ニュースを読んで、税率が何%になるのかを探しました。共同通信、時事通信、日本経済新聞、地方紙。どこにも書いていませんでした。私は自分の探し方が悪いのだと思って、30分ほど探し続けましたが、書いていないのではなく、まだ決まっていなかったのです。
2026年8月時点の報道は、ここまでしか伝えていません。財務省と金融庁が、2027年度の税制改正要望に個人向け国債の税制優遇を盛り込む方針を固めた、というところです。相続税を減免する案と、NISAの対象に加える案が挙がっていますが、どちらも案であって、税率も非課税枠も決まっていません。
この記事が扱うのは、いま決まっていることと決まっていないことの線引きと、決まっている一点が住宅ローンを借りている人の手元まで届く道すじです。その一点とは、預金から個人向け国債へお金が動きはじめている、ということです。
決まっているのは、優遇するという枠だけである
2026年8月20日に共同通信が配信した記事を読みます。財務省と金融庁が2027年度税制改正要望に個人向け国債の税制優遇を盛り込む方針を固めた、と伝えています。同じ記事に、税制優遇の詳細を明示しない「事項要求」とする見通しだ、と書かれています。
事項要求というのは、中身を書かずに検討の枠だけを確保する要望のしかたです。税率も、非課税枠も、いつから始まるかも、この段階では書かれていません。年末にまとまる税制改正大綱までは、この欄は空いたままで、見送られる可能性もあります。
いま個人向け国債にかかる税金は、預金の利息と同じ20.315%である
個人向け国債の利子には20.315%の税金がかかり、これは定期預金の利息にかかる税率と同じです。そして個人向け国債は、いまのところNISAの対象ではありません。
つまり税の扱いでは、個人向け国債と預金は横並びです。優遇というのは、この横並びを崩すという話です。
浮かんでいる2つの案は、得をする人が違う
相続税の側から見ます。個人向け国債の相続税評価は、額面金額に経過した利子を足し、中途換金調整額を引いた金額です。額面がほぼそのまま課税対象になります。ここを減免するなら、効くのは相続する財産を持っている人です。
NISAの側は、利子にかかる20.315%が効かなくなる話です。効くのは、これから積み上げていく人です。
日本経済新聞は2026年7月に、相続税の軽減案について富裕層の節税色が強いという指摘を報じています。共同通信も、公平性を損ねるとして慎重論があると書いています。どちらの案が通るか、両方通るか、どちらも見送られるかは、この時点では決まっていません。
証券会社は財務省に、個人向け国債は「預金代替」だと説明している
2026年5月26日、財務省の「国の債務管理に関する研究会」に、SBI証券の債券部長が資料を出しています。そこにこう書かれています。適用利率が1.5%を上回る水準においては、1%前後の定期預金をはじめとした預金商品と比較して、相対的な優位性が意識されやすく、預金代替としての需要が高まる見込み。
2026年8月募集の固定5年の適用利率は2.06%なので、この1.5%という線はすでに超えています。
同じ資料によると、2026年3月末時点の同社の個人向け国債の預り残高は5,559億円です。1件あたりの販売金額は100万円未満が概ね全体の半分を占めるので、これは大口の資金ではなく、普通の預金者のお金です。件数ベースでは30代未満が17.7%で、これから住宅ローンを組む世代とも重なっています。
税優遇が付いたあとの予想ではありません。付く前の、いまの記録です。
地方銀行の預金は、税優遇より前から細っている
私はここで、順序を逆に読んでいました。最初は「税優遇が付くと地方銀行から預金が抜ける」という、これから起きる話として整理していたのです。
調べると、そうではありませんでした。日本総研が2026年6月18日に出したレポートを見ます。地方銀行の預貸率は、2026年1〜3月期に73.9%から75.8%へ上がっています。預貸率は、預金に対して貸出がどれだけあるかの比率です。上がるということは、貸出のほうが預金より速く伸びているということです。
同じレポートは、上昇の背景を2つ挙げています。企業業績の改善と人手不足による貸出の増加と、日銀が国債の買入額を減らしたことによる預金の減少圧力です。
税優遇は、始まりではありません。すでに始まっているものに、追い打ちをかけるかどうかの話です。
地域銀行が抱える住宅ローンは76.3兆円、国内銀行の約53%である
金融庁の分析ノート「地域銀行の住宅ローンに関する実態把握」に、2023年9月末時点の数字が載っています。地域銀行の住宅ローン残高は76.3兆円で、国内銀行全体の約53%を占めます。
同じ資料は、新規に実行される住宅ローンについて、1件あたりの金額が増え、貸出期間が長くなっていると書いています。35年超の比率が増えています。そして、実行金額の増加と貸出期間の長期化は、一般的にはいずれも債権のリスク増加要因となる、と書かれています。
住宅ローンの半分は、地域銀行が出しています。地域金融機関の預金量と、住宅ローンの出し手としての体力は切り離せません。預金として預けてあるお金と、住宅ローンとして貸されているお金は、同じお金だからです。
預金が抜けた銀行にできることは、2つしかない
私は、住宅ローンの金利は日銀が決めていると整理していました。政策金利が上がれば変動金利が上がる。ここまでは合っています。
ニッセイ基礎研究所の上野剛志が2026年8月5日に出したレポートを読んで、見立てが裏返りました。預金は、銀行にとっていちばん安い資金の調達手段なので、そこが細ると銀行は別の手段を取ることになります。
レポートにはこう書かれています。預金の流出が大規模なものとなれば、預金金利や貸出金利の引き上げ、市場性資金による調達の拡大、貸出・その他資産の抑制などを迫られ、収益が下押しされる可能性がある。
言いかえると、銀行にできることは2つに寄ります。預金を引き止めるために預金金利を上げるか、貸出そのものを絞るかです。前者はいずれ貸出金利に乗り、後者は借りられる金額と審査の厳しさに出ます。この2つは、どちらも日銀の政策金利を通っていません。日銀を見ているだけでは足りない、というのはこの意味です。
税優遇でローン金利がどれだけ上がるかは、誰も計算していない
構造としてそうなる、というところまでしか言えません。幅も時期も書けません。この記事には、ほかにも数字で答えられない場所があります。
規模の話も同じです。日本経済新聞は2026年8月に、税優遇なら預金が100兆円動くという見出しで報じましたが、これは試算です。制度の中身が決まっていない段階の見積もりであって、確定した数字ではありません。
地域差も確認できていません。預貸率の数字は全国の集計なので、地方のほうが深刻だ、とは書けません。そして、この記事が前提にしている税優遇そのものが、まだ通っていません。
決まるのを待つあいだに、見る場所を1つ増やしておく
制度の中身が空欄のうちに、借り換えや繰り上げ返済を急ぐ理由はありません。この記事は、個人向け国債を買ったほうがよいとも、買わないほうがよいとも言いません。
そのかわり、見る場所を1つ増やしておくことはできます。住宅ローンの金利を気にするとき、これまで見ていたのは日銀の会合だったと思います。そこに、自分が借りている銀行の預金金利を足しておく。定期預金の金利が上がりはじめたら、その銀行は預金を引き止めにかかっていて、同じお金が貸出の側にも効いてきます。
年末の税制改正大綱で、いま空欄になっている欄が埋まります。埋まったときに慌てないために、いま何を見ておくか。あなたが借りている銀行の定期預金の金利は、この1年でどう動いていますか。




