総務省は2026年10月27日付で、電気通信事業者協会など通信業界の4団体に、GMOインターネットグループに不正アクセスした攻撃者の脅迫サイトのブロッキングを要請する文書を出しました。脅迫サイトには、顧客のものとされる個人情報が載っていました。ブロッキングは、利用者がそのサイトにつなごうとしても、通信事業者がつながせない措置です。
この脅迫サイトへのブロッキングは、どういう基準で決まり、どんな法令を根拠にできるのでしょうか?
法令の根拠は刑法の緊急避難で、基準は緊急避難の3つの条件である
ブロッキングを行ってよいと定めた法律はありません。これまでのブロッキングは、刑法第37条の緊急避難に当たるときは罰せられない、という解釈で行われてきました。第37条は「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」と定めています。
基準は、差し迫った危険がある、ほかに手段が無い、守る利益が利用者全員の通信の秘密より大きい、の3つの条件を満たすかどうかです。
ブロッキングは電気通信事業法が守る通信の秘密を侵す行為に当たる
緊急避難を根拠にするのは、ブロッキングがそのままでは違法になるからです。電気通信事業法第4条は「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と定めています。
通信の秘密が守る範囲には、通信の中身だけでなく、利用者がどのサイトにつなごうとしているかという相手先も含まれます。日本インターネットプロバイダー協会の資料は、ブロッキングは利用者のつなぐ先を全部確かめて、特定のサイトへの通信を止めるので、通信の秘密を侵すと説明しています。
ブロッキングは、そのサイトを見ない人も含めて、利用者全員の通信の秘密を侵します。電気通信事業法第179条は、通信の秘密を侵した人に、2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金を科すと定めています。
3つの条件の中身は、児童ポルノのブロッキングを検討したときに示された
児童ポルノのブロッキングを始めるときに、安心ネットづくり促進協議会の児童ポルノ対策作業部会が3つの条件を満たすかどうかを1つずつ検討しました。以下のとおりです。
| 条件 | 何を見るか | 児童ポルノでの判断 |
|---|---|---|
| 差し迫った危険がある | 守りたい権利が、いま侵されているか | 画像が誰でも見られる状態で、広がりつつある |
| ほかに手段が無い | 削除や検挙など、通信の秘密を侵さない手段で止められないか | 削除の要請に応じない管理者がいる。管理者を逮捕しても画像は残る |
| 守る利益のほうが大きい | 守る利益が、利用者全員の通信の秘密を上回るか | 児童の権利への侵害が著しい場合は上回る |
3つのうち1つでも欠ければ、ブロッキングは通信の秘密を侵した行為になります。作業部会は、関係のないサイトまで止めてしまうことも、ほかに手段が無いという条件に反するとしています。
今回は、個人情報が広がるのを止める応急の措置として要請されたとみられる
共同通信の配信記事(西日本新聞)によると、今回のブロッキングの要請は、通信の秘密を実質的に侵すため異例の対応です。それでも、情報が広がるおそれが現実になってきたため、応急の措置として許されると判断されたとみられる、としています。
GMOは第13報で、10月28日午前4時ごろに脅迫サイトのドメインが止められたことを確認したと発表しました。ドメインを止める方法は、サイトそのものを止めるので、利用者の通信を見ません。
サイトそのものが止まれば、ほかに手段が無いという条件は満たされなくなるはずです。総務省が要請した27日の時点では、脅迫サイトはまだ止まっていませんでした。
ブロッキングを行うかは通信事業者が決め、総務省の要請は命令ではない
総務省が通信事業者にブロッキングを命じられると定めた法律はありません。2018年4月13日に政府が決めた海賊版サイトへの緊急対策も、ブロッキングを「民間事業者による自主的な取組」とし、法律ができるまでの臨時の措置としていました。
緊急避難に当たるかは行為のあとで判断されるので、ブロッキングをした通信事業者が、罰せられるかもしれない立場を引き受けることになると思います。今回の要請の文書は公表されておらず、3つの条件をどう説明したかは分かりません。
サイバー対処能力強化法の説明資料に、通信事業者のブロッキングは出てこない
2026年10月には、サイバー攻撃への対処を強める法律の一部が施行されました。内閣官房などの説明資料によると、この法律で行えるのは、警察や自衛隊が攻撃に使われているサーバーに入って無害化する措置や、通信の情報を使った分析です。
内閣官房などの説明資料には、通信事業者に特定のサイトへの接続を止めさせる仕組みは出てきません。今回の要請も、これまでと同じ緊急避難の考え方の上にあるはずだと思います。
オンラインカジノの検討会は、ブロッキングを行うなら法律が要るとまとめた
総務省の検討会が2026年7月にまとめたオンラインカジノのアクセス抑止についての報告書は、ブロッキングを、通信の秘密や知る自由に抵触するおそれのある対策としました。そのうえで、法解釈に基づく事業者の自主的な取り組みとして行うのは適当でなく、必要と判断されたときは法律を作る必要があるとしています。
基準を法律で決めない限り、どのサイトまで止めるかは、そのときどきの解釈で決まります。児童ポルノ、海賊版サイトに続いて、今回は個人情報が載った脅迫サイトにブロッキングが要請されました。次は、どんなサイトがこの解釈の対象になるのでしょうか。

