なぜ「正論」は人を動かせないのか?論理と感情のバランス

正論が人を動かせない理由の一つは、「あなたは〜しなければならない」のような自由を脅かす言い方が、相手に「自分の自由が狭められた」と感じさせ、反発を生むことです。強い言い方ほど反発が増えるという結果は、健康に関する説得メッセージの研究で示されたもので、会議や家庭の会話で同じことが起きるかは確かめられていません。

しかし、正しいことを言って反発されるのは、相手が感情的だからではないか、と感じる人もいるでしょう。

この記事では、強い言い方が反発を生む理由、北風と太陽の寓話、感情が先に働くという説明、正しさの応酬が関係に与える影響、論理を保ったまま伝える3つの方法を順に並べます。

目次

強い言い方は反発を増やす、という研究と、自由を狭められたという説明

健康に関する説得メッセージの研究では、強い言い方ほど、自由を脅かされた感覚と反発が大きくなりました。この反応を説明するのが、ブレームが1966年に示した「心理的リアクタンス」の理論で、自由が奪われた、または奪われそうになったときに生じると想定される動機づけの状態を指します。

2019年のレビュー(Reynolds-Tylus、Frontiers in Communication)は、健康に関する説得メッセージの研究を整理しています。2013年のメタ分析(Rains)の結果として、自由を脅かす度合いが高い言葉遣いは、低い言葉遣いより、自由への脅威の感覚と反発を増やしたと紹介しています。「あなたは〜しなければならない」のような言い方が、その例です。

「〜すべきだ」「これが正しいやり方だ」と言い切る形は、この強い言い方の一例として読めます。

反発した人は、自由を取り戻そうとして、提案に反論を考えたり、勧められた行動に逆らったりします。レビューによると、反発は怒りと否定的な認知(反論を考えることなど)を合わせたものとして測られ、勧められた行動に逆らう形の回復は「ブーメラン効果」と呼ばれます。

2007年のRainsとTurnerの2つの実験は、健康に関する説得メッセージを使いました。この実験が比べたのは、論拠の質、話題の結果の重大さ、要求の大きさの3つです。反発に影響したのは要求の大きさだけで、論拠の質は影響しませんでした。

北風と太陽は、説得が力に勝るという寓話

北風と太陽の寓話は、力より説得が勝つことを教えます。旅人の外套を脱がせる勝負で、北風が強く吹くと、旅人は外套をいっそう体に巻き付けました。太陽が照らすと、旅人は暑くなり、自分で外套を脱ぎました。

正論を押し通すことは北風に、相手が自分でそうしたいと思える状況をつくることは太陽に当たります。この寓話から、人を動かす要素には主張の正しさに加えて本人の納得感がある、という説明が引かれます。この点は、説得を測った研究では確かめられていません。

心理学の自己決定理論でも、外からの統制が内発的動機づけを下げ、選べる範囲が広がると高まるとされます。デシの1971年の実験では、報酬を与えられた人は、その活動への興味が下がりました。ズッカーマンらの1978年の研究は、選択肢が増えると内発的動機づけが高まると報告しています。これらの研究が測ったのは、課題への興味や意欲です。

感情が先に働くという説明

ザイアンスは1980年の論文で、感情は認知より強く、先に来ると主張しました。カーネマンは2011年の『ファスト&スロー』で、思考を2つに分けています。システム1は速く、直感的で、感情的です。システム2は遅く、よく考え、論理的です。

システム1は自動的に、頻繁に働きます。システム2は労力がかかり、使う頻度が低いとされます。相手に何かを伝えるときは、まず相手の感情の反応に配慮する必要があると思います。

脳の部位では、感情は大脳辺縁系、論理は大脳新皮質が担い、辺縁系が先に反応する、という分け方があります。研究者のLeDouxとRollsは、「大脳辺縁系」という語をやめるべきだと主張しています。大脳辺縁系は、感情を処理するより大きな仕組みの一部と捉える見方もあります。

正しさの応酬が関係を損なう、という見方

正しさの応酬では、議論に勝った側にも協力関係の損失が残る、という見方があります。どちらが正しいかを証明する議論になると、相手との間に優劣が生まれ、長期の信頼が損なわれる、という考え方です。

この見方では、「心理的安全性」という言葉を使います。エドモンドソン(1999年)の論文は、製造会社の51の職場チームを調べ、心理的安全性を「チームは対人関係のリスクを取っても安全だという、メンバーが共有する信念」と定義しました。調べたのは、この信念がチームの学習行動と関わるかで、心理的安全性は学習行動と関係していました。

正しさを一方的に主張する場では、相手が意見を言いにくくなり、対話が成り立ちにくいと思います。この見方では、コミュニケーションの目的は、相互理解を深め、協力してより良い結論を出すこととされます。

論理を保ちながら感情に配慮する3つの伝え方

論理と事実は保ちます。そのうえで、感情への配慮を、伝え方の3つの手順で足します。

相手の感情と立場を先に受け止める

提案や指摘の前に、相手の感情や立場を受け止めます。相手の意見に全面的に同意する必要はありません。相手が「そのように感じ、考えている」という事実を認めます。

「その点について懸念されるお気持ちは理解できます」「なるほど、あなたはそうお考えなのですね」と言葉にすると、相手は自分が認められたと感じ、あなたの話を聞く準備ができると思います。

事実と解釈を分けて伝える

主張を、客観的な事実と、あなた自身の解釈や意見に分けて伝えます。

たとえば、「この方法は非効率だ」と断定する代わりに、「(事実)昨年のデータを見ると、この作業に月平均で20時間が費やされています。(解釈)このプロセスを見直せば、その時間を別の業務に充てられるのではないかと考えています。この点について、どのようにお考えですか?」と伝えます。

事実と解釈を分けると、相手は事実には同意しながら、解釈には別の見方を返せます。解釈は自分の見解として、問いかけの形で出します。

決める余地を相手に残す

完全に筋の通った論理でも、相手に選択の余地を残さない提案は避けます。提案の中に相手の意見を取り入れる余地を作り、最終判断の一部を相手に委ねます。

たとえば、「A案が合理的だと考えますが、現場でのご経験から見て、懸念点はありますか?B案の要素を取り入れることで円滑に進むなら、それも良い選択肢です」と伝えます。

次の会話で、相手が決める余地を残せるか

次に正しいことを伝える場面では、結論の一部を相手に委ねる一言を足してみてはいかがでしょうか。

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