契約不履行があっても、不履行を理由に契約を終わらせないほうが早い

納品予定日を過ぎても、外部パートナーから成果物が出てきません。こちらから確認しても、進んでいる気配がない。契約書を開いて解約の条項を探すと、中途解約の定めはどこにも書かれていません。

こういうとき、よく言われる答えは決まっています。相手に落ち度があるなら契約は解除できる、という話です。期限を定めて履行を求め、それでも履行がなければ解除を伝える。手順としては、たしかに正しい。

この記事が立てる問いは違います。その手順を最後まで踏むと、相手の側で何が起きるのでしょうか。

目次

中途解約と解除は、別のものである

まず用語を分けておきます。ここが混ざったまま進むと、契約書を読んでも何を探せばいいのか分からなくなります。

中途解約は、契約書の中で当事者が留保した権利です。理由を問わずに使えて、多くの場合は一定の予告期間がついています。契約が有効に続いている状態で、その関係を将来に向けて終わらせる仕組みだと考えてください。

解除は、民法が定めた権利です。相手が約束を守らなかったことが前提になるので、理由が要ります。

だから契約書に中途解約の定めがないと分かった時点で、手元に残るのは解除だけになります。多くの人が、そこから相手の落ち度を並べはじめます。納期を守らなかった。着手していなかった。連絡をしなかった。事実として書き出せるので、そのまま根拠になりそうに見えます。

なお、契約書に中途解約はできないと書かれていても、民法が定めた解除の権利が当然になくなるわけではありません。ただし解除条項の書き方によっては、そこ自体が争点になります。手元の契約書の解除条項と、通知方法の定めを先に読んでおいてください。

契約不履行を理由にできるのは、解除のほうである

契約不履行を理由に契約を終わらせる道は、民法の中に2本あります。

1本目が541条です。当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、契約の解除をすることができる。この条文には但書があって、期間が過ぎた時点での不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除できないと定められています。

2本目が542条です。こちらは催告によらない解除で、5つの場合が並んでいます。債務の全部の履行が不能であるとき。債務者が全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。一部が不能などで残った部分だけでは契約の目的を達せられないとき。特定の日時に履行しなければ目的を達せられない契約で、その時期を過ぎたとき。そして5号として、催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

ここで一つ、条文を読んで気づくことがあります。どちらの条文にも、相手に落ち度があったかどうかという要件は書かれていません。書かれているのは、履行がなかったという事実と、その程度だけです。

つまり争点になるのは、相手が悪かったかどうかではなく、履行がなかった状態をどう確定させるかです。そして541条は、その確定のしかたを手続きとして定めています。

期限を定めて履行を求めることは、相手に履行の機会を与えることである

541条の手続きを、もう一度分解してみてください。

相当の期間を定めて、その履行の催告をする。これは、その期間のあいだは待ちますという約束を、こちらから相手に渡す行為です。

つまり催告とは、相手に履行の機会を与える手続きです。

制度としては、それで正しい。541条は、相手にもう一度やり直す機会を与えたうえで、それでも動かなければ終わらせるという順序で組まれています。関係を続ける可能性を残した側のための条文だと言えます。

だから実務でも、この道がいちばん安全だと説明されます。手順がはっきりしているので、後から効力を争われても説明がつく。相手が反論しにくい形で記録が残ります。

問題は、こちらがもう続けたくないときにも、同じ手続きを通ることになる点です。安全な手を選んだつもりで、渡しているのは履行の機会です。

履行の機会を与えた相手は、期限の直前に何かを出してくる

催告を出すと、実際に何が起きるでしょうか。

3週間まったく動かなかった外部パートナーに、2週間の期限を定めたとします。相手はそこで初めて事態を認識し、期限の直前になって何かを出してきます。

出てきたものが、こちらの求めていた水準に届くことはあまりありません。3週間分の遅れを2週間で埋めた成果物です。

それでも、履行があったという事実は残ります。するとこちらは、判断を迫られることになります。この納品物を不履行として扱い、解除を押し通すのか。それとも受け取って、契約を続けるのか。

どちらを選んでも、話は長くなります。押し通せば履行の水準をめぐる争いになり、受け取れば、終わらせたかったはずの関係が続きます。

ここで多くの人が気づきます。自分が欲しかったのは、成果物ではなかった、と。

判定の時期をすでに過ぎているなら、いま出てくるものに使い道はありません。欲しいのは、この契約が終わっている状態のほうです。催告は、その目的と逆を向いています。

契約不履行を理由にしない終わらせ方が、契約の種類ごとに用意されている

ここから、あまり紹介されない道の話をします。契約不履行を持ち出さずに終わらせる方法が、契約の種類ごとに用意されています。

業務委託契約と呼ばれているものは、民法の中に業務委託という類型があるわけではなく、中身を見ると請負か準委任のどちらかに整理されます。成果物の完成そのものを目的としているなら、請負にあたります。

民法641条は、請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる、と定めています。

条文の中に、相手の落ち度は出てきませんし、解除する理由を説明する必要もありません。仕事が完成していないあいだであれば、発注した側はいつでも終わらせられます。

成果物ではなく、業務を進めてもらうこと自体を頼んでいる場合は、準委任になります。こちらは民法651条1項が、委任は各当事者がいつでもその解除をすることができると定めていて、656条によって準委任にも準用されます。

どちらの道も、相手の不履行を証明する必要がありません。証明が要らないということは、相手に反論の材料を渡さないということです。期限も定めないので、履行の機会も発生しません。

自分の契約がどちらにあたるかは、契約書の題名ではなく中身で決まります。何を納めてもらう約束だったのかを、もう一度読んでみてください。

理由を問わない終わらせ方には、代わりに賠償がついてくる

公平を期すために、逆側も書きます。

641条には、損害を賠償して、と書かれています。651条2項も、相手方に不利な時期に解除したときなどは損害を賠償しなければならないと定めています。理由を問わない代わりに、こちらが金銭を負担する構造です。

賠償の中身は、相手がすでにかけた費用と、この仕事から得られたはずの利益になります。

だから外部パートナーが実際に作業を進めていた場合、この道は高くつきます。8割まで作っていた相手を理由なく終わらせれば、その分を払うことになります。逆に言えば、進捗が見えている相手に対しては、この道を選ぶ理由がありません。

ただ、いま問題にしているのは、着手すらしていない相手です。かけた費用がなく、進んだ工程もないので、賠償すべき額は実際には小さくなります。

ここからは私の解釈です。学説として確立された議論ではありませんので、そのつもりで読んでください。着手していない相手が、失われた利益を計算して請求してくる場面は、あまり想像できません。請求するには、自分が何もしていなかったことを前提に、金額を組み立てる必要があるからです。

発注した側にも原因があると、不履行を理由にした解除は使えない

不履行を理由にする道には、もう一つ落とし穴があります。

民法543条は、債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない、と定めています。前二条とは、541条と542条のことです。

債権者というのは、その債務を受け取る側のことです。納品してもらう場面では、発注した側が債権者になります。つまりこの条文は、発注した側に原因があるなら解除できない、と言っています。

だから、次のような事情があると、解除の効力がひっくり返る可能性が出てきます。仕様をこちらが出していなかった。必要な資料を渡していなかった。承認を求められたまま止めていた。作業に必要な環境を用意していなかった。

実務では、どこまでがこちら起因かが争点になります。遅れの一部だけがこちらの事情によるとき、専ら債権者の責めと言えるかが問われ、部分的な帰責では解除が完全には封じられないという整理が一般的です。

ここでも、理由を問わない道との差が出ます。641条と651条には、この条文が働きません。理由を持ち出さない解除なので、理由の押し付け合いがそもそも起きないからです。

よくある疑問

Q:契約不履行があった場合、損害賠償を請求すると契約を終わらせられなくなるのでしょうか。

A:両立します。民法545条4項に、解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない、と書かれています。契約を終わらせることと、被った損害を請求することは、別々に成立します。同条1項は、解除したときに各当事者が相手方を原状に復させる義務を負うとも定めているので、着手金を払って何も受け取っていないなら、その返還を求めることもできます。

Q:連絡が取れない状態が続いている場合、催告なしで解除できるのでしょうか。

A:542条1項5号が、催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるときは、催告なしで解除できると定めています。連絡が取れない期間が長く続いていることは、この判断の材料になります。ただし明らかであるかどうかは事案ごとの評価なので、確実とは言えません。契約が請負か準委任にあたるなら、641条や651条のほうが要件は単純です。

Q:解除を伝えた後に、相手から成果物が出てきたらどうすればよいでしょうか。

A:受け取らない意思を、解除の通知に先に書いておくのが確実です。契約は終わっているので受領しない、と一行入れておく。何も書かずにいると、出てきたものを受け取るかどうかの判断を、もう一度背負うことになります。

判断基準は、相手に履行させたいのか、契約を終わらせたいのか

最後に、明日から使える形に畳んでおきます。問いは一つです。

自分は、相手に履行させたいのでしょうか。それとも、この契約を終わらせたいのでしょうか。

履行させたいなら、催告を出してください。期限を定めて履行を求めることには、止まっている相手を動かす力があります。相手に履行の機会を与えることは、この目的では正しい選択です。

終わらせたいなら、契約不履行を理由にしないでください。不履行を理由にする限り、その不履行を確定させる手続きが必要になり、手続きが相手に履行の機会を与えます。

終わらせると決めたら、やることは絞られます。通知が届いた記録を残すこと。すでに払ったお金があれば返還を求めること。そして、受け取らない意思を先に伝えておくことです。解除は相手に到達して効力が生じるので、メールなら送信記録を保存し、大きな金額が動く案件なら内容証明を使ってください。

この二つの目的を混ぜると、どちらにもならないまま日数だけが過ぎます。安全な手を打っているつもりで、終わらせたい相手に履行の機会を渡している状態です。

なお、実際に通知を出す前には、契約書の条項と自分の案件の事情を、一度専門家に見てもらうことを検討してみてください。この記事で扱ったのは条文の建て付けまでで、個別の契約にどれが当てはまるかは、書面を見ないと決められません。

あなたが本当に欲しいのは、成果物でしょうか。それとも、この件が終わっている状態でしょうか。

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