AIエージェント開発は、風来のシレンによく似ています。AIエージェントとは、目標を渡すと、自分で手順を立て、ツールを使って作業を進めるAIのことです。
ただ、AIは使えば使うほど賢くなる、と思う方もいるのではないでしょうか。
AIエージェントは、人が書き残していないことを別のスレッドで覚えていない
風来のシレンでは、ダンジョンを出たり、冒険の途中で倒れたりすると、レベルが1に戻ります。倒れたときは、持っていた道具も基本的になくなります。
AIエージェントも、メモリーやスキルに書かれていないことは、別のスレッドでは覚えていません。AIエージェントは、使っても賢くなりません。
書き残した手順と、作る人が失敗から学んだことは、次の会話でも使える
では、次の会話に何が残るのでしょうか。風来のシレンでは、倉庫に預けた道具は次の冒険でも使えます。どの罠が危ないか、どの敵に何が効くかも、倒れても遊ぶ人の頭に残ります。
AIエージェントでは、スキルとメモリーが倉庫にあたります。スキルは、手順や決まりを書いたファイルの集まりで、Claudeは依頼の内容が合ったときにそれを読み込みます(Claudeのドキュメント「Skills overview」)。AIエージェントが前より上手に動くようになったときは、書き残した手順と、その手順を書いた人の経験が増えています。
作業に失敗したら、AIエージェントを作る人がその原因をスキルに書き足します。次の会話のAIエージェントは、その手順を読んでから動きます。風来のシレンで、倒れて覚えたことを次の冒険で使うのと同じです。
1つの会話で続けられる作業の量には、上限がある
冒険の途中にも、似ているところがあります。風来のシレンの満腹度は一定のターンごとに減り、0になると、動くたびにHPが減っていきます。
AIエージェントでは、コンテキストウィンドウが満腹度にあたります。Anthropicの説明では、コンテキストウィンドウは、AIが返事を作るときに参照できる文章の全体を指します。会話が長くなると上限に近づき、前のやりとりを要約して詰める処理が必要になります(Anthropicのドキュメント「Context windows」)。AIエージェントにも、1つの会話で続けられる作業の量に上限があります。
初めてつないだツールは、動かすまで何が返ってくるか分からない
風来のシレンには、拾った時点では名前が分からない「未識別」の道具があります。使ってみるか、店の値段から見当をつけて、正体を知ります。
AIエージェントに初めてつないだツールやサービスも、どんな画面を返すか、どこで止まるかは、動かすまで分かりません。一度動かして分かったことは、スキルに書いておくと、次の会話でも使えます。
AIが読む文章には、人に見えない指示が隠れていることがある
風来のシレンの罠は、普段は見えず、上に乗ると発動します。
AIエージェントでは、プロンプトインジェクションが罠にあたります。Anthropicは、AIが読む文章の中に隠された指示を危険として挙げています。例は、白い文字で書かれて人には見えないのに、AIは読んでしまうメールの指示です(Anthropicの研究記事、2025年11月24日)。AIエージェントが読むメールやウェブページには、人の目に見えない指示が入っていることがあります。
同じ指示を出しても、返ってくる文章は毎回少しずつ違う
風来のシレンのダンジョンは、入るたびに構造が変わります。
AIエージェントに同じ指示を出しても、返ってくる文章は毎回少しずつ違います。Anthropicも、出力をそろえるための方法を案内するページを出しています(Anthropicのドキュメント「Increase output consistency」)。AIエージェントの出力も、風来のシレンのダンジョンと同じく、毎回少しずつ変わります。
AIエージェントでは、土台のモデルが入れ替わる
風来のシレンのルールは、遊んでいる途中で変わりません。AIエージェントは、土台のモデルが入れ替わります。Anthropicは古いモデルを定期的に廃止していて、たとえば claude-3-7-sonnet-20250219 は2025年10月28日に非推奨になり、2026年2月19日に使えなくなりました(Anthropicのドキュメント「Model deprecations」)。
モデルが入れ替わると、スキルに書いた手順は、前のモデルに合わせて書いたものになります。
よくある疑問
Q:AIエージェントは、使っているうちに自分で覚えていかないのですか。
A:会話の中で教えたことは、その会話の中では使えます。次の会話に残すには、メモリーかスキルに書いておく必要があります。
まとめ:AIエージェント開発では、書き残したものが次の会話でも使える
風来のシレンとAIエージェント開発の対応は、以下のとおりです。
| 比べる点 | 風来のシレン | AIエージェント開発 |
|---|---|---|
| 始まり方 | ダンジョンを出るか倒れると、レベル1に戻る | 書き残していないことは、次の会話で覚えていない |
| 次に残るもの | 倉庫に預けた道具 | スキルとメモリーに書いた手順 |
| 人に残るもの | 遊ぶ人が覚えた罠や敵の知識 | 作る人が失敗から学んだこと |
| 減っていくもの | 満腹度 | コンテキストウィンドウ |
| 正体が分からないもの | 未識別の道具 | 初めてつないだツール |
| 見えない危険 | 罠 | 文章に隠された指示 |
| 毎回変わるもの | ダンジョンの構造 | 返ってくる文章 |
| ルール | 変わらない | モデルが入れ替わる |
AIエージェント開発では、書き残した手順と、作る人が失敗から学んだことが、次の会話でも使えます。AIエージェントが作業に失敗したら、その原因をスキルかメモリーに書き足してみてはいかがでしょうか。


