Anthropic(アンソロピック)共同創業者のジャック・クラークは、2026年10月17日にバンコクで開かれたIMF(国際通貨基金)の会合で講演し、私たちはシンギュラリティの初期段階にいる、と語りました。講演では、世界に約1,000万人いる科学者が、10億人、100億人の仮想の科学者を指揮するようになったらどうなるか、とも問いかけています。仮想の科学者とは、科学者の指示を受けて研究の作業を進めるAIのことです。
では、AIが仮想の科学者として働くようになったとき、研究開発と専門職の仕事の量は、本当に人の数で上限が決まらなくなるのでしょうか?
研究開発と専門職の仕事の量は、人の数で上限が決まらなくなる
クラークの講演が示した可能性は、私の仕事ではもう現実になっています。講演でクラークは、Anthropicの研究者がいま書いているコードの量が、創業から最初の4年間に書いた量のほぼ10倍になったと述べました。私の仕事の量も、ChatGPTが公開された2022年11月と比べて、およそ10倍になっています。
Anthropicの研究者の数字と私の数字を並べると、以下のとおりです。
| 誰の話か | 比べた時点 | 増えた量 |
|---|---|---|
| Anthropicの研究者 | 創業から最初の4年間と、2026年 | 書くコードの量がほぼ10倍 |
| 私 | 2022年11月と、2026年10月 | 仕事の量がおよそ10倍 |
Anthropicの研究者も私も、1人がこなす仕事の量がほぼ10倍に増えています。
AIエージェントに作業を任せると、1人でこなせる仕事の量が増える
私の仕事の量が10倍になったのは、作業の多くをAIエージェントが引き受けるようになったからです。AIエージェントとは、目的を渡すと、自分で調べ、判断し、作業を最後まで進めるAIのことです。私は仕事の手順を書いた手順書(スキル)を約100本持ち、決まった時刻に自動で動く作業を約30本、夜のあいだに動かしています。朝には、その日の作業の多くが終わっています。
私の仕事の変わり方は、以下のとおりです。
| 比べる点 | 2022年11月まで | 2026年10月 |
|---|---|---|
| 作業をするのは誰か | 自分 | AIエージェント |
| 自分がやること | 作業そのもの | 手順書を書いて直し、出来上がったものを確かめる |
| 夜のあいだ | 何も進まない | 決まった作業が進む |
作業をAIエージェントに任せるようになってから、私は自分の時間を、手順書を書くことと、結果を確かめることに使うようになりました。
上限を決めるのは、指揮する人が判断できる量と、受け取る側が処理できる量になる
仕事の量の上限はなくならず、上限を決めるものが変わります。クラーク自身も講演で、AIが出した成果を監督する科学者が足りないこと、研究所や実験の設備が足りないこと、新薬の候補が大量に出ても臨床試験で確かめられる量には限りがあることを挙げています。
私の仕事でも同じことが起きています。AIエージェントが出来上がったものを10倍出してきても、私が目を通して決める時間は1日の中で増えません。私が届けた資料や指示を受け取る人も、同じ速さでは消化できません。

人の数で決まっていた上限は、指揮する人が判断できる量と、受け取る側が処理できる量で決まるようになります。
AIにできる作業の長さは速く伸びていて、私の仕事の量はこれからさらに増える
判断の量で決まる上限も、判断の一部をAIエージェントに任せることで上がっていきます。METRという研究機関の研究者らは2025年に、AIが50%の確率でやり遂げられる作業の長さ(人がかける時間で測る)が、2019年以降およそ7か月ごとに2倍になっているとする論文を発表しました(NeurIPS 2025)。2024年には伸びが速まった可能性も示しています。
私の仕事の量は約4年で10倍になったので、1年あたりでならすと約1.8倍です。1年あたり1.8倍のままでも、2027年末には今の約2倍、2028年末には今の約3.6倍になります。ただ、私自身は、伸びはもう少し速いと感じています。
AIにできる作業の長さが7か月ごとに2倍になっているなら、私の仕事の量も、1年あたり1.8倍より速く伸びると思います。
個人の仕事は、作業から意思決定に変わる
上限を決めるものが判断の量に変わるなら、個人の仕事の中身も変わります。2027年末には、手順書を書いて直す作業もAIエージェントに渡り、私が見るのは、AIエージェントからの報告と、AIエージェントが決めきれなかった例外だけになると考えています。2028年には、部署をまとめる人と同じ水準で判断を任せられるAIエージェントを完成させる計画です。
そのとき私の仕事として残るのは、次の3つです。
- 問いを立て、どの仕事をAIエージェントに任せるかを決める
- 一緒に働く人と話し、方向をそろえる
- 人が出なければ成り立たない場に出る
クラークは、1,000万人の科学者が10億人の仮想の科学者を指揮する様子を描きました。私はこれを、科学者の仕事が実験から指揮へ変わることだと考えています。私の仕事でも、同じ変わり方が始まっています。
私の仕事は、作業をすることから、何をAIエージェントに任せるかを決めることへ変わっていきます。
あなたの仕事の量の上限は、人の数と判断の量のどちらで決まっているでしょうか。







