投資先の預金仮差押えはできるものなのか? LinQとアポロ・キャピタルの件を時系列で整理

位置情報共有アプリ「whoo」を運営する株式会社LinQは、2026年10月19日、自社に出資したベンチャーキャピタルのファンドに預金を仮差押えされたと発表しました。申し立てたのは、株式会社セレスの100%子会社である株式会社アポロ・キャピタルが運営するファンドです。

投資家は、自分が出資した会社の預金を仮差押えできるものなのでしょうか。そして、両社はなぜここまで揉めているのでしょうか。

目次

投資家でも投資先の預金を仮差押えできる

投資家でも、投資先の会社にお金を払うよう求める権利があれば、その会社の預金を仮差押えできます。民事保全法第20条は、お金の支払いを求める権利について、強制執行ができなくなるおそれか、著しく難しくなるおそれがあるときに、裁判所が仮差押命令を出せると定めています。

預金の仮差押えの流れ。申し立てる側が請求と回収できなくなるおそれを裁判所に示し、裁判所が仮差押命令を出し、銀行が払い戻しを止め、会社は預金を引き出せなくなる

預金を仮差押えするときは、裁判所が銀行に対して、その預金を会社へ払い戻すことを禁じる命令を出します(民事保全法第50条)。会社は、その預金を引き出すことも、支払いに使うこともできなくなります。申し立てる側が裁判所に示すものは、以下のとおりです。

項目中身民事保全法の条文
お金を払うよう求める権利例:損害賠償を払えという請求第13条第1項
回収できなくなるおそれ例:預金が減っていく見込み第13条第1項、第20条
示し方裁判所が「一応確からしい」と思える程度(疎明)でよい第13条第2項
担保申し立てる側が、お金を積むよう命じられることがある第14条

仮差押えをされた会社は、預金を引き出せなくなってから仮差押えを知ることが多いです。民事保全法第3条は、口頭弁論を開かずに決めてよいとしています。相手を呼んで話を聞かなければならないと定めているのは、仮処分の一部(第23条第4項)だけです。

仮差押えは、本案の裁判で結論が出るまで、会社が預金を引き出せないようにしておく暫定の手続です。引き出せなくなった預金は銀行にとどまり、申し立てた側には支払われません。仮差押えをされた会社は、命令を出した裁判所に取り消しを求めることができ(保全異議、第26条)、LinQはこれを申し立てる意向を示しています。

LinQとアポロ・キャピタルの件を時系列で並べる

アポロ・キャピタルのファンドが出資してから、LinQが預金を引き出せなくなるまでは、約4か月です。LinQの発表を中心に、起きたことを日付の順に並べると以下のとおりです。

LinQとアポロ・キャピタルの件の時系列。2026年5月29日に出資、8月5日にAppleが全アプリを削除、9月5日に契約終了の通知、9月24日に仮差押えの申立て、10月5日に執行、10月19日にLinQが争う意向を発表
日付誰が何をしたか
2026年5月29日アポロ・キャピタルのファンドLinQに出資する
2026年6月8日LinQシリーズAで総額11億円を調達したと発表する。引受先にアポロ・キャピタルのファンドが入っている
2026年8月5日AppleLinQの全アプリをApp Storeから削除する
2026年8月以降LinQ株主に状況と対応方針を説明し、財務・資金繰りの資料を共有する
2026年8月29日whooの公式X削除の理由は、Appleとの話もあるので今は言えないと投稿する
2026年9月5日AppleApple Developer Programなどの契約を終了するとLinQに通知する
2026年9月24日アポロ・キャピタル側表明保証違反を理由に出資額全額相当の損害賠償を主張し、預金の仮差押えを申し立てる
2026年9月29日LinQアポロ・キャピタル側の質問に回答する。その後、LinQが出した事業継続の提案に回答はなかったとしている
2026年9月30日whooの公式XAppleの審査が長引いていると投稿する
2026年10月5日裁判所の命令による執行LinQの預金に仮差押えが執行され、出資額全額相当の預金を引き出せなくなる
2026年10月16日アポロ・キャピタル側代表個人の法的責任に触れたメールを送ったと、LinQは説明している
2026年10月19日LinQ法的手続で争う意向を発表する

出資した金額と、引き出せなくなった預金の金額は、どちらの会社も公表していません。

アポロ・キャピタルは、LinQの表明保証違反で出資額全額の損害が出たと主張している

アポロ・キャピタルが仮差押えを申し立てた根拠は、LinQが出資を受けるときに約束した内容が事実と違っていた、という主張です。LinQの発表によると、アポロ・キャピタル側は、投資時の表明保証に違反があり、Appleの措置で持っている株の価値が下がったとして、出資額全額相当の損害賠償を求めています。

表明保証とは、出資を受ける会社が投資契約の中で「この時点で、こういう問題はありません」と約束することです。約束と事実が違っていた場合、会社は投資家の損害を補償します。

LinQの発表によると、アポロ・キャピタル側は、LinQが株主へ説明するために共有した財務・資金繰りの資料を申立書に引用しました。予定している支払いで預金残高が減る見込みを、回収できなくなるおそれの根拠にしています。

アポロ・キャピタルの言い分が通るかは、アプリがApp Storeから削除された原因次第

アポロ・キャピタルの言い分が通るかは、AppleがLinQのアプリを削除し、契約を終了した原因次第です。表明保証は、契約で決めた時点(出資のときなど)の事実についての約束だからです。原因がいつからあったかで、以下のように分かれます。

原因がいつからあったか表明保証違反になるか
出資の前から、原因になる事実があった違反になる可能性がある
出資の後に、原因が生じた出資時点の約束は正しかったので、違反にならないと考えられる
契約に「会社の知る限り」と書いてあるLinQが出資の前に原因を知っていたかが争点になる

違反が認められた場合も、その違反がアプリ削除の原因になったかと、アポロ・キャピタルの持つ株の価値がいくら下がったかは、裁判で別に争われます。

削除の原因は、LinQもAppleも公表していません。LinQの発表は、株主には「考えられる原因」を説明したと書いていますが、その中身は書いていません。

Appleの規約では、開発者の契約を打ち切るケースが決まっている

Appleの開発者向けの契約(Apple Developer Program License Agreement)は、第11.2条で、開発者が次のことをした場合、Appleが通知した時点で契約が終わると決めています。主なものは以下のとおりです。

  • 契約の条項に違反し、気づいてから、または通知を受けてから30日以内に直さない
  • 秘密保持の条項(第9条)に違反する
  • Appleに対して特許侵害の訴えを起こす
  • 支払いができなくなる、倒産する、事業をやめる
  • 開発者本人や、開発者を支配している会社などが、制裁などの対象になる
  • 契約に関して、誤解を招く行為、不正な行為、違法な行為、不誠実な行為をする。例として、審査からアプリの機能を隠す、レビューを偽る、決済で不正をする、が挙がっている

同じ条は、このほかに、Appleと開発者のどちらからでも、理由がなくても30日前に書面で通知すれば契約を終えられると定めています。

App Store審査ガイドラインも、次の行為をした開発者は、Apple Developer Programから除名されることがあると書いています。

  • レビューやランキングを操作する
  • 説明していない隠し機能をアプリに入れる(2.5.19。開発者アカウントの終了まで明記されている)
  • 利用者の同意なくデータを共有する、プライバシーの法律に違反する
  • 誤解を招く行為や不正な行為を繰り返す

LinQの発表によると、アプリは8月5日に突然削除され、9月5日に契約終了の通知が届きました。Appleがどのケースに当たると判断したのかは、公表されていません。

両社の争点は、アプリの削除が表明保証違反に当たるかと、LinQが残った預金を使えるか

両社が争っているのは、アプリの削除が表明保証違反に当たるかと、LinQが残った預金を使えるかの2点です。1点目は、先に書いたとおり削除の原因次第です。2点目は、LinQが事業を続けるために使いたい預金と、アポロ・キャピタルが回収に充てたい預金が同じであることから生じています。

LinQにとって、アプリがApp Storeから削除されたあとに残った預金は、事業を立て直すための資金です。LinQは、仮差押えで再建に使える資金と選択肢を狭められたと主張しています。株主への説明のために共有した資料が、仮差押えの根拠に使われたことにも抗議しています。

アポロ・キャピタル側の見解は公表されていません。

アプリが削除された原因が公表されれば、表明保証違反になるかを考える材料が1つ増えます。AppleがLinQのアプリを削除した原因は、出資の前から明らかだったのでしょうか。

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