業務委託で働く人が労働基準法の「労働者」に当たるかどうか(労働者性)は、1985年に研究会がまとめた判断基準で、40年にわたり判断されてきました。その基準を、厚生労働省は2025年5月から研究会を設けて見直しています。
それでは、40年使われてきた判断基準が、なぜ今見直されているのでしょうか。
1985年の判断基準は、働き方の変化に対応できていない部分があると、2025年1月に国の研究会が指摘した
1985年の判断基準は、いくつもの要素を総合して判断する形です。1985年の報告書自身も、判断が難しい限界的な例があるとしており、線引きにはもともと曖昧なところがありました。そのうえで、見直しの理由を示したのは、厚生労働省の労働基準関係法制研究会が2025年1月8日に公表した報告書です。報告書は、1985年からの約40年で、働き方の多様化、テレワークの定着、インターネット上の仕組み(プラットフォーム)を通じた仕事、AIやアルゴリズムで働く人を管理する例が進んだとしています。

報告書は、これらの変化によって、労働者とそうでない人の境界がさらに曖昧になりつつあり、どんな働き方をする人が労働者に当たるのかを前もって判断しにくくなっていると書いています。1985年の判断基準には、こうした働き方の変化に対応できていない部分がある、というのが見直しの理由です。
労働者性は、2024年に始まった労働基準法全体の見直しの中で取り上げられた
労働者性の判断基準は、労働基準法全体を見直す研究会の中で取り上げられました。2018年6月に成立した働き方改革関連法は、附則12条で、施行後5年を目途に改正後の法律を見直すと定めています。この見直しと、労働基準法の中長期的な検討のために設けられたのが、2024年の労働基準関係法制研究会です。
経緯は次の図のとおりです。

2025年1月の報告書は、労働者性の判断基準について、引き続き専門的な研究の場を設けて総合的に検討すべきだとしました。 これを受けて、2025年5月2日に労働基準法における「労働者」に関する研究会の1回目が開かれています。
研究会は、1985年の判断基準の要素ごとに、40年分の裁判例を分析している
2025年1月の報告書は、1985年の判断基準を前提にせず、この40年間の事例、裁判例、学説を分析して、直すべき点がないかを検討するよう求めました。あわせて、職種ごとに参考になるガイドラインを示すことも挙げています。
2025年5月からの研究会は、裁判例50件、学説、法律の専門家への聞き取り、海外の動きをもとに、1985年の判断基準の要素ごとに検討を進めています。研究会が挙げている主な論点は、次のとおりです。
| 論点 | 研究会で検討していること |
|---|---|
| 判断の枠組みと重み付け | 1985年の基準が挙げた要素のうち、どれをどの程度重く見るか |
| 注文者がふつう出す程度の指示 | 仕事を頼む側の指示のうち、どこまでなら指揮監督に当たらないか |
| 事業組織への組み入れ | 会社の組織の一部として働いていることを、どう評価するか |
| 契約内容の一方的な決定 | 会社が契約の中身を一方的に、定型的に決めていることを、どう評価するか |
| アルゴリズムによる管理 | 人が直接指示しなくても、仕組みによる指示や時間・場所の拘束があることを、どう扱うか |
| 推定規定と立証責任 | 一定の事情があれば労働者と推定し、そうでないことを会社の側が示す仕組みをどう考えるか |
研究会が目指しているのは、どんな働き方なら労働者に当たるのかを、前もって判断できるようにすることです。
2026年9月の「議論の整理」は、いまの検討状況をまとめた段階にとどまる
研究会は2026年7月17日までに6回開かれ、2026年9月に「これまでの議論の整理」を公表しました。この文書は、研究会のいまの検討状況をまとめたもので、結論や最終的な提言ではありません。1985年の判断基準の要素ごとに裁判例を分析し、論点を並べた段階です。
判断基準をどう変えるかの具体的な案は、2026年9月の時点ではまだ示されていません。 研究会がいつ報告書をまとめるかも、決まっていません。
よくある疑問
Q:見直しが終わるまでは、何を基準に労働者かどうかが判断されるのでしょうか。
A:1985年の判断基準です。会社の指揮監督の下で働いているかと、報酬が指揮監督の下で働いたことへの対価かを、働き方の実態から総合して判断します。厚生労働省は、いまもこの基準を労働者性の判断基準として示しています。
Q:労働基準法9条の「労働者」の定義も変わるのでしょうか。
A:2025年1月の報告書は、まず今の9条のもとで検討すべきだとしています。9条の定義はもともと抽象的で、海外でも定義そのものを大きく変えた例はほとんどないためです。
研究会の公表資料で、見直しの行方を確かめる
見直しの中身は、研究会の資料と議事録で公表されています。業務委託で人に仕事を頼んでいる会社は、研究会のページで、新しい資料が出るたびに論点の行方を確かめてみてはいかがでしょうか。
