AI導入の効果を判定する数字は、2つです。増収率と増益率です。ただし、全社の数字で見ると判定を誤ります。
各社が発表しているのは削減した時間です。月に何十万時間という単位で出てきます。これだけ削っているなら人件費が下がっているはずだと思って決算を開くと、人件費は下がっていません。
AI導入の効果測定として、削減時間を公表している3社の決算を、全社とセグメントの両方で並べます。
削減時間を効果の指標にすると、損益計算書に対応する数字が出ない
削減時間は、損益計算書のどの科目にも計上されません。時間そのものは費用になりません。決算に載るのは人件費で、人数が変わらなければ人件費も変わりません。
私も以前は、AI導入の効果が出ていないと判定していました。社内で同じ判定をすると、報告の中身は「入れたのに数字が変わらない」になります。そこから、やめる方向の話が始まります。
GMOは月35.2万時間を削減したが、人は7,936名のまま減っていない
GMOインターネットグループが2026年3月に行った調査では、AIエージェントの業務活用率は71.4%、削減時間はグループ全体で月35.2万時間、従業員1人あたり月53.9時間でした。会社はこれを2,203名分の労働力に相当すると説明しています。回答したのは5,353名です。
一方、同社のパートナー数は2026年4月末時点で7,936名です。2,203名分は全体の約28%にあたりますが、その人数の分だけ人が減ってはいません。
削減した時間の分だけ人が減る、という結果にはなっていません。人件費という費目で下がる理由が、そもそもありません。
会社は、削った時間を採用の抑制と新しい業務に振り向ける
削った時間を会社が何に使っているかは、公的な調査にも出ています。総務省の令和8年版情報通信白書によると、日本企業が生成AIで生じうる影響として挙げたのは「作業時間の短縮などによる業務の効率化」が61.6%、「人員不足の解消」が26.8%でした。
人員不足の解消とは、足りない分の人を採用せずに済ませる、という意味です。そのとおりになれば、増えるはずだった人件費が増えません。増えなかった人件費は、前期との比較には現れません。
残った時間は、これまで手が回らなかった業務に回ります。こちらは売上の側に出ることがありますが、AIの分として切り出すことはできません。
効果は、売上が伸びても費用が増えない、という形で出る
ここまでを整理すると、AI導入の効果は「費用が減る」という形では出てきません。出るのは「売上が伸びても費用が増えない」という形です。
費用が減る場合は、売上が同じでも利益が増えます。費用が増えない場合は、売上が伸びた分がそのまま利益に乗ります。後者は、売上の伸び率と利益の伸び率を比べないと見えません。だから、効果を1つの数字で探しても見つかりません。
GMOの場合。全社の増益率は22.5%だが、半分以上は金融セグメント
まず全社の数字を並べます。決算短信からの引用です。
| 決算期 | 売上高 | 増収率 | 営業利益 | 増益率 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年12月期 | 2,586億円 | — | 424億円 | — | 16.4% |
| 2024年12月期 | 2,774億円 | 7.3% | 466億円 | 9.8% | 16.8% |
| 2025年12月期 | 2,856億円 | 3.0% | 571億円 | 22.5% | 20.0% |
2024年12月期も2025年12月期も、増収率より増益率のほうが高くなっています。営業利益率は16.4%、16.8%、20.0%と上がりました。差がはっきり出ているのは2025年12月期で、売上が3.0%しか伸びていないのに営業利益は22.5%伸びています。
ここで止めると、AIが効いたという話になります。セグメント別の内訳を開くと、別の絵が出てきます。
| セグメント | 売上高の増減率 | 営業利益 2024年12月期 | 営業利益 2025年12月期 | 増減額 |
|---|---|---|---|---|
| インターネットインフラ | +6.8% | 344億円 | 405億円 | +61億円 |
| インターネット金融 | △9.8% | 43億円 | 122億円 | +78億円 |
| 暗号資産 | △14.6% | 34億円 | 19億円 | △15億円 |
| インターネット広告・メディア | △1.5% | 35億円 | 24億円 | △12億円 |
| インターネットセキュリティ | +10.4% | 8億円 | 7億円 | △1億円 |
| インキュベーション | △50.7% | 1億円 | △7億円 | △7億円 |
営業利益は全社で105億円増えました。そのうち金融が78億円、インフラが61億円です。この2つ以外は、合計で35億円減っています。
金融セグメントは、売上が9.8%減りながら利益が2.8倍になっています。売上が減って利益が増える形は、AIによる効率化では説明がつきません。金融の利益は相場の動きで変わります。
AIの説明が当てはまるのは、インターネットインフラ事業のほうです。売上が6.8%伸びて利益が18.0%伸びており、増収率より増益率が高い形になっています。同社で最も規模の大きいセグメントです。
つまり、全社の増益率22.5%をAIの成果として読むと、金融の相場要因まで一緒に数えることになります。
サイバーエージェントの場合。増益のほぼ全部がゲーム事業で、広告事業は減益
サイバーエージェントの2025年9月期は、売上高8,740億円で前期比9.1%増、営業利益717億円で78.9%増でした。営業利益率は前期の5.0%から8.2%に上がっています。全社で見れば、GMOと同じ形です。
| セグメント | 売上高の増減率 | 営業利益 2024年9月期 | 営業利益 2025年9月期 | 増減額 |
|---|---|---|---|---|
| ゲーム | +10.6% | 306億円 | 601億円 | +295億円 |
| メディア&IP | +15.7% | △14億円 | 73億円 | +87億円 |
| インターネット広告 | +6.1% | 205億円 | 176億円 | △29億円 |
| 投資育成 | △73.8% | 4億円 | △15億円 | △19億円 |
営業利益は全社で316億円増えました。セグメントの増減を足すと334億円になり、差は全社の費用です。そのうちゲームが295億円で、ほぼ1つのセグメントが占めています。
注目したいのは、インターネット広告事業です。売上は6.1%伸びているのに、利益は29億円減っています。同社が広告クリエイティブの制作にAIを使っていることは公表されていますが、そのセグメントで増収率より増益率が低くなっています。
決算短信に書かれている理由も、AIではありません。メディア&IP事業が10年ぶりに黒字化し、収益性の高いゲーム事業が大幅増益したため、と説明されています。
DeNAの場合。削った分の人を、新規事業へ移している
南場智子会長は2025年2月5日の自社イベントで「DeNAはAIにオールインする」と表明しました。このとき示されたのは、既存の事業を運営している約3000人を半分にして、浮いた分を新規事業に回す、という方針です。人を減らすのではなく、移すという話です。
その表明の後、2026年3月期の決算は売上収益1,477億円で前期比9.9%減、営業利益186億円で35.5%減でした。増収率も増益率もマイナスです。
| セグメント | 売上収益 2026年3月期 | 前期比 | セグメント利益 2026年3月期 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|
| ゲーム | 643億円 | △17.6% | 296億円 | △23.1% |
| ライブストリーミング | 397億円 | △1.9% | 39億円 | 前期は2億円の赤字 |
| スポーツ・スマートシティ | 327億円 | +4.5% | 17億円 | △2.8% |
| ヘルスケア・メディカル | 87億円 | △18.9% | △23億円 | 前期は36億円の赤字 |
| 新規事業・その他 | 24億円 | △30.0% | △15億円 | 前期は1億円の赤字 |
減益の中身はゲーム事業です。前期にヒットしたトレーディングカードゲームアプリの初速が落ちた反動だと、会社が説明しています。
移した先にあたるのは、ヘルスケア・メディカル事業と、新規事業・その他です。この2つは、どちらも赤字です。合わせて38億円のマイナスになっています。
ここが、GMOとの違いが出るところです。人を別の事業へ移すと、移した先の売上が立つまで、全社の利益はむしろ下がります。移す前より悪い数字になるので、増収率と増益率の差では効果を判定できません。
なお、売上が減りながら黒字に転換したライブストリーミング事業もありますが、これがAIによるものだという説明は会社から出ていません。
削った時間をどこへ置くかを、先に決める
3社に共通しているのは、AIで人を減らしていないことです。減らすかわりに、削った時間を別の場所へ置いています。その置き場所が2つに分かれます。
| 置き場所 | 決算での見え方 | 見る数字 | 現物 |
|---|---|---|---|
| 同じ部門に置く | 売上が伸びても費用が増えない | その部門の増収率と増益率の差 | GMOのインフラ事業。売上+6.8%/利益+18.0% |
| 別の部門へ移す | 移した先が立ち上がるまで利益は下がる | 移した先の売上 | DeNAのヘルスケアと新規事業。合わせて38億円の赤字 |
先に決めておかないと、見る数字が決まりません。同じ部門に置いたつもりで移した先の利益を見ると、効果が出ていないという結論になります。移したつもりで同じ部門の利益を見ても、同じことが起きます。
どちらも決めていない場合に何が起きるかは、サイバーエージェントの広告事業に出ています。売上は6.1%伸びているのに、利益は29億円減りました。削った時間が、次の案件をこなす人手に吸われた形です。これは私が数字から読んだもので、会社の説明ではありません。
自社でやることは1つです。AIを入れる部門について、削れた時間を同じ部門の中に残すのか、別の部門へ回すのかを決めて、書き出します。決めたほうの数字だけを、1期分の決算で見ます。
削減時間を報告する欄は外します。時間を金額に換算する作業も要りません。換算すると、時給をいくらに置くかという議論が始まって、そこで止まります。
上場していなくても、部門の売上と部門利益は社内の数字で出せます。部門別の損益を出していない会社でも、AIを入れた部門の人数と売上だけなら並べられます。
よくある疑問
Q:効果測定の記事に必ず出てくるROIは、計算しなくていいのでしょうか。
A:計算してもよいのですが、答えが1つに決まりません。一般的に使われる「(利益-投資額)÷投資額×100」という式は、投資額にライセンス料だけを入れるか、教育や作り直しにかかった時間まで入れるかで、結果が変わります。増収率と増益率の差は、その置き方に左右されません。
Q:この2つの数字は、いつ見ればいいのでしょうか。
A:1期分の決算が出れば判定できます。導入から3か月で測ろうとすると、決算の数字がまだ動いていないので、削減時間に戻ることになります。
Q:人を減らさなければ、効果は無いということでしょうか。
A:人を減らさなくても効果は出ます。ここで見た3社は、どこも人を減らしていません。GMOはパートナー数を減らさずに、インターネットインフラ事業の営業利益を18.0%伸ばしています。
Q:削減時間を数えるのは無駄だったということでしょうか。
A:削減時間には別の使い道があります。社内でどれだけ使われているかを見る数字です。使われていなければ、決算に出るはずがありません。効果の証明として外に出すと、受け取った側が損益計算書を探して、見つからないという結論になります。
削減時間の報告書を作っている途中なら、その時間をどこへ置いたのかを1行足してみてはいかがでしょうか。置き場所が書いてあれば、次にどの数字を見ればいいかは、そこで決まります。


