ほかの人に気持ちよく手伝ってもらう方法として、誰に頼むかを選び、なぜその人なのかを伝え、その作業が何につながるかを相手と共有する、という3つの手順が挙げられます。この3つの手順そのものの効果は、実験では確かめられていません。
しかし、頼む側には、頼むと相手に迷惑がかかり、自分の能力を疑われるのではないかという不安が残ります。
この記事は、頼むことをためらわせる3つの思い込み、頼み方の3つのステップ、頼ることがもたらしうる3つのことを順に並べます。
頼むことをためらわせる3つの思い込み
頼む人は、相手が引き受ける確率を、実験では実際より低く見積もっていました。評価する側の人たちは、助言を求めた人を、求めなかった人より有能だと評価しました。
迷惑をかけるという思い込み
2008年にFrancis J. FlynnとVanessa Lakeが『Journal of Personality and Social Psychology』に発表した研究では、実験と現場の調査で、人は他者が直接の頼みごとを引き受ける確率を最大で5割低く見積もっていました。頼む側は、相手が断るときの気まずさを軽く見ていたことも示されています。
能力を疑われるという思い込み
2015年にAlison Wood Brooks、Francesca Gino、Maurice E. Schweitzerが『Management Science』に発表した研究では、人は能力を疑われることを恐れて助言を求めるのをためらいますが、評価する側の人たちは、助言を求めた人のほうを、求めなかった人より有能だと評価しました。課題が難しいほど、また相手が専門家であるほど、この傾向は強く出ました。
この研究が調べたのは、助言を求めることです。作業そのものを頼む場面は、その延長として読めます。
業務が専門化するなか、一人で全ての領域を網羅するのは難しく、専門外は知見のある人に頼む判断が、自分の限界を踏まえた時間の使い方になると思います。
責任感が「全部自分でやる」に変わる
「責任者だから、全てを把握して実行しなければならない」という考えは、責任の目的である全体の成功確率を高めることから離れやすくなります。責任とは、プロジェクト全体の成功確率を高めることだと思います。その作業に適した人に任せる判断が、責任ある行動になる場面もあります。
頼み方の3つのステップ
頼む側が相手を共に価値をつくるパートナーとして扱うには、3つの手順があります。誰に頼むかを決め、なぜその人なのかを伝え、作業の先にあるものを共有する順です。
ステップ1:何を頼むかより先に、誰に頼むかを決める
先に決めるのは、「何を」頼むかよりも「誰に」頼むかです。作業を切り出す前に、その作業に合うスキル、経験、関心を持つ人が誰かを見ます。
相手の成長機会につながる依頼は、長く続く関係に向くと思います。
ステップ2:「なぜ、あなたなのか」を言葉にする
頼む側は、相手が決まったら、「なぜ、あなたにお願いしたいのか」を具体的に相手へ伝えます。例は「この件の分析は、〇〇さんの客観的な視点が必要だと考えました」「このデザインの言語化は、〇〇さんの繊細な表現力でないと難しいと感じています」です。
頼む側が理由を伝えると、依頼が単なる作業から、その人の能力が求められる機会に変わり、相手の自己重要感が満たされて内発的な動機が高まるという説明があります。この効果は、実験では確かめられていません。
ステップ3:作業の先にあるものを共有する
頼む側は相手に、依頼する作業がプロジェクト全体のどこに位置し、完了すると顧客の満足やチームの目標達成などにどうつながるかを伝えます。
2008年にAdam M. Grantが『Journal of Applied Psychology』に発表した研究では、資金集めの電話をかける人たちに、自分の仕事の意義を伝える介入をしたところ、ほかの2つの条件の人たちより、また以前の自分より、成績が上がりました。ライフガードでは、自分の仕事の社会的な影響の実感が高まり、仕事への献身と人を助ける行動が増えました。この研究が測ったのは、自分の仕事の意義を知った働き手の成果です。
頼ることがもたらしうる3つのこと
頼る側は、自分の時間を力の出せる仕事に使い、チームの信頼関係を育て、休む余裕を持てるようになります。抱え込みを減らすと、自分が力を出せる仕事に時間を回しやすくなります。
自分の時間を、力の出せる仕事に使える
一人で全てを抱えると、限られた時間を、自分が得意でない作業にも使い続けます。得意な領域と最も価値を生む中核の業務に集中し、それ以外は他者の力を借りる分業をすると、成果を出すための時間を確保しやすくなる可能性があります。
チームの信頼関係を育てる
敬意のある依頼は、相手への信頼を伝えるコミュニケーションの一つです。依頼と感謝が繰り返されると、互いを尊重する関係が育つ可能性があります。
休息のための余裕をつくる
いつも自分が引き受けられる量より多くの仕事を続けると、心身が消耗し、パフォーマンスが下がる可能性があります。一人で抱え込まない選択は、心身を回復させる時間と、物事を広く見直す余裕を生みます。
心身の不調が続くときは、医師などの専門家にも相談してください。
小さな依頼から試してみてはいかがでしょうか
頼む前に、「なぜ、あなたなのか」を一言添えることから始められます。頼むことは、自分の限界を認識し、相手の持つ力を尊重する行為として読めます。
いま一人で多くの作業を抱えているなら、資料のレビューを誰かに頼んでみる、不得意な作業について得意な人に助言を求めてみる、引き受けてくれたことに心から感謝を伝える、といった小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。







