フルコミの営業は、通常は業務委託の契約で働きます。ただ、業務委託に当たるかどうかは、業務実態に沿って判断されます。
働き方の実態から営業担当者が「労働者」と判断されると、フルコミは違法になります。何を見て判断されるのでしょうか。
フルコミが違法かどうかは、実態で労働者と判断されるかどうかで分かれる
業務委託の契約でも、実態が労働者なら労働基準法が適用されます。フルコミとは、固定の給料がなく、契約の件数や売上だけで報酬が決まる形です。
| 働き方 | 労働基準法 | フルコミは |
|---|---|---|
| 業務委託で、実態も業務委託 | 適用されない | 違法ではない |
| 業務委託だが、実態は労働者 | 適用される | 違法になる。保障給と最低賃金が要る |
| 雇用契約 | 適用される | 違法になる。保障給と最低賃金が要る |
労働基準法第27条は使用者に、出来高払いで働く労働者へ「労働時間に応じ一定額の賃金の保障」をするよう求めています。違反すると30万円以下の罰金です(同法第120条)。
労働者かどうかは、7つの要素で判断される
厚生労働省の参考資料集は、労働者に当たるかどうかを「契約の形式や名称にかかわらず」実態で判断するとしています。使う基準は、1985年の労働基準法研究会報告です。
| 要素 | 見ること | 労働者と判断された例 |
|---|---|---|
| 1 仕事を断れるか | 依頼や指示を断れるか | 指示された別の業務を断れなかった |
| 2 進め方の指示 | 具体的な指示があるか | 定例ミーティングと日報が義務 |
| 3 時間と場所の拘束 | 時間と場所が管理されているか | 9時から17時。直行直帰に了承が要る |
| 4 代わりの人 | 本人以外がやってもよいか | 補助者を使うことが想定されていない |
| 5 報酬の決まり方 | 時間に対して払われているか | 時給で計算。遅刻で減額 |
| 6 事業者としての負担 | 道具や経費を自分で持つか | 机とパソコン、交通費を会社が負担 |
| 7 他社の仕事 | 他社の仕事ができるか | 他社の商品は禁止 |
7つの要素の中心は1から5です。報酬がフルコミでも、1から4の要素しだいで労働者と判断されます。6と7は、1から5で判断がつかないときに見ます。
完全歩合でも労働者と判断された例と、判断されなかった例
2つの判決を並べると、以下のとおりです。
| 比べる点 | MID事件(労働者) | 建通エンジニアリング事件(労働者ではない) |
|---|---|---|
| 判決 | 大阪地裁 2013年10月25日 | 東京地裁 2017年8月31日 |
| 仕事 | 保険の勧誘 | 建築工事などの営業 |
| 報酬 | 完全歩合 | 年1,000万円(会社で最高額) |
| 進め方の指示 | 週1回の定例ミーティングと日報が義務 | 営業の相手や方法の指示はない |
| 時間と場所 | 9時から17時。ほぼ定時に出社 | 勤怠の管理を一切受けていない |
| 断る自由・他社の仕事 | 指示された業務を断れない。他社の保険は禁止 | 業務のほとんどを本人の判断に任されていた |
| 税金 | 給与所得の源泉徴収票を受け取っていた | 事業所得として青色申告 |
報酬が完全歩合でも、指示と時間の管理があれば、労働者と判断されます。MID事件の判決理由は厚生労働省の参考資料集から、報酬が完全歩合だったことは法律事務所の解説から引いています。
朝礼、毎日の出社、日報、客の割り振りがあると、労働者と判断されやすくなる
| 会社の運用 | 当たる要素 | 判断されやすいのは |
|---|---|---|
| 毎朝の朝礼に出させる | 2、3 | 労働者 |
| 毎日、決まった時間に出社させる | 3 | 労働者 |
| 日報を義務にする | 2 | 労働者 |
| 直行直帰や休みに了承を求める | 3 | 労働者 |
| 他社の商品を禁止する | 7 | 労働者 |
| 会社が広告で集めた客を割り振る | 1、6 | 労働者(判例は見当たらない) |
| 相手・方法・時間を本人に任せる | 2、3 | 労働者ではない |
| 経費を本人が持つ | 6 | 労働者ではない |
労働者と判断されやすい運用が多いほど、労働者と判断されやすくなります。出社が週1回でも、MID事件では週1回のミーティングと日報が、指示を受けていた事情に数えられました。客の割り振りは判例に出てきませんが、客を断れず集客費も会社持ちなら、事業者とは言いにくいと思います。
労働者と判断されると、会社は最低賃金との差額や残業代を過去3年分払う

東京労働局などは2024年11月1日に「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」を置き、申告を受けて調査したときは「原則、相談者の方が労働者に当たるかどうかの判断を行います」としています。労働者と判断されると、最低賃金との差額や残業代を、最大3年分さかのぼって払うことになります。
判断の基準は、厚生労働省の研究会で見直し中
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会議 | 労働基準法における「労働者」に関する研究会。2025年5月2日に第1回 |
| 最新の回 | 2026年7月17日の第6回。「これまでの議論の整理(案)」の改訂版 |
| 取り上げている仕組み | 働く人をまず労働者と推定し、違うなら会社が証明する(カリフォルニア州やEUの例) |
| 報告書の時期 | 資料に書かれていない |
見直しが終わるまでは、今の基準で労働者かどうかが判断されます。
よくある疑問
Q:業務委託の契約書を交わしていれば、営業担当者が労働者と判断されることはないですか。
A:あります。運用が契約書と違えば、運用のほうで判断されます。
Q:出社が週1回だけなら、労働者と判断されることはないですか。
A:あります。出社の回数に加えて、指示の有無や他社の仕事の制限も合わせて判断されます。週1回のミーティングと日報が、指示を受けていた事情に数えられた判決があります。
Q:報酬を事業所得で申告していれば、労働者ではないと言えますか。
A:言えません。参考資料集は、源泉徴収をしていないことを、労働者ではないと判断する事情にはならないとしています。
自社の運用を、7つの要素の表と照らし合わせる
朝礼、出社、日報、直行直帰、他社の仕事、経費、客の割り振りについて自社の運用を書き出し、労働者と判断されやすい運用がいくつあるかを数えます。あった場合は、運用をやめるか、雇用に切り替えて保障給と最低賃金を払える報酬にするかを決めることになります。迷う場合は、実際の運用を社会保険労務士や弁護士に見てもらってはいかがでしょうか。
