完全業務委託を今から始めるなら、基準が変わっても労働者と判定されない設計とは?

今から完全業務委託を始めるなら、指揮命令も、稼働時間の管理も、専属も、指名もすべてやめて、相手を事業者として扱える契約にします。現行の判断基準ぎりぎりに合わせると、基準の見直しの内容次第で、今は適法な運用が別の判断を受ける可能性があるからです。

しかし、現行の基準を満たしていれば今は適法なのだから、見直しの検討は気にしなくてよいのではないか、という反論があります。

この記事では、判断基準の内容、見直しの状況、具体的な設計、やめること、相談窓口の順に説明します。

目次

労働者かどうかは、実態をもとに個別の事案ごとに判断される

契約書に「業務委託」と書いてあっても、実態として指揮監督下で働き、報酬がその労務への対価であれば、その人は労働基準法上の労働者です。判断は契約の形式や名称にかかわらず、個別の事案ごとに総合的に行われます。

判断のもとになっているのが、労働基準法第9条と、労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)です。第9条は、労働者を「使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています。報告は、指揮監督下の労働であるという労務提供の形態と、報酬が労務への対償であるという性質を合わせて「使用従属性」と呼び、労働者性の判断の中心に置いています。

判断では、次の点を見ます。

  • 仕事の依頼を断る自由があるか
  • 業務の進め方に具体的な指揮命令があるか
  • 勤務時間や場所の拘束があるか
  • 他人が代わりに行えるか

判断が難しい場合は、専属性なども考慮に入れます。

実際に、2023年には、個人事業主として扱われていたネット通販大手の配達員が、業務中の負傷で労働基準監督署から労災と認められたと、労働組合が公表しました。

完全歩合で報酬を決めたい場合に業務委託が検討されるのは、労働基準法第27条のためです。出来高払制その他の請負制で使用する労働者には、使用者が労働時間に応じた一定額の賃金を保障する義務があり、雇用では成果が少なくても保障給を払う必要があります。

労働者の判断基準は、約40年ぶりの見直しが検討されている

厚生労働省は2025年5月から、「労働基準法における『労働者』に関する研究会」で、労働者性の判断基準を検討しています。昭和60年の報告から約40年が経ち、現行の基準が働き方の変化に対応できているかが問われているためです。

初会合で、座長の岩村正彦・東京大学名誉教授は、昭和60年報告の作成から約40年が経ち、インターネットやスマートフォンを使った働き方の変化に必ずしも対応できていない部分があるという指摘があると述べました。

検討する事項は、労働者性に関する事例・裁判例・学説の分析、プラットフォームワーカーを含む新しい働き方の課題、判断基準の在り方、判断の予見可能性を高める方策です。

見直しの内容と時期は、まだ決まっていない

研究会は2026年7月の第6回会合で「これまでの議論の整理(案)」を資料に出した段階で、最終の報告書は公表されていません。判断基準をどう変えるかの結論も、まだ示されていません。

整理(案)には、予見可能性を高める方策として、労働者性の推定規定や立証責任の転換が検討対象に挙がっています。いつ、どのような基準になるかは決まっていません。

今の時点で言えることは、次の三つです。

  • 昭和60年の報告に基づく判断基準が、今も使われている
  • その基準の見直しが、研究会で検討されている
  • 見直しの内容も時期も、決まっていない

現行基準ぎりぎりの設計は避け、疑いなく労働者に当たらない設計にする

現行基準を満たすだけの設計は、基準が変わらないことを前提にしています。見直しの内容が決まっていない以上、判断を左右する、断る自由・指揮命令・拘束・代替性の四つの点のそれぞれで、疑いなく労働者に当たらないところまで運用を整える設計にします。

この方針は、法令や研究会が示した結論ではなく、見直しの内容が未確定であることから導いた考え方で、専門家の定説でもありません。

断る自由・指揮命令・拘束・代替性の四つの点それぞれについて、判定に通る最低限だけ満たす設計と、疑いがなくなるところまで満たす設計があります。たとえば、朝礼への参加を任意にする、同行を強制しない、稼働時間を管理しない、他社の仕事を制限しない、といった運用を、後者の水準で行います。

疑いのない設計では、会社は指揮命令などをやめることになる

疑いのない設計にすると、会社は指揮命令も、教育の強制も、他社の仕事の制限もできなくなります。業務委託の相手は事業者であって会社の部下ではないため、これらができないことが業務委託の前提です。

具体的には、朝礼に呼ぶこと、教育を強制すること、他社の仕事をやめさせること、会社のやり方を押しつけることは、できません。

これらを全部やめられるなら、契約は業務委託の実態に合います。やめられないことがあるほど、その人は労働者と判断される側に近づきます。

すでに業務委託で働いている人には、労働基準監督署の相談窓口がある

厚生労働省は、2024年11月1日のフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の施行に合わせて、全国の労働基準監督署に相談窓口を設置しました。自らの働き方が労働者に該当する可能性があると考えるフリーランスが、労働基準法等の違反について相談できます。

契約書に業務委託と書いてあっても、実態が労働者であれば、労働基準法の保護対象になります。判断は実態で行われます。

不安があるなら、窓口に相談してみてはいかがでしょうか。

よくある疑問

Q:今から完全業務委託を導入すると、違法になるのですか。
A:現行の基準では、実態が労働者に当たらなければ適法です。ただし労働者性の判断基準は研究会で見直しが検討されており、内容も時期も決まっていません。個別の契約が労働者に当たるかは事案ごとの判断なので、導入の前に弁護士や労働基準監督署などの専門家に確認してください。

やめられることを先に挙げてから、契約の形を決める

完全業務委託を検討するときは、契約書を作る前に、会社がやめられることを挙げます。指揮命令、稼働時間の管理、専属、指名のすべてをやめられるかどうかが、導入の判断基準になります。

導入できるかどうかは、法律の問題である前に、その人を事業者として扱えるかという会社の側の問題です。

やめられないことが一つでもあるなら、雇用契約に切り替えることも含めて、契約の形を考えてみてはいかがでしょうか。

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