研修や窓口を整えても、ハラスメントがなくならないのはなぜか?

ハラスメントは、厳しく指導して数字を出した人が評価される仕組みが残っていると、研修や窓口を整えてもなくなりません。そのため評価の仕組みまで見直す必要があり、見直す前に確かめることは2つです。

しかし、上司の自覚や知識の不足、職場の風通しの悪さが原因だと考える方も多いと思います。自覚や風通しに取り組んできた会社でも、同じ部署から相談は続いています。

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研修や窓口を整えても、パワハラの相談が減った企業は5社に1社ほどにとどまる

パワハラ対策はほとんどの企業で整っていますが、相談件数が減った企業は2割ほどです。

厚生労働省の令和5年度の実態調査(2024年5月公表、7,780社が回答)では、パワハラの予防や解決に取り組む企業が95.2%でした。

一方で、厚生労働省が過去3年間に相談のあった企業に件数の推移を聞くと、「減少している」と答えた企業は21.8%でした。

規程が禁じる言動は増えても、管理職が達成する目標の水準は変わらない

相談が続く職場では、規程が増えても目標の水準は変わらないままのことが多いと思います。目標管理シートの前年比の数字や締め切りは、去年のままになりがちです。

規程が禁じるのは、大声で怒鳴る、人格を否定する、人前で長時間叱責するといった言動で、どれも必要な条項です。言い方が制限されて、出すべき成果が同じままなら、管理職は同じ目標の中でやり方を選び直すことになります。

管理職が厳しい言動を選ぶ理由になっている目標や評価の条件は、会社が見直す対象になります。

研究は、人をいじめに向かわせる組織の条件として、社内の競争や報酬制度を挙げている

目標や評価の条件が言動に関わることは、職場のいじめの研究でも示されています。Denise Salin は2003年のレビュー論文で、社内の競争、報酬制度、いじめで得られると見込まれる利益を、人をいじめへ動機づける組織の構造として示しました。

論文は職場のいじめ全般を扱ったもので、日本のハラスメント対策を検証した研究とは範囲が異なります。それでも、ハラスメント対策はコンプライアンスや総務が、評価制度は人事が受け持つことが多いため、評価の条件は対策の議論から抜け落ちやすいと思います。

相談窓口と研修は、上司が成果をどう作るかを扱っていない

評価の条件が議論から抜け落ちる一方で、相談窓口はハラスメントが起きた後の対応を、研修は行為者の認識を対象にしています。どちらも必要な仕組みですが、上司が成果をどう作るかは扱っていません。

パワハラを受けた人は減っても、特定の部署では相談が続く

窓口や研修が成果の作り方を扱っていない一方で、対策は職場を確かに変えてきたと思います。過去3年間にパワハラを受けたと答えた労働者は、令和2年度の前回調査の31.4%から、令和5年度は19.3%に下がりました。

受けた人の割合が下がったことと、対策を一通りやっても特定の部署で相談が続くことは両立します。

ルールを足すと、必要な指導をしない管理職が出てくる

規程を足していくと、訴えられることを恐れて部下に何も言わない管理職も出てきます。言い方が制限される一方で、達成すべき数字は据え置かれているからです。

言い方の制限と据え置かれた数字を同時に満たす方法は、管理職に渡されていません。同時に満たす方法がないまま管理職が選びやすいのは、制限を無視して従来どおりに指導を続けるか、部下に任せずに自分で仕事を抱え込むかの2つです。

前者はハラスメントの相談につながります。禁止事項が細かくなるほど、迷ったときは何も言わないほうが安全だと管理職には見えるため、後者も増えやすく、管理職本人が仕事を続けられなくなるおそれがあります。

確かめるのは、評価された人がどうやって成果を作ったかである

管理職が厳しい指導や抱え込みを選ぶ背景にある評価と目標は、規程を1行も書き換えずに確かめられます。評価の仕組みを見直す前に確かめることは、次の2つです。

  1. 直近1年で昇格した人や表彰された人が、どうやって成果を作ったかを確かめる
  2. 相談があった部署の今期の目標が、去年と同じやり方でしか達成できない水準に設定されていないかを確かめる

1つ目を確かめて、仕事を長時間抱え込むことや部下への強い要求が成果の中心になっていれば、会社は今もそのやり方に報酬を払っていることになります。社員は、誰が評価されたかを見て、自分の行動を選ぶと思います。

2つ目を確かめて、人員も期限も権限も変わらないのに目標の数字だけが上がっていれば、上司が部下への圧力に頼りやすい条件がそろっています。評価された人の成果の作り方と目標の水準を確かめた結果が、評価の仕組みを見直す材料になります。

よくある疑問

Q:厳しい指導をやめたら、成果が落ちるのではないでしょうか。

A:言い方だけを禁じて、目標も人員もそのままにした場合は、成果は落ちます。厳しい指導で出していた成果が圧力に頼っていて、代わりの方法を用意していなかったからです。代わりの方法は、目標の水準を実態に合わせる、人を増やす、やらない仕事を決める、のいずれかになります。

Q:目標を下げろということでしょうか。

A:確かめてほしいのは、いまの目標に届く方法が、圧力のほかにあるかどうかです。方法があるなら目標はそのままにして、その方法を明示し、評価の項目に入れます。方法がないなら、目標か、人員などの資源のどちらかを動かす必要があります。

Q:意識を変える研修は無駄でしょうか。

A:研修には、何がハラスメントに当たるかの線を職場でそろえる役割があります。ただ、研修が扱えるのは行為者の認識までで、行為者が置かれている評価の条件は研修では変わりません。

厳しくやった人を評価する仕組みが残る限り、ハラスメントはなくならない

研修が線をそろえる役割を果たしていても、厳しく指導して数字を出した人を評価する仕組みが残っていれば、ハラスメントはなくなりません。規程を1行増やす前に、いま、あなたの会社で最も評価されている人がどうやってその成果を作ったのかを、確かめてみてはいかがでしょうか。

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