業者から提案を受けたあと、懸念はいくつも書き出せます。初期費用が重いこと、運用にかかる手間が読めないこと、そもそも、うちの条件に合う相手なのかということ。ところが、最後の一行だけが書けません。やるべきなのか、やめるべきなのか。
世の中に流通している答えは、だいたい決まっています。評価軸を先に決めて、その軸に重みをつけ、比較表を作って横並びにすること。そして、満たさなければ失格になる条件を、採点の外へ出しておくこと。
どれも正しい方法ですが、この記事が立てる問いは別のところにあります。その比較表に書き込む情報は、いったいどこから来るのでしょうか。
提案する側には、自分の提案を否定する動機がない
ベンダー選定の打ち合わせで、うちの条件でも成果は出ますか、と聞いたとします。返ってくる答えは、聞く前から決まっています。出ます、です。
これは相手が不誠実だという話ではありません。提案する側にとって、出ませんと答えることは、自分の提案を取り下げるのと同じだからです。取り下げる動機がない以上、答えは一つに絞られます。
答えが一つに決まっている問いは、質問の形をしているだけで、こちらの手元には何も増えません。相見積を並べて価格を比べたときに残る違和感も、たいていここから来ています。数字は並んでも、その数字が何を意味するのかは、全部相手の説明に依存しています。
そして、これが評価表の弱点につながります。比較軸をどれだけ精密に設計しても、マスを埋める情報が相手の言葉だけであれば、その表は相手の自己申告を清書したものになります。表の精度が上がっても、中身の確からしさは上がりません。
質問に使う言葉が変わると、返ってくる答えも変わる
質問の作りが答えを動かすことは、まったく別の領域で測られています。
1974年、エリザベス・ロフタスとジョン・パーマーは、45人の学生に自動車事故の映像を見せ、車は何マイル出ていましたかと尋ねました。このとき、動詞だけを入れ替えて5つのグループに分けています。
激突したと聞いたグループの平均は時速40.8マイル、衝突したでは39.3マイル、ぶつかったでは38.1マイルでした。当たったでは34.0マイル、接触したでは31.8マイルまで下がります。見せた映像は、どのグループも同じものです(Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 13巻5号, 585-589頁)。
ここからは私の解釈です。この実験は記憶を扱ったものであり、商談での質疑を測ったわけではありません。ここで指摘できるのは、質問に使う語が答えを動かしうるという事実だけです。
ただ、答える側に利害があるとき、この動きが偶然の方向へ散るとは考えにくい。動く先は、たいてい相手にとって都合のよい側です。
相手が「無い」と答えられる質問だけが、判断材料になる
では、どんな質問なら手元に何かが増えるのか。判定は一つだけで、相手がありませんと答えられる形になっているかどうかを見ます。
刺さりますかには、ありませんで答えられません。同じ条件で成果が出た事例はありますかには、答えられます。この差が、質問と単なる確認を分けています。
そして、ありませんと返ってきたら、それがそのまま判断材料になります。事例が無いことは相手の失点ではなく、こちらが引き受けるリスクの大きさが実数で示された状態です。
答えが返ってこない場合も同じです。持ち帰りますと言われたきり出てこないなら、その沈黙も、ありませんとほぼ同じ意味を持ちます。
つまり、この形の質問には空振りがありません。返ってくれば材料になりますし、返ってこなくても材料になります。
「刺さりますか」を、答えざるを得ない形に組み替える
組み替える方向は3つあり、どれも、相手の意見を聞くのをやめて事実を聞く形へ寄せるものです。
一つ目は、良し悪しではなく実数を聞くことです。うちの条件に合う人はいますか、ではなく、その条件に当てはまる対象は何件あるのか、実数で開示できるかを聞きます。
二つ目は、見通しではなく過去を聞くことです。うまくいきますか、ではなく、同じ条件で支援した案件はあるのか、そのときの数字はどうだったのかを聞きます。
三つ目は、姿勢ではなく役割を聞くことです。一緒に進めましょうで終わらせず、この部分は誰が書くのか、設計は貴社が担うのか、こちらが出すのかを聞きます。
もう一点、質問を出す前に固めておくことがあります。数字の前提です。うちの条件はこうですと伝えるとき、その数字に何が含まれるのかを先に書いておきます。範囲が曖昧なままだと相手も答えようがなく、答えようのない質問は、やはり何も返しません。
制約を伝えることは、質問ではない
質問リストを作っていくと、そこに制約が混ざります。うちはこの条件を変えられません、という一行です。
これは情報提供であって、質問ではありません。答えを引き出す働きを持たないので、リストに並べても項目が一つ増えるだけです。
伝えること自体は必要ですが、伝えたうえで、その制約を条件にした答えを求める形まで続けます。変えられませんで止めず、この条件で成果が出た事例を具体的に教えてください、まで書く。ここまで書いて、はじめて相手が答える番になります。
撤退の基準は、相手に先に言わせておく
導入したあとの話も、契約する前に聞いておきます。どのくらいの期間で見切りをつけるのが妥当だと考えますか、何をいつ見て判断するのがよいでしょうか、という形です。
基準をこちらで決めて渡すこともできます。ただ、こちらが決めた基準は、成果が出なかったときに、前提が違ったという説明で崩されます。相手が自分の口で言った基準は、あとから崩しにくい。
そして、この問いも空振りしません。妥当な基準を出せない相手は、成果の測り方そのものを持っていないということです。それも、そのまま判断材料になります。
この聞き方には、相手が身構えるというコストがある
公平を期して、逆側も書いておきます。
事実と実績しか答えられない質問を並べると、場が硬くなります。相手は守りに入り、確約できないことを口にしなくなるので、踏み込んだ提案や、条件を動かす余地の話が出てこなくなることがあります。
ですから、全部をこの形にはしません。判断を左右する2つか3つだけをこの形にして、残りは普通に聞きます。
もう一つのコストは時間です。実数や過去の数字を求めると、相手は社内で確認する必要が出てくるので、その場では答えが返りません。日程に余裕を持たせておかないと、返事を待つ時間がそのまま遅れになります。
よくある疑問
Q:提案してきた業者に、そこまで踏み込んで聞いてよいものでしょうか。
A:聞いて構いません。実績と実数を持っている相手にとって、それを出すことは営業になるからです。この種の質問を嫌がるのは、出すものがない相手だけです。
Q:専門外の領域だと、相手の答えが正しいかどうか判断できないのではないでしょうか。
A:正しさを判定する必要はなく、事実で答えたのか、意見で答えたのかだけを見ます。実数と過去の案件で答えたなら事実で、一般的には、多くの企業では、といった言い方で答えたなら意見です。この区別に専門知識は要りません。
Q:評価表は作らなくてよいのでしょうか。
A:作って構いませんが、順序があります。表の精度をいくら上げても、埋める情報の質は上がらないので、先に質問を組み替えて、それから表に入れる形をおすすめします。
Q:相手が実数を出せない理由が、守秘義務であることもあるのではないでしょうか。
A:あります。その場合は、開示できない理由と、代わりに出せる範囲をその場で聞いておきます。範囲を示せる相手と、示せないまま話を進めようとする相手では、契約後の説明の丁寧さも変わってきます。
判断基準は、相手が「無い」と答えられるかどうか
ベンダー選定の質問リストができたら、送る前に一度だけ点検します。上から順に、相手がありませんと答えられるかどうかを見ていきます。
答えられない項目は、答えが最初から決まっています。それを外していくと、リストはかなり短くなるはずです。短くなったリストが、そのまま判断材料を取りにいく道具になります。返ってきた実数と事例が、比較表の中身になります。
決めきれない状態が続くとき、足りないのは情報ではなく、情報を返させる質問の作りであることが少なくありません。手元にある質問を一つ選んで、相手がありませんと答えられる形になっているか、確かめてみてはいかがでしょうか。

