラフラになります。それでも身体は疲れていません。
AIエージェントから届く確認は、毎回違う新しい問題です。新しいことに使った脳の部位ほどその夜に深く眠るので、確認に答え続けた日の夕方のフラフラは、判断に使った脳の部位で睡眠圧が上がっている状態です。 身体が疲れていないのは、睡眠圧が上がっているのが脳の側だからです。
散歩で注意力は戻るが、眠りの代わりにはならない
では、頭がフラフラのときに身体を動かせば回復するのでしょうか。身体を動かすと、注意力は戻ります。2008年に学術誌『Psychological Science』に載ったBermanらの研究では、公園の中を50分ほど歩いた人は、市街地を歩いた人より、注意力を測るテストの成績が上がりました。
ただ、散歩で戻るのは注意力までです。AIエージェント時代に睡眠圧が重要になるのは、判断で上がった脳の睡眠圧を下げて回復させられるのが、眠ることだけだからです。 2003年に学術誌『Sleep』に載ったVan Dongenらの研究では、1日6時間しか寝ない生活を14日続けた人は、注意力と作業記憶のテストの成績が、一晩徹夜した人と同じくらいまで落ちました。しかも本人たちは、そこまで眠いとは感じていませんでした。
睡眠圧を夜まで残すために、やることは3つ
昼間に高まった睡眠圧は、途中で眠ると下がります。夜の眠りまで残すためにやることは、以下のとおりです。
| やること | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 夜は続けて寝る | 6時間以上 | 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が目安として示している |
| 昼寝は短くする | 午後3時前までに30分以内 | 厚生労働省の解説書「良い目覚めは良い眠りから」が効果的としている |
| 日中に新しいことに触れ、身体を動かす | 新しいことに取り組み、歩く | 新しいことに使った部位ほど深く眠り(Huberら)、歩くと注意力が戻る(Bermanら) |
昼寝を短くして、昼間に高まった睡眠圧を夜の眠りまで残します。 私も、寝る時間を2回に分ける案をやめて、夜に続けて寝ると決めました。
よくある疑問
Q:眠りはじめが深いなら、2回に分けて寝れば、深い睡眠も2回とれますか。
A:とれません。寝始めに深い睡眠が多いのは、それまでに高まった睡眠圧がそこで下がるからです。1回目の睡眠で睡眠圧が下がるので、2回目の寝始めは深い睡眠が少なくなります。
Q:1日中家でゴロゴロしていても、夜の眠りは変わりませんか。
A:変わります。起きている時間が同じでも、新しいことに触れない日は、その夜に深く眠る脳の部位が少なくなります。
一晩の睡眠で回復できる疲れには限りがあるので、判断の量そのものも減らす
最後に、睡眠だけで足りるかを考えます。AIエージェントに任せられる仕事は、いま課長から部長の間の水準にあります。この先1〜2年で、部長、事業部長、社長の水準へ上がっていきます。そのぶん、使う人に届く判断も増えます。一晩の睡眠で回復できる脳の疲れには限りがあり、脳は1つしかないので、睡眠だけでは追いつきません。
夜にまとめて眠ることと、判断の量そのものを減らすことの両方が要ります。 判断の量を減らすには、今のうちから、自分の分身となるAIエージェントを、メンバー、課長、部長、事業部長として育てておく必要があります。
まずは今夜、寝る時刻と起きる時刻を決めて、途中で分けずに続けて眠ってみてはいかがでしょうか。







