AIエージェントを走らせる上で、一番最初にやるべきことは何か。私がそう聞いたのは、やりとりデータを指定のフォルダにまとめている最中でした。
返ってくる答えは、たいてい整理の話です。データを1か所に集めて、ファイル名を揃える。私自身も「そして、フォルダ構造もなるべく深くないほうが良いよね?」と続けて聞いていました。
ここで書くのは、整理の順番ではありません。走らせる前に確かめるものが1つあって、それはやりとりが実際に起きている場所だ、という話です。そこを外すと、読ませた量が多いほど、外れた設計が精巧になっていきます。
前提を1つ外したまま、メールを53通読んだ資料が出てきた
実際に走ってしまったことがあります。最初の依頼を額面どおり受け取ったAIが、確認を取らずにメールを53通読み、窓口の一覧と文体の資料まで作って出してきました。
私は2回止めていて、1回目は「そんな時間かかる?」、2回目は「なんで前提を聞かずに勝手に仕事を進める? ちょっとまってよ。勝手に動かないで指示を待って」です。
止めた理由は遅さではなく、読み終わったものが前提を1つ外していたからです。メールが主戦場だと思って設計されていましたが、実際にやりとりが起きていたのは別のシステムでした。前提を1つ聞けば5分で分かったことが、53通読んでも分かりませんでした。
記録に残るのは決まったことだけで、流れた話は流れたことすら残らない
読ませても分からないものがあります。たとえば、ある月曜のメールに「フローは木曜のMTGで最終決定」と書かれていて、その3日後のメールに、確定した内容と読める記述があります。どちらが最新の決定なのかは、スレッドを全部読んでも判定できません。
木曜に決まったのかもしれませんし、決まらずに流れたのかもしれません。決まったことは書かれますが、決まらなかったことは書かれません。流れた話は、流れたこと自体がどこにも残らないからです。
AIは残っているものしか読めないので、記録の量を増やしても、この穴は埋まりません。埋まるのは、人に1つ聞いたときだけです。
更新の頻度が違うものを同じ棚に置くと、鮮度が分からなくなる
整理の分け方として先に出ていたのは新卒と中途で分ける形で、そこに私は別の分け方を足しました。
個人ごとのデータと、ルールや資料は、更新の頻度が違います。前者は毎日増えますが、後者は数か月動かないこともあります。頻度が違うものを同じ棚に置くと、隣に並んでいるファイルが今週のものか去年のものか、見ただけでは分かりません。
人が分からないものは、AIにも分かりません。ここで話が変わりました。「どう並べるか」から「何を読ませるか」に移ったので、並べ方を詰めている間は、読ませるものがまだ決まっていなかったことになります。
「刺さる」が言葉になっていなければ、AIが書くのは平均的な文になる
相手ごとの文面については、私はこう言いました。「だからさ、相手ごとに刺さる文面をAIが考えるんだ。人間が考えるよりも良いと思うよ」。これは条件つきで正しい、というのが結論でした。条件は1つで、「刺さる」の中身が既に言葉になっていることです。
この件では、通る人と見送りになる人の特徴が4つ、既に文章になっていました。そこまで言葉になっていれば、AIのほうが良く書けます。
言葉になっていなければ、AIが書くのは平均的な文になります。平均的な文を月100通送ると、月100通ぶんの平均的な文が届くだけです。手で書いていたときより速くはなりますが、中身のほうは薄くなります。
53通読んだこと自体は、間違いではなかった
ここまで読むと、53通読んだのが無駄だったように見えます。そうではなく、主戦場が本当にメールだったなら、あの資料はそのまま正解でした。無駄になったのは読んだことではなく、確かめる前に納品まで進んだことです。
そして、確かめることは1つでは足りません。この件でも、使っている媒体の規約が自動での操作を許しているかどうかは、まだ確かめきれていません。論点が「AIを使ってよいか」ではなく「自動で操作してよいか」だと整理したところで止まっています。
確かめる側にも手間はかかりますし、頼んだ相手からすると、確認は遅さに見えます。私自身、相手には「時間をかけないで大丈夫ですし」「むしろ、それぐらいにしてほしいです」と伝えていました。それでも、聞く1つを削ると、あとで全部やり直しになります。
箱だけが3階層できていて、中のファイルはゼロだった
整理は、中身が決まる前に形から始まります。共有フォルダの直下に、相手側の担当者が同じ日の16時36分から16時47分にかけてフォルダを3つ作り、その下にさらに2階層を作っていました。中に入っているファイルは、ゼロでした。
11分で3階層できて、中身は空でしたが、悪いことをしているわけではありません。何を入れるか決まっていないとき、人が最初に動かせるのは形のほうだからです。私が相手に伝えたのも、「とりあえず、新卒と中途でフォルダ分けてファイルを格納していただく感じで大丈夫ですよ」でした。
では、フォルダ階層は浅いほうがいいのか。2026年8月の時点で、私が対話の中で挙げた理由の裏を取れていないので、ここでは答えを出しません。結論が同じでも、理由が違えば、次に迷ったときの判断は変わります。
走らせる前に確かめるのは、やりとりが起きている場所である
順番はこうです。整理より先に、その仕事のやりとりが実際にどこで起きているかを、人に1つ聞きます。メールなのか、相手のシステムの中なのか、チャットなのか。1つ聞けば5分で終わりますし、フォルダの形は、いちばん最後でかまいません。
もう1つ足すなら、決まったことしか記録に残らない、という前提で読ませることです。AIが出してきた要約に「最終決定」と書かれていても、それは決まったと書かれていた、という意味しか持ちません。
いま手元でまとめているフォルダは、やりとりが起きている場所から出てきたものでしょうか。走らせる前に、そこだけ1つ確かめてみてはいかがでしょうか。

