電子ドラムでタムを叩いた。鳴ったのはシンバルでした。あるいは、シンバルを叩いた瞬間に音が切れる。手は触れていないのに、握って止めたような鳴り方をする。
よく言われる対処は、だいたい2つです。感度を下げること。もうひとつは、クロストーク・キャンセルの値を上げること。どちらも音源の設定画面だけで完結します。
この記事が立てる問いは違います。そもそも音源は、何を根拠に「叩かれた」と判断しているのでしょうか。
叩いていないシンバルが鳴るのは、パッドが壊れたからではない
この症状のほとんどは、故障ではありません。パッドは設計どおりに動いています。
タムを叩くと、その振動はマウントを伝ってラックに入ります。ラックは金属のパイプです。振動はそこを通って、別のパッドまで届きます。届いた先のセンサーは、それを打撃として検出します。
センサーは正しく働いています。届いた振動を、届いたとおりに拾っただけです。問題があるとすれば、それは振動が届く経路のほうです。
シンバルパッドには、打撃を検出するセンサーが1つしかない
ここが誤解されやすい部分です。パッドの各部分にセンサーが並んでいるわけではありません。
シンバルパッドの構造を見ると分かります。Rolandの3ウェイ・シンバルパッドの仕様では、ボウがピエゾ素子、エッジとベルがスイッチと整理されています。打撃の強さを検出しているセンサーは、パッド全体で1つだけ。エッジとベルは、押されているかどうかを返すだけのスイッチです。
つまり音源が見ているのは、2つの情報の組み合わせです。振動が届いたかどうか。そして、その瞬間にどのスイッチが閉じていたか。
音は、振動とスイッチの組み合わせで決まる
振動が届いた時点で、どのスイッチも閉じていなければ、ボウを叩いたと判定されます。エッジのスイッチが閉じていれば、エッジを叩いたと判定される。振動より後にエッジのスイッチが閉じれば、それはチョークです。
センサーが返しているのは、振動が届いたという情報だけです。それが打撃なのか、他のパッドから伝わってきた振動なのかは、区別できません。区別する材料を持っていないからです。
ここで一点、事実と解釈を分けておきます。上の説明は、メーカーが公開している仕様表と、ユーザーによる検証から導いたものです。個々の製品の内部構造をメーカーが文書として公開しているわけではありません。
もう一点、この記事はRolandのV-Drumsを前提に書いています。他社の電子ドラムでも、センサーの考え方と対処の順序は共通します。ただし機能の名称や設定値の範囲は製品ごとに違うので、そこはお使いの音源のマニュアルで確認してください。
ケーブルが緩んでいるだけで、シンバルは勝手にミュートされる
スイッチの側から見ると、直感に反する現象が説明できます。ケーブルの接触不良で、チョークが起きるのです。
シンバルパッドはステレオケーブルで接続されています。プラグは3つの部分に分かれていて、先端がピエゾの信号、中間がスイッチ、根元がグランドです。スイッチが閉じているかどうかは、中間と根元が電気的に繋がっているかどうかで判定されます。
だから、エッジに一切触れていなくても、この2つが繋がれば同じことが起きます。プラグが奥まで挿さっていない。被覆が破れて内部で接触している。プラグ根元のハンダが割れている。どれも、握ってもいないのに握ったことになる状態を作り出します。
Roland自身、パッドを追加する際の注意点として、プラグが挿さりきっていない状態では音が正しく鳴らないと書いています。ただ、それがチョークとして現れることまでは説明されていません。
症状が不安定なとき、たとえば10回叩いて5回だけ起きるようなときは、この可能性が高くなります。センサーそのものが劣化していれば、症状はもっと一貫して出るはずだからです。繋がったり切れたりしているものが、どこかにあります。
感度を下げれば誤発音は消える。弱く叩いた音も一緒に消える
ここからが、設定画面には書かれていないコストの話です。
スレッショルドを上げると、一定より弱い信号を音源が読み込まなくなります。振動由来の弱い信号は切り捨てられるので、誤発音は消えます。ここまでは狙いどおりです。
ただし音源には、その信号が振動由来なのか、演奏なのかを区別する手段がありません。弱い信号はすべて等しく切り捨てられます。消えるのは誤発音だけではない、ということです。
ライドで、この方法は使わないほうがいい
パッドによって、失うものの大きさが違います。
クラッシュやスプラッシュなら、影響は小さく済みます。強く叩く場面が中心の楽器だからです。スレッショルドを上げても、演奏で使う範囲はほとんど残ります。
ライドは事情が違います。レガートやシズルの弱打が、その楽器の中身そのものだからです。ここで感度を下げると、誤発音を1つ消すために、表現の中心を差し出すことになります。
ライドで誤発音が残るなら、感度設定は使わない。そう決めてしまったほうが、結果として良い演奏環境になります。誤発音が1つ残ることと、弱打が死ぬこと。どちらが演奏を損なうかを比べれば、答えははっきりしています。
生ドラムでも、タムを叩けばシンバルは鳴っている
対策を考える前に、目標をどこに置くかを決める必要があります。ゼロではありません。
Roland自身、クロストークについて、アコースティック・ドラムでスネアが他の打面と共鳴するのに似た現象だと説明しています。メーカーが、生でも同じことが起きていると認めているわけです。
実際、生のドラムセットでタムを叩けば、シンバルは微かに鳴っています。演奏者はそれを音として認識していないだけで、マイクを立てれば録音に入ります。レコーディングの現場では、その被りをどう処理するかが議論になるほど、当たり前に存在する現象です。
だとすると、電子ドラムで誤発音を完全にゼロにした状態は、生より不自然だということになります。目指すのは、誤発音として耳につかないところまで下げること。生と同じ水準に戻すことであって、消し去ることではありません。
判断基準は、振動が原因か、配線が原因かである
ここまでの構造から、自分の環境に当てはめられる基準が1つ出てきます。振動の側とスイッチの側の、どちらが原因かです。
振動の側が原因なら、感度設定と物理対策が効きます。ラックのパイプを指で叩いてみて、それでパッドが鳴るなら、振動が経路を伝っている証拠です。この場合は、クランプとパイプの間にゴムシートを挟む、パッドを独立したスタンドに移すといった、経路を断つ対策が本筋になります。感度設定は補助です。
配線の側が原因なら、設定では直りません。スイッチが閉じたままになっている状態は、感度をどう調整しても変わらないからです。まずケーブルを別のものに交換する。それで直らなければ、パッドとケーブルをまとめて別の位置に移し、症状がパッドについて回るのか、その位置に残るのかを見る。この2つで、原因がどちら側にあるかが決まります。
音源が2台あると、片方はもう片方を知らない
切り分けを間違えやすい構成が、もう1つあります。音源を2台使っている場合です。
クロストーク・キャンセルという機能は、同じ音源に接続された入力どうしを比較して、後から来た信号を打ち消す仕組みです。タムとシンバルが別の音源に繋がっていると、この比較が成立しません。片方の音源には、もう片方で何が叩かれたかを知る手段がないからです。
この構成で誤発音が起きているなら、クロストーク・キャンセルをいくら調整しても変化しません。使えるのは、感度設定と物理対策の2つだけになります。
数字の向きを間違えない
私は一度、すべてのパッドのクロストーク・キャンセルを0にしたことがあります。値を下げれば干渉が減ると考えたからです。結果は、何も変わりませんでした。
あの数字が表しているのは、キャンセル処理の強さです。0はキャンセルをしないという意味で、症状は悪化する方向にしかいきません。自動設定の機能があるなら、そちらを使ったほうが確実です。発音を抑えられる最小の値が入るので、必要以上に強くかからずに済みます。
よくある疑問
Q:クロストーク・キャンセルの値は、大きくすればするほど良いのでしょうか。
A:違います。値を上げるほど、他のパッドと同時に叩いたときの音が消えやすくなります。フィルの最後でタムとクラッシュを一緒に叩く場面が無音になるのは、この設定を上げすぎたときの典型です。上げながら、実際に同時打ちして確認する必要があります。
Q:シンバルを固定するナットは、しっかり締めたほうがいいのでしょうか。
A:締結には2種類のネジがあり、役割が正反対です。まわり止めのボルトはしっかり締めます。パッドが回るとケーブルが引っ張られるからです。一方でウィング・ナットは、Rolandのマニュアルが「適度な揺れが得られるように」締めると指示しています。締めすぎると打感が硬くなり、ゆるすぎると1打で2回鳴ります。持ち上げて手を離したときに、1回か2回ふわっと揺れて止まるくらいが目安です。
まとめ
電子ドラムの誤発音を故障だと思って修理に出す前に、持ち帰ってほしい事実が1つあります。シンバルパッドには、打撃を検出するセンサーが1つしかないということです。
そのセンサーは、届いた振動が打撃なのか、他のパッドから伝わってきたものなのかを区別できません。叩いていないシンバルが鳴るのは、そのためです。勝手にミュートされるのは、エッジのスイッチが閉じたままになっているからです。どちらもパッドの故障ではありません。
だから対策も、この2つに分かれます。振動が原因なら経路を断つ。配線が原因ならケーブルを疑う。感度設定は、振動側にしか届かない道具です。それを配線側の問題に使うと、直らないまま演奏の表現だけが削られていきます。
そして、目標をゼロに置かないこと。生のドラムでも、タムを叩けばシンバルは鳴っています。
まずはラックのパイプを、指で軽く叩いてみてはいかがでしょうか。それで音が出るかどうかで、どちら側の話なのかが見えてくるはずです。






