叩いたのに音が出ないことがあり、もう一度叩くと今度は鳴る。10回のうち2回か3回だけ、そういうことが起きます。別のパッドはきちんと反応するけれど、他と比べて明らかに音が小さい。どちらも、見た目には壊れていません。
電子ドラムでこうなったときによく言われる対処は、だいたい2つです。感度を上げること。もうひとつは、クロストークの値を調整することです。どちらも音源の設定画面だけで完結します。
この記事が立てる問いは違います。その症状は、そもそも設定で直る種類のものなのでしょうか。
鳴ったり鳴らなかったりするとき、最初に触るのはケーブルである
音が鳴らない症状が毎回ではなく、たまにしか出ない。この「たまに」が、原因を絞り込むための最初の材料になります。
パッドのセンサーそのものが劣化しているなら、症状はもっと一貫した形で出るはずです。弱く叩けば毎回鳴らない、というように再現します。10回叩いて2回だけ落ちるというのは、その形ではありません。繋がったり切れたりしているものが、どこかにあると考えたほうが早いです。
電子ドラムのパッドは、ステレオのケーブルで音源に繋がっています。プラグには3つの接点があり、そのどれかが不安定になると、信号は届いたり届かなかったりします。ローランド自身、プラグが端子に挿さりきっていない状態では音が正しく鳴らないと注意しています。挿し直すだけで直ることがあるのは、このためです。
同じケーブルを別の端子に挿し替えれば、パッド側か端子側かが決まる
挿し直しても変わらなければ、次にやるのは入れ替えです。ここで原因の居場所が決まります。
まず、疑っているパッドのケーブルを、正常に鳴っているパッドのケーブルと交換します。それで症状がケーブルについてくるなら、原因はケーブルです。症状が元のパッドに残るのであれば、ケーブルは白ということになります。
次に、そのパッドを音源の別の端子に挿します。症状がパッドについて回るなら、原因はパッドの側にあります。症状が端子のほうに残るなら、疑わしいのは音源の入力です。この2回の入れ替えだけで、ケーブル、パッド、端子という3つの容疑者が切り分けられます。
症状が2つ同時に出ていても、1本ずつしか動かさない
私の場合、鳴らないタムと音量が小さいタムが、同じ時期に同時に出ました。こういうときに両方をまとめて触ると、あとで何も分からなくなります。
やることは1本ずつです。1本目の切り分けが終わるまで、2本目には手をつけません。そしてもう1つ、正常に鳴っているパッドを1本、最後まで触らずに残しておきます。入れ替え先として使う基準が消えてしまうと、比較そのものが成立しなくなるからです。
特定のパッドだけ音が小さいときは、感度より先にミキサーを見る
音量が小さいという症状に限っては、設定側の原因がひとつだけあります。ミキサーの数値です。
音源には、パッドごとの音量を決める画面があります。名前は機種によって違いますが、チャンネルごとに数値が並んでいる画面のことです。ここが他より低いままになっていれば、どれだけ強く叩いても音は小さいままになります。以前に音作りをしたときの数値が、そのまま残っているというのはよくあることです。
先にここを見る理由は、感度を触ると話が混ざってしまうからです。感度は、叩いた強さをどう読むかを決める設定であって、音量そのものを決める設定ではありません。両方を同時に動かすと、どちらが効いたのかを判定できなくなります。
弱く叩いたときだけ鳴らないなら、それは設定では戻らない
症状の出方が、もうひとつあります。弱く叩くと鳴らず、強く叩くと突然反応する。この形だけは、設定をどう動かしても戻りません。
メッシュヘッドのパッドの中には、センサーの上に円錐形のスポンジが載っています。このスポンジがヘッドに軽く触れていることで、打面の振動がセンサーへ伝わる仕組みです。長く使っているとスポンジは縮んで硬くなります。ヘッドに届かなくなれば、弱い打撃は最初から伝わりません。
ここは事実と解釈を分けておきます。この現象は、パッドを分解した使用者による検証として複数報告されているもので、メーカーが仕様として公開しているものではありません。ただ、感度をどれだけ上げても弱打が戻らないのであれば、開けて見る価値はあります。届いていない振動は、読み取り側の設定では作れないからです。
感度を上げて鳴るようにすると、叩いていないパッドが鳴りはじめる
設定で鳴らすこと自体は簡単です。感度を上げれば、弱い信号も打撃として読まれるようになります。
ただし音源には、その信号がスティックによるものなのか、隣から伝わってきた振動なのかを見分ける手段がありません。弱い信号は、区別されないまま等しく拾われます。鳴らなかったパッドが鳴るようになるのと同時に、叩いていないパッドが鳴りはじめるのは、このためです。
これで直ったことにすると、今度はその誤発音を止める作業が始まります。片方を上げ、もう片方を下げ、という往復が延々と続くことになる。元の原因がケーブルだった場合、この往復はいつまでも終わりません。
クロストークの設定は、鳴らしたいパッドを黙らせることがある
クロストークは、たいてい「叩いていないのに鳴る」側の話として語られます。ただし同じ仕組みは、逆向きにも働きます。
隣り合ったパッドを叩けば、その振動は両方のセンサーに届きます。音源はほぼ同時に届いた2つの信号を比べて、片方を打ち消す仕組みになっています。このとき鳴らしたいパッドのほうが打ち消される側に回れば、叩いたのに音が出ない、という形で症状が現れます。
切り分けの方法は単純です。疑っているパッドの隣のケーブルを抜いて、同じように叩いてみる。それで毎回鳴るなら、隣からの干渉で間違いありません。このとき値を上げるのは、鳴らしたいパッドのほうではありません。振動を拾っている隣の側を上げて、そちらを鈍くします。隣が反応しなくなれば、打ち消しの比較そのものが起こらなくなるからです。
設定を最後に回すのは、設定だけが症状を隠せるからである
ここまでの順序には、ひとつの理由があります。設定だけが、原因を残したまま症状を消せてしまうからです。
ケーブルを挿し直しても、原因がケーブルでなければ何も変わりません。端子を入れ替えた場合も同じです。物理の側を触る作業は、当たっていなければ変化が出ないので、外れたことがその場で分かります。設定はそうではありません。値を強くすれば、原因が何であっても症状はいったん見えなくなります。
だから設定から始めると、直っていないのに直ったように見える値が残ります。半年後に別の症状が出たとき、どの値が何のために入っているのかは、もう追えません。設定を最後に回すのは、慎重だからではないのです。効いたかどうかをその場で判定できる作業から順に並べているだけです。
よくある疑問
Q:ケーブルを挿し直すだけで直った場合、また同じことが起きるのでしょうか。
A:起きます。挿し直しで直るのは接触の問題なので、抜き差しや演奏中の振動でまた緩みます。同じパッドで2回続いたら、ケーブルそのものを交換したほうが早いです。プラグの根元は曲げの力がかかり続ける場所なので、内部で断線しかけていることがあります。
Q:クロストークの値は、鳴らしたい側と拾っている側の、どちらを上げるのが正しいのでしょうか。
A:拾っている側です。鳴らしたいパッドの値を上げても、そのパッドが他の振動で鳴りにくくなるだけで、干渉そのものは残ります。なお、音源が2つの信号をどう比べて、どちらを残すのかという判定の中身は、メーカーが公開していません。ここは理屈で詰めるより、片方のケーブルを抜いて確かめるほうが確実です。
Q:スプラッシュのように弱打を使わないパッドなら、値を高めに振っても問題ないのでしょうか。
A:問題ありません。この設定で失うのは弱く叩いたときの反応なので、強く叩く場面しかないパッドでは実用上のコストがほとんど出ません。逆にライドのように、弱打がその楽器の中身そのものになっているものでは、この方法は使わないほうがいいです。
まとめ
電子ドラムの症状には、設定で直るものと、設定では直らないものがあります。ケーブルの接触、端子、センサーのスポンジ。これらはどれも、設定画面のどの数字を動かしたところで戻ってはきません。
それでも設定から触りたくなるのは、設定が効くように見えるからです。値を強くすれば、原因が何であっても症状はいったん隠れます。隠れただけの状態を直ったことにしてしまうと、演奏で使える範囲のほうが少しずつ削られていきます。
順序そのものは難しくありません。挿し直す。入れ替える。ミキサーを見る。それでも残ったものだけを、設定で扱う。長く使っている機材ほど、この順序が効いてきます。
次に音が鳴らなくなったら、まずケーブルを抜いて挿し直すところから始めてみてはいかがでしょうか。それで直るのであれば、設定画面を開く必要はありません。



