戦略が実行されない最大の理由は、従業員が日々の判断で使っている価値観や習慣、つまり企業文化が、戦略の求める行動と合っていないことです。
しかし、戦略が実行されない原因は、戦略の内容や従業員の能力にあるという見方もあります。
企業文化の定義、「企業文化は戦略に勝る」という言葉の意味、トヨタとファーストリテイリングの理念の共通点、企業文化をつくる7つの手法の順に、この記事は説明します。
企業文化とは何か
企業文化とは、組織の中で共有されている価値観、信念、行動様式、習慣の全体です。従業員が日々の判断で使う、言葉にされていないルールや判断基準が、その中身にあたります。
企業文化には、組織の中で果たす役目が3つあります。
- 企業文化は行動の基準になります。文化が明確だと、従業員は上司に確認しなくても、同じ基準で判断できます。
- 企業文化は、従業員が自分は組織の一員だと感じる手がかりになります。
- 企業文化は、応募者に会社の特徴を伝える材料にもなります。
「企業文化は戦略に勝る」の意味
この言葉は、英語の「Culture eats strategy for breakfast」の訳として知られています。戦略を実行できるかどうかは、組織の文化によって決まるという意味で使われます。
この言葉はドラッカーの言葉とされることが多いものの、ドラッカー本人が述べた確かな証拠はありません。記録で最も古い例は、2000年9月の製紙業界誌が引用した、同年3月のGiga Information Groupの見出しです(Quote Investigator)。
たとえば、顧客への迅速な対応を戦略に掲げた会社に、失敗を強く嫌い、上司の承認なしには動けない文化があるとします。従業員は迅速に対応することより、失敗しないことを優先するので、戦略は実行されません。
反対に、戦略が決まっていない場面でも、「常にお客様の期待を超える」という文化が共有されていれば、従業員は顧客にとっての価値を高める行動を選びます。企業文化は、戦略の実行を支え、戦略がない場面での判断も補います。
トヨタとファーストリテイリングの理念の共通点
トヨタとファーストリテイリングが公表している理念を比べると、改善、現場、人の尊重の3つの観点で内容が重なっています。ただし、この比較は2社が公表している理念の対応を示すもので、文化が業績の原因だと証明するものではありません。
| 観点 | トヨタ自動車 | ファーストリテイリング | 共通点 |
|---|---|---|---|
| 改善への姿勢 | トヨタウェイは「継続的な改善」を柱の1つにしている。カイゼンはその中に含まれる。 | 価値観「革新と挑戦」で、過去の常識を疑い、ものを本質から見直して、より良く新しく変えることを掲げる。 | 今のやり方を見直し続ける |
| 判断の拠り所 | 現地現物。事実を自分で確かめてから判断する。 | 行動規範「現場・現物・現実に基づき、リアルなビジネス活動を行います」。 | 判断の根拠を現場の事実に置く |
| 人材への考え方 | 「人間性尊重」(Respect for People)を柱の1つにしている。 | 行動規範「多様性を活かし、チームワークによって高い成果を上げます」と、価値観「個の尊重、会社と個人の成長」。 | 人を尊重し、成果の土台とみなす |
自動車と衣料という異なる業種でも、2社は改善、現場、人の尊重という3点で理念が重なっています(出典:トヨタ自動車、ファーストリテイリング)。
企業文化をつくる7つの手法
企業文化は、経営陣が意図して決め、続けることで形になります。ここでは、そのための7つの手法を順に挙げます。
ステップ1:ビジョンとミッションを行動の言葉に直す
経営陣は、ビジョンやミッションを、従業員が明日から何をすればよいか分かる言葉に直して、従業員に伝えます。「このミッションを達成するために、明日どのような行動をするか」を、従業員が自分の言葉で答えられる状態が目安です。
ステップ2:経営陣が最初に行動で示す
経営陣が、定めた文化に沿った行動を自分で最初に示します。従業員は、経営陣の言葉より、経営陣が実際に何をしたかを見て、何が求められているかを知ります。
ステップ3:従業員を文化づくりに参加させる
経営陣が決めるだけでなく、従業員が意見を出せる場を設けます。ワークショップや全社集会で意見を集め、文化の言葉に反映させると、従業員が文化を自分のこととして受け止める機会になります。
ステップ4:改善提案を制度にする
トヨタは継続的な改善を理念に掲げています。同じように、日常業務の中で改善提案を出すことを奨励し、出された提案を評価する制度を設けます。
ステップ5:評価と報酬を文化に合わせる
会社が何を評価し、何に報酬を与えるかは、会社が大切にしていることを従業員に伝えます。文化に合った行動が、はっきり評価され、称賛される仕組みをつくります。
ステップ6:情報を共有する場を設ける
会社は、部門どうしが情報を共有する場を設けます。定期的な全社ミーティングや社内SNSが、その手段になります。
ステップ7:採用と育成の基準に文化との相性を入れる
会社は、採用の面接で、スキルや経験に加えて、応募者が自社の文化を理解し、その考え方で行動できるかを確かめます。入社後の研修でも、文化を理解して行動に移せる人を育てる内容を入れます。
最初の一歩を決める
企業文化が戦略の実行を左右するなら、経営陣がまず確かめるのは、戦略が実行されなかった場面で従業員が何を基準に判断したかです。
読者のあなたは、戦略が実行されなかった場面を1つ選び、従業員が何を基準に判断したかを、経営陣や従業員と話し合ってみてはいかがでしょうか。





