一般人がオーディション番組でアイドルになると、背負うものは3つあります。
しかし、背負うものが重かったことで、人を傷つけたことまで説明できるのでしょうか。
ここでは、深層心理学の考え方で、その3つを順に説明します。猪俣さん個人の心の中を言い当てる記事ではありません。突然注目される側に回った人に、一般に起きることを書きます。
timelesz猪俣周杜さんとは。加入から契約解除までの経緯
猪俣周杜さんは、Netflixで配信されたオーディション番組「timelesz project」(タイプロ)から、2025年2月にtimeleszに加入した人です。2001年8月17日生まれ、茨城県出身で、書類審査の応募1万8922件の中から選ばれました。
加入から契約解除までの流れは、以下のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年4月1日 | Sexy Zoneがtimeleszに改名し、新メンバーのオーディションを告知 |
| 2024年9月 | オーディションの過程を追う番組の配信がNetflixで始まる |
| 2025年2月15日 | 猪俣さんを含む新メンバー5人が発表され、timeleszは8人体制になる |
| 2026年9月 | 女性の顔を殴るなどしてけがをさせた疑いで逮捕される |
| 2026年9月25日 | 釈放される |
| 2026年9月30日 | STARTO ENTERTAINMENTが、9月29日の取締役会の決定にもとづき、専属契約を解除。理由は「専属契約上の重大な違反」 |
| 2026年10月1日 | STARTO ENTERTAINMENTが公式サイトで契約解除を公表。timeleszは7人で活動を続ける |
契約解除は、刑事処分とは別に会社として判断したものだと発表されています。この記事は、事件で何があったかについては、事務所の発表とテレビ局の報道で確認できる事実より先には書きません。
背負うもの1 周囲からの期待が、一度に何倍にも膨らむ
オーディション番組で選ばれた人は、選ばれた瞬間から、番組を見てきた人たちの期待を一度に背負います。番組は数か月かけて、審査に悩み、伸びていく過程を見せます。見ている人は、その人がこの先も伸び続けることを期待するようになります。
深層心理学者のカール・ユングは、人が社会に向けて見せる顔を「ペルソナ」と呼びました(『自我と無意識の関係』1928年)。ペルソナ自体は誰にでもあります。会社では会社の顔、家では家の顔を使い分けるのが普通です。
問題になるのは、見ている人がペルソナに求めるものが、急に大きくなったときです。アメリカの心理学者ドナ・ロックウェルとデビッド・ジャイルズは、有名人15人に聞き取りをしました(Journal of Phenomenological Psychology、2009年)。その中で、人前に出す自分と守っておく自分を分けて暮らすようになった、という話が出ています。期待に応え続けるために、そうせざるを得なかったということです。
背負うもの2 周りの人の関わり方が、全部変わる
注目される側に回ると、家族や友人を含めて、周りの人の接し方が変わります。同じ研究では、有名人たちは、相手が自分を人として見ているのか、肩書きを見ているのかが分からなくなったと話しています。物として扱われていると感じた、という話も出ています。
事務所で育ったアイドルは、多くの場合、何年かの下積みの中で、周りの接し方が変わることに少しずつ慣れていきます。オーディション番組から加入した人は、告知から加入までの約10か月で、この変化を一度に受けることになります。業界の作法を覚えることと、周りの変化に慣れることが、同じ時期に重なります。
ユングは、心のエネルギーの量は変わらず、ある対象に多く向かえば、ほかの対象に向かう分が減ると考えました(『心的エネルギー論』1928年)。期待に応える自分にエネルギーが集まるほど、それ以外の自分に回る分は減ります。友人と気を抜いて過ごす時間や、素直に弱音を吐く相手は、周りの関わり方が変わったときに、まず失われやすいものです。
背負うもの3 人に見せられない感情が、外に出せないまま溜まっていく
人前に出す明るい自分を大きくするほど、人に見せられない感情は、消えずに心の奥に溜まっていきます。ユングは、自分で認めたくない部分、人に見せられない部分を「シャドー(影)」と呼びました(『アイオーン』1951年)。苛立ち、嫉妬、甘えたい気持ちなどです。
ここからはユングの理論に沿った解釈で、実験で確かめられた法則ではありません。ユングは、一方に偏った心の構えは、やがて反対のものを呼び起こすと書いています(『心理学的類型』1921年)。期待に応える明るい自分だけを出し続けると、溜まったシャドーが、反動として別の形で出ることがあるということです。
溜まった感情の反動の出方は、人によって違います。体調を崩す、急に何もやる気が起きなくなる、投げやりになる、身近な人との関係がこじれる、といった形があります。
ただし、背負うものが重くても、人を傷つけてよい理由にはならない
背負うものがどれだけ重くても、それは人を傷つけてよい理由にはなりません。同じ重さを背負っても、身近な人を傷つけない人のほうがはるかに多いからです。
重さを抱えることと、その重さを身近な人にぶつけることの間には、本人の選択があります。その責任は本人にあります。そして、事件で傷ついたのは被害を受けた方です。
よくある疑問
Q:timelesz猪俣周杜さんは、なぜ契約を解除されたのですか。
A:STARTO ENTERTAINMENTは、猪俣さんに「専属契約上の重大な違反」があり、契約で決めた解除の理由に当たると説明しています。2026年9月に女性にけがをさせた疑いで逮捕され、9月25日に釈放されたあと、9月30日付で契約が解除されました。契約解除は、刑事処分とは別に所属事務所として判断したものです。
急に役割が変わった人に、周りの人ができること
急に期待を背負った人は、肩書きと関係なく接してくれる相手の前でなら、人に見せられない感情を出せます。アイドルに限らず、昇進や異動で急に周りの見る目が変わった人は、身近にもいるはずです。
あなたの周りに、急に役割が変わって期待を背負うことになった人はいないでしょうか。その人と、肩書きの話をせずに過ごす時間を、一度つくってみてはいかがでしょうか。


