竹中平蔵氏の投稿で話題の「正社員は解雇できない」は本当か? 1979年の判決と整理解雇の4要件から検証する

正社員の解雇を禁じる法律はありません。法律が求めているのは、解雇に客観的に合理的な理由があり、社会の常識から見て相当であることです。

しかし、「1979年の判例以来、正社員は解雇されにくい」という見方も広まっています。「正社員は解雇できない」は本当でしょうか。

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竹中平蔵氏の投稿をきっかけに、正社員の解雇規制が議論になった

竹中平蔵氏がXへの投稿で、「正社員をなくせばいい」と主張しました。投稿で竹中氏は、派遣は働き手の2〜3%にすぎず、1979年の判例以来、解雇されにくい正社員の構造が問題だと述べています。

この投稿に対し、労働法の研究者の濱口桂一郎氏が、2026年10月8日のブログで反論しました。2人の議論で争点の一つになっているのは、正社員の解雇がどこまで法律で縛られているかです。

労働契約法16条は、理由と相当性を欠く解雇を無効にしている

解雇について、法律が決めていることは次のとおりです。

法律の条文決めていること
労働契約法16条客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利の濫用として無効になる
労働基準法19条仕事によるけがや病気で休んでいる期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は、解雇できない
労働基準法20条解雇するときは30日前までに予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を払う

法律が無効にしているのは、理由と相当性を欠く解雇です。正社員だから解雇できない、という条文はありません。16条の考え方は、最高裁判所が1975年4月25日の判決で示したもので、のちに条文になりました。

厚生労働省の解説にも、解雇は会社がいつでも自由に行えるものではない、とあります。理由があっても、予告の手順は別に守る必要があります。

1979年の判決で、東京高等裁判所は整理解雇が有効かどうかを4つの点から判断した

1979年10月29日に東京高等裁判所が出した東洋酸素事件の判決は、会社の経営上の理由で人を減らす解雇(整理解雇)が有効かどうかを、4つの点から判断しました。

4つの点は、厚生労働省の解説では「整理解雇の4要件」として、次のように書かれています。

4つの点裁判で問われること
人員削減の必要性不況や経営不振などで、人を減らす十分な必要があるか
解雇を避ける努力配置転換や希望退職の募集など、解雇以外の手を尽くしたか
人選の合理性対象者を決める基準が客観的で合理的か。その運用が公正か
手続の妥当性労働組合や働く人に、解雇の必要性や時期、規模、方法を説明したか

整理解雇は、裁判で争われると、この4つの点から有効かどうかが判断されます。人を減らす必要に加えて、解雇を避ける努力や、対象者の選び方、説明の手順まで問われます。

退職勧奨は、応じるかどうかを本人が決める

会社は、解雇の前に退職勧奨をすることが多くあります。退職勧奨は、会社が働く人に「辞めてくれないか」と退職を勧めることで、解雇とは別のものです。

退職勧奨は勧めにすぎず、応じるかどうかは本人が自由に決めます。厚生労働省の解説には、働く人の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法な権利侵害に当たる場合がある、とあります。

退職勧奨を違法とした判決に、下関商業高校事件の最高裁判所の判決(1980年7月10日)があります。厚生労働省の雇用指針は、違法とされた事情として次の3つを挙げています。

  • 勧奨された人が応じないと伝えたあとも、勧奨した側が「退職するまで続ける」と繰り返し言った
  • 勧奨した側が、短い期間に何度も、長い時間をかけて勧奨した
  • 勧奨した側が、退職しなければ組合の要求に応じない、という態度を示した

雇用指針は、これらは裁判例の一般的な傾向で、個別の事案は具体的な状況をふまえて判断されるとしています。

裁判所に持ち込まれた解雇の争いは、多くが解決金で決着している

解雇の理由と手順が厳しく調べられるのは、裁判で争われたときです。ただ、裁判所での手続に進んでも、争いの多くは、解決金を払う和解などで決着しています。

労働政策研究・研修機構の報告書(2023年)と弁護士への調査(2024年公表)から、裁判所での手続の結果を並べると次のとおりです。

調べたこと結果
労働審判で、雇用終了の事案に払われた解決金中央値150万円(759件)
裁判上の和解で、雇用終了の事案に払われた解決金中央値300万円(275件)
弁護士が担当した解雇などの訴訟の終わり方働く人830人のうち和解が639人。そのうち578人は合意して退職した
解雇無効の判決を得た人のその後99人のうち復職したのは37人

法律は正社員の解雇を禁じていません。裁判で争われると理由と手順が厳しく調べられ、争いの多くは解決金で決着しています。解雇や退職勧奨についての相談は、各都道府県の労働局にある総合労働相談コーナーで受け付けています。あなたがこれまで聞いてきた「正社員は解雇できない」は、どの場面の話だったでしょうか。

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