RTAは、ゲームを始めてからクリアするまでの実際の時間を競う遊び方です。最速のルートは、世界中の走者が見つけた技を持ち寄って作られています。走者は、見つけた技を独り占めせずに公開しています。記録を縮めることそのものには、報酬が付きません。
お金にならないのに、なぜこのようなコミュニティがあるのでしょうか?
RTAのようなコミュニティがあるのは、走者にお金以外の動機がそろっているから
人は、自分で選んでやっていて、上達が分かり、仲間とつながっていると、報酬が無くても自分から続けると考えられています。
心理学者のRyanとDeciは、この考え方を自己決定理論としてまとめました(2000年の論文)。人には有能さ、自律性、関係性という3つの心理的な欲求があり、それが満たされると自分から動く意欲が高まる、という理論です。
RTAの走者に当てはめると、以下のとおりです。
| 欲求 | 意味 | RTAの走者では |
|---|---|---|
| 自律性 | 自分で選んでやっている | どのゲームを走るか、どこまで記録を詰めるかを、自分で決める |
| 有能さ | 上達していると分かる | 区間ごとのタイムが記録に残り、縮んだかどうかが数字で分かる |
| 関係性 | 仲間とつながっている | 同じゲームを走る人たちと、記録やルートの情報をやりとりする |
RTAの走者は、1つの遊び方の中で3つの欲求を同時に満たしているのだと思います。
約束された報酬が無いので、走者の続けたい気持ちが減りにくい
お金にならない活動は、続かないように思えます。実際には、好きでやっていたことに報酬をあらかじめ約束すると、そのあと自分から取り組む時間が減ったという実験があります。
スタンフォード大学のLepperらは1973年、絵を描くのが好きな保育園の子ども51人を3つの組に分け、1〜2週間後の自由時間に絵を描いていた時間の割合を比べました(Journal of Personality and Social Psychology 28巻1号)。以下のとおりです。
| 組 | 自由時間に絵を描いていた時間の割合 |
|---|---|
| 描けば賞状がもらえると先に伝えた組 | 約8.6% |
| 描いたあとに思いがけず賞状を渡した組 | 約18.1% |
| 何も渡さなかった組 | 約16.7% |
報酬を約束されると、自分から取り組む時間が減るこの現象は、心理学ではアンダーマイニング効果と呼ばれます。RTAの走者は、記録を縮めても報酬を約束されていないので、続けたい気持ちが減りにくいのだと思います。
走者が見つけた技を公開しても、記録で不利になりにくい
走者が報酬なしで技を公開するのにも、理由があります。RTAの記録を決めるのは、その技を本番で実際に成功させられるかどうかです。だから技を公開しても、公開した走者が記録で不利になりにくい仕組みになっています。
カナダのコンコルディア大学のScully-Blakerは、2016年の修士論文でスピードラン(RTAの英語圏での呼び名)のコミュニティを調べました。新しい技が見つかるとすぐにSNSや掲示板で共有され、コミュニティ全体で再現の方法が確かめられること、発見を隠すことが強く非難されることが書かれています。大会で有利になるように発見を表に出さないeスポーツの傾向とも比べています。
技を公開すると、ほかの走者も同じ技を練習でき、ルート全体が速くなります。見つけた走者は、仲間から認められます。公開することが、有能さと関係性の2つの欲求を同時に満たしているのだと思います。
お金にならない活動を支えているのは、RTAの外でも同じ3つの欲求だと思う
報酬が無くても長く続いている活動には、RTAと同じように、自分で選べること、上達が分かること、仲間とつながれることがそろっていると思います。
楽器の練習、草野球、地域の清掃活動。どれも、続けている人は自分で選んで参加していて、上達や成果が目に見え、同じことをする仲間がいるはずです。
あなたが報酬なしで続けていることには、3つのうちどれがそろっているでしょうか。







