業務委託で働く人が労働基準法の「労働者」に当たるかどうか(労働者性)を判断する基準は、2025年5月から厚生労働省の研究会で見直しが議論されています。研究会がいつ報告書をまとめるかは、まだ決まっていません。
それでは、判断基準が変わるとき、法令変更のフローはどう進み、現場の企業にはどんな影響が出るのでしょうか。
判断基準が変わる流れは、通達で示す流れと、法律を改正する流れの2つ
研究会の報告書は、法律ではありません。報告書の中身が労働基準監督署の判断に使われるまでの流れは、2つあります。厚生労働省が通達やガイドラインで示す流れと、労働政策審議会と国会を経て法律を改正する流れです。次の図のとおりです。

どちらの流れになるかは、2026年9月の時点でまだ決まっていません。 見直しのきっかけとなった、2025年1月に厚生労働省の労働基準関係法制研究会がまとめた報告書は、労働基準法9条の定義を変えるより先に、今の9条のもとで判断を前もって分かりやすくする方法を検討すべきだとしています。
通達で示す流れでは、法律を改正せずに監督署の判断が変わる
通達は、行政機関が法律の解釈や運用を、下の機関に示す文書です。厚生労働省の通達は、都道府県労働局や労働基準監督署が判断するときのよりどころになります。
1985年の判断基準も、研究会の報告書であって、法律ではありません。それでも厚生労働省は、いまもこの基準を労働者性の判断基準として示しています。職種ごとの判断も、通達で示されてきました。厚生労働省がまとめた「労働基準法における労働者性の関連通達」(2025年3月時点)には29件が並び、いちばん新しいのは、2023年12月15日の貨物軽自動車運送事業の自動車運転者についての通達です。
通達は国会の審議を経ないので、法律を改正する流れより早く、監督署の判断に反映されます。 2025年1月の報告書も、原則的な判断基準の議論と並行して、職種ごとに参考になるガイドラインを示すことを挙げています。
法律を改正する流れでは、審議会と国会を経て、施行まで年単位の時間がかかる
法律を改正する流れでは、厚生労働省が労働政策審議会に法律案の要綱を諮問し、答申を受けて法案をつくります。法案は閣議で決定したうえで国会に提出され、成立すると公布され、決められた日から施行されます。
2018年の働き方改革関連法では、次の日程でした。
| 時期 | 段階 |
|---|---|
| 2017年9月 | 厚生労働省が法律案の要綱を労働政策審議会に諮問し、同じ月に答申を受けた |
| 2018年4月6日 | 法案を国会に提出した |
| 2018年6月 | 国会で成立し、7月6日に公布された |
| 2019年4月1日 | 主な規定を施行した。中小企業には、後から施行した規定もある |
法律案の要綱の諮問から主な規定の施行まで、1年7か月かかっています。 諮問の前の審議会での議論を含めると、さらに長くかかります。公布から施行までは9か月ほどありました。
どちらの流れでも、労働者と判断された人には、労働基準法などのルールが適用される
判断基準が変わると、同じ働き方でも、労働者と判断されるかどうかが変わることがあります。労働者と判断された人には、労働基準法と最低賃金法のルールが適用されます。以下のとおりです。
| ルール | 会社がすること |
|---|---|
| 労働時間 | 法定の労働時間を守り、時間外労働には労使協定(36協定)を結ぶ |
| 割増賃金 | 時間外労働、休日労働、深夜労働に割増賃金を払う |
| 年次有給休暇 | 条件を満たした人に年次有給休暇を与える |
| 最低賃金 | 最低賃金法にもとづく最低賃金以上の賃金を払う |
会社が払っていなかった賃金は、働く人からさかのぼって請求されることがあります。 賃金を請求できる期間は、2020年4月の労働基準法の改正で、当分の間3年とされています。
2024年11月から、全国の労働基準監督署には、働く人のための「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」があります。相談をもとに監督署が申告として調査した場合は、原則として、その人が労働者に当たるかどうかを判断します。
企業に影響が出るまでの時間は、通達で示す流れのほうが短い
2つの流れを、企業への影響で比べると、次のとおりです。
| 比べる点 | 通達で示す流れ | 法律を改正する流れ |
|---|---|---|
| 変わるもの | 監督署が判断に使う基準 | 法律の条文 |
| 国会の審議 | 経ない | 経る |
| 企業に影響が出るまで | 法律を改正する流れより短い | 働き方改革関連法では、諮問から施行まで1年7か月 |
企業に影響が出るまでの時間を左右するのは、国会の審議を経るかどうかです。
よくある疑問
Q:研究会の報告書は、いつ出るのでしょうか。
A:決まっていません。研究会は2026年9月に「これまでの議論の整理」を公表しましたが、この文書は検討状況をまとめたもので、判断基準をどう変えるかの具体的な案はまだ示されていません。
Q:見直しが終わるまでは、労働者かどうかは何で判断されるのでしょうか。
A:1985年の判断基準です。会社の指揮監督の下で働いているかと、報酬が指揮監督の下で働いたことへの対価かを、働き方の実態から総合して判断します。
研究会の報告書と、そのあとに出る通達やガイドラインを確かめる
研究会の報告書のあと、判断基準が通達やガイドラインで示されるか、法律の改正に進むかで、企業に影響が出るまでの時間が変わります。研究会のページと厚生労働省の公表資料を、新しいものが出るたびに確かめてみてはいかがでしょうか。
判断に迷う働き方があるときは、社会保険労務士や弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
