AIやロボットが作業を引き受ける時代に人間に残る価値は、相手を気にかけ、責任を引き受け、相手を尊重し、相手を理解しようとする働きです。精神分析学者のエーリッヒ・フロムは、この4つをまとめて「愛」と呼びました。
しかし、「愛」は仕事と関係の薄い言葉で、AIに仕事を取られる不安への答えとしては足りない、という疑問が出ます。
この記事では、ディスラプティブ・イノベーションの意味、ロボットの価格の下がり方、フロムの4つの働き、4つの働きを仕事に当てはめた例の順に説明します。
ディスラプティブ・イノベーションとは、安くて単純な製品が低価格を求める顧客の市場から広がる動き
ディスラプティブ・イノベーション(破壊的イノベーション)は、安くて単純な製品や事業が、価格の安さを重視する顧客の市場から入り、のちに高い性能を求める顧客の市場へ広がって、既存企業の製品や事業に取って代わる動きです。ハーバード・ビジネス・スクールの教授だったクレイトン・クリステンセンが、1997年の著書『イノベーションのジレンマ』で示しました。
| 種類 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 持続的イノベーション | 既存の顧客が求める性能を、さらに高める改良 | より高画質なテレビ、より燃費の良い自動車 |
| ディスラプティブ・イノベーション | 安くて単純な形で、価格の安さを重視する顧客の市場や新しい市場に入り、のちに高い性能を求める顧客へ広がる | スマートフォン(ノートパソコンに対して)、ネットフリックス(レンタルビデオ店に対して) |
既存の優良企業は、利益の大きい高い性能志向の顧客に向けた改良に力を入れ、価格の安さを重視する顧客の市場への対応を後回しにします。そのため、安い新参者が高い性能を求める顧客へ広がったときに、対応が遅れます。クリステンセン研究所の説明は、この流れを、ネットフリックスとブロックバスターの例などで示しています。
AIやロボットでも、価格が下がって導入が広がれば、多くの産業で同じ動きが起こると思います。
産業用ロボットの価格は、約10年で約半分になった
ARK Investの分析によると、産業用ロボットの価格は約10年で約半分に下がりました。ARK Investは、キャシー・ウッド氏が率いる米国の投資運用会社です。
この下がり方は、ライトの法則で説明されます。ライトの法則は、生産量の累計が増えるにつれて、コストが一定の割合で下がる経験則です。ARK Investは、ロボットでもこの法則が働くとみています。
価格が下がれば、導入する会社が増え、人が担っていた単純作業をロボットが引き受ける場面が広がると思います。
AI時代に人間に残る価値は、フロムが「愛」と呼んだ4つの働き
作業をロボットやAIが引き受けた後も、人には相手を気にかけ、責任を引き受け、相手を尊重し、相手を理解する働きが残ります。フロムは『愛するということ』(1956年)で、この4つをあらゆる愛に共通する要素として挙げました。
この結論は、フロムの考え方に基づく主張です。AIがこの4つをできないことは、研究では確かめられていません。
4つの働きは次のとおりです。
- 配慮(Care):相手の生命と成長を気にかけること。
- 責任(Responsibility):相手の精神的な求めに応える用意があること。
- 尊重(Respect):相手をありのままに見て、その人の個性を認め、自分の都合に合わせて変えようとしないこと。
- 理解(Knowledge):相手の立場に立ち、表面だけでなく本質を知ろうとすること。
4つとも、相手に深く関わり、自分の意志で努力し続けることを必要とします。フロムは、愛をこのような能動的な活動として説明しました。
4つの働きは、仕事では顧客や同僚との関わり方に表れる
次の表は、4つの働きを仕事の場面に当てはめた例です。4つの働きは、顧客や同僚との日々の関わり方に表れます。
| 要素 | 仕事での形 |
|---|---|
| 配慮 | 顧客が言葉にしない要望を察して提案する。同僚の状況に気を配り、働きやすい環境をつくる。 |
| 責任 | 難しい課題も自分の仕事として引き受け、成果が出るまでやり遂げる。 |
| 尊重 | 自分と違う意見や経歴の人を認め、その違いをチームの力にする。 |
| 理解 | データや数字の裏にある人の行動の理由を探り、本当の課題を見つける。 |
これらは、コミュニケーション、複雑な問題の解決、新しい価値の創造に必要な力と重なると思います。
自分の仕事で、4つの働きを使う場面を考える
配慮・責任・尊重・理解のうち、いま自分の仕事で使えているものはどれか。使えていない場面はどこか。
仕事の中で配慮・責任・尊重・理解が必要になる場面を、一度書き出してみてはいかがでしょうか。







