AIO対策として挙げられている施策は、FAQの整備、構造化データの実装、E-E-A-Tの強化、一次情報の発信、外部からの言及獲得。どれも重要だと書かれています。ただ、この並びのまま上から手をつけると、たいてい途中で止まります。AIが自社の情報を回答に使うまでには3つの関門があり、どこで詰まっているかによって着手すべき場所が変わるからです。施策を増やす前に、自分たちがどの関門で止まっているのかを確かめます。
施策リストは手に入るが、順番が書かれていない
AIO対策について調べると、必要なことは一通り出てきます。
ユーザーの疑問に一問一答で答えるFAQを用意すること。schema.orgに沿った構造化データを実装すること。経験と専門性と権威性と信頼性を高めること。他では読めない独自のデータを発信すること。外部のメディアやプラットフォームから言及されること。定期的に更新して情報の鮮度を保つこと。
どれも間違っていません。実際に効きます。
問題は、これらが横並びで置かれていることです。影響度と実行難易度で整理しましょう、と書かれている記事もありますが、整理した結果は書かれていません。読者が知りたいのは分類の方法ではなく、月曜の朝に何から手をつけるかです。
そして、やらなくていいことが一つも書かれていません。すべての項目が「重要です」で並ぶので、担当者は全部やろうとして、全部が中途半端になります。自社で進めるとき、いちばん効くのは着手のリストではなく、捨てるリストのほうです。
並んでいる施策は、どれも新しくない
私自身、専門会社から提案を受けたことをきっかけに、この領域を調べ始めた経験があります。最初に感じたのは、新しい技術を学んでいる感覚ではありませんでした。
構造化データは十年以上前からあります。FAQを用意して検索意図に答えるのも、被リンクや外部からの言及を増やすのも、プレスリリースで露出を作るのも、業界統計に自社の数字を載せるのも、すべて既存の手法です。目新しいものは、ほとんど混ざっていません。
新しいのは二つだけです。名前がついたこと。そして、読み手が人間から機械に変わったこと。
この二つ目が本質です。かつては、検索結果の一覧に並んだページを人間がクリックして読んでいました。今は、AIがページを読んで、要約して、その中から回答を組み立てます。読者が変わったので、情報の置き方を変える必要が出てきた。
つまりAIOは、新しい施策を追加する作業ではありません。すでに持っているものを、AIが読める場所に置き直す作業です。配置の問題であって、量の問題ではない。
この見方に立つと、施策リストの読み方が変わります。FAQも構造化データも一次情報も、それ自体が目的ではなく、配置の手段です。だから、配置のどこで詰まっているかが分からないまま手段だけ実行しても、効きません。
AIが読むまでに3つの関門がある
自社の情報がAIの回答に使われるまでには、順番に3つの関門があります。
第1に、AIがそのページを取得できるか。第2に、取得した中身が回答に使える形になっているか。第3に、その情報が信じるに足ると判断されるか。
順番があることが重要です。第1で詰まっているのに第3の施策を打っても、効果はゼロになります。逆に第1と第2が通っていれば、第3が弱くても引用されることはあります。
施策リストを、この3層に並べ直します。
第1層は、静的HTMLでの出力、クローラーの許可設定、サイトマップの登録。技術の話です。
第2層は、FAQの整備、質問に直答する見出し、構造化データ、一次情報の記述。中身の話です。
第3層は、業界統計への掲載、メディアでの言及、外部からのリンク、ランキングへの登場。外部評価の話です。
上位の記事がこれらを横並びに置いているのは、層が違うものを同じ平面に並べているからです。順番があると分かれば、着手点は自動的に決まります。
第1層。読めなければ、何を書いても存在しない
最初に確かめるのは、AIが自社のページを取得できるかどうかです。
確認方法は単純で、ブラウザのJavaScriptを無効にして自社サイトを開きます。会社概要、サービス紹介、よくある質問。本文が表示されるでしょうか。表示されないページがあれば、そこはAIから見て白紙です。
近年のサイトは、JavaScriptで内容を後から描画する作りが増えました。人間のブラウザでは問題なく見えます。しかし、AI検索の経路によっては、JavaScriptを実行せずにHTMLをそのまま読むものがあります。Microsoftは公式のガイドラインで、重要なコンテンツはJavaScriptに依存せず静的HTMLで提供するよう明記しています。
私が関わったサイトでも、地図上に店舗を表示する検索ページがこの状態でした。人間には情報豊富なページに見えますが、HTMLソースには見出しだけしか入っていませんでした。会社情報がすべてJavaScript経由で描画されていたためです。
あわせて確認するのが2点。robots.txtでAIのクローラーを拒否していないか。そして、セキュリティ対策の設定がクローラーを弾いていないか。後者は盲点で、bot対策の機械的な設定が特定のクローラーを遮断していると、何をやっても引用されません。
この層の確認は、費用がほとんどかかりません。半日で終わります。それでいて、ここが塞がっていると他のすべてが無効になります。最初に見るべき理由はここにあります。
第2層。質問の形で置かれているか
第1層が通っていれば、次は中身です。
ただし、良いコンテンツを作りましょう、では手が動きません。もう少し具体的に言うと、これは想定される質問に対して、直接答える文章が存在するか、という配置の問題です。
AIは質問を受けて回答を組み立てます。そのとき参照されるのは、その質問に対する答えが書かれている箇所です。自社の理念や沿革が美しく書かれていても、質問の答えになっていなければ、引用のしようがありません。
具体的には、こういう置き換えになります。
「地域に密着し、お客様に寄り添うサービスを提供しています」という文は、どの会社でも書けます。ここから引用できる事実はありません。これを「対応エリアは◯◯市、◯◯市、◯◯市。年間の取引件数は◯件」と書き換えると、地域を含む質問への答えとして機能します。
FAQが効くと言われるのも、同じ理由です。質問と答えが対になった形式は、AIが引用する単位とそのまま一致します。新しい記事を大量に作るより、既存の情報を質問の形に置き直すほうが、費用対効果は高くなります。
ここで気をつけたいのは、量産に走らないことです。一般的な用語解説の記事を増やしても、同じ内容が世の中に無数にあるので、自社が選ばれる理由がありません。書くなら、自社にしか書けない事実のほうです。取引の実数、対応可能な範囲、実際の手順。地味ですが、これが引用される中身になります。
第3層。第三者の裏付けは、時間で買うしかない
第3層は、外部からの評価です。業界統計への掲載、メディアでの言及、ランキングへの登場、第三者サイトからのリンク。
この層は確かに効きます。AIは「この会社が良い」と答えるとき、自社サイトの主張よりも、第三者が書いたものを重く扱う傾向があります。
ただし、時間軸が違います。業界統計は年に一度の更新です。第三者メディアへの掲載は、交渉と素材の準備が要ります。ランキングへの掲載条件は、自社の努力だけでは満たせないこともあります。
私が調べた範囲でも、ある顧客満足度ランキングは、調査対象企業リストに入っていても、利用者アンケートの回答数が規定に届かなければ掲載されない仕組みでした。回答者は調査会社のパネルから無作為に抽出されるので、企業側が働きかける手段がありません。掲載してほしいと依頼することも、顧客に回答を促すことも、調査の中立性を損なう行為になります。
だから、この層の扱い方は他の二つと違います。着手はしますが、今期の成果には数えない。年単位の投資として、別枠で管理する。ここを短期の打ち手だと思って力を入れると、時間だけが過ぎます。
モデルによって、詰まっている層が違う
もう一つ、上位の記事があまり書いていないことがあります。AIごとに、引用の選ばれ方が違うという点です。
私が関わったケースでは、同じ企業について、Geminiでの言及率が20パーセント台、ChatGPTでの言及率が5パーセント台という結果が出ました。同じ会社、同じサイト、同じ時期の測定です。4倍近い開きがありました。
ここからは私の解釈です。検証された仕組みの説明ではないので、そのつもりで読んでください。
この差は、会社の評価の違いではなく、AIが見ている範囲の違いだと考えています。Googleは長年かけて、その企業に関する情報を広く蓄積しています。子会社のサイト、地図の店舗情報、動画、関連する言及。Geminiはその蓄積の上で回答を組み立てます。
一方、ChatGPTの検索は、質問を受けてから検索し、上位の数ページを読んで答えを作ります。参照する窓が狭い。その窓に入っていない会社は、実力にかかわらず出てきません。
この見立てが正しければ、示唆は明快です。片方のAIで既に評価されているなら、実力の問題ではなく到達の問題です。第2層や第3層ではなく、第1層の技術的な配置に手を入れるほうが効きます。
自社がどちらの状態にあるかは、確かめられます。主要なAIそれぞれに、自社が答えとして挙がりそうな質問を投げてみる。片方だけに出るなら到達の問題、どちらにも出ないなら中身か外部評価の問題。この切り分けだけで、着手点はかなり絞れます。
手詰まりを確認する作業に、価値がある
施策を検討していく過程で、調べた結果「できることがない」と判明した領域がいくつもありました。
外部のプラットフォームは、掲載枠の中身を充実させることはできても、順位や表示は自社の努力の外にありました。ある業界統計には既に掲載されていて、順位を上げるには取扱高そのものを増やすしかありませんでした。顧客満足度の調査は、先ほど書いたとおり働きかける手段がありません。
調べる前は、どれも打ち手の候補でした。調べた結果、候補から消えました。
これは無駄骨に見えて、実際には最も有効な工程でした。可能性のある選択肢が並んでいる状態では、リソースが分散します。一つずつ潰していくと、本当に自分でコントロールできる面が残ります。私の場合、最終的に残ったのは自社サイトの配置と、自社で発信できるコンテンツの二つでした。
やることを決める作業と、やらないことを決める作業は、同じ重さを持っています。そして、後者のほうが先に来ます。
何から始めるかの判定手順
ここまでを、実際の手順に落とします。
まず、自社が答えとして挙がるべき質問を10個ほど書き出します。業種と地域を組み合わせたもの、条件を指定したもの、比較を求めるもの。これが測定の物差しになります。
次に、その質問を主要なAIに投げて、自社が挙がるかを記録します。ここで、片方のAIには出るのに片方には出ない、という状態が見つかったら、到達の問題です。第1層に進みます。
第1層の確認は、JavaScriptを無効にして自社サイトを開くこと。robots.txtの記述を見ること。この2つです。読めないページがあれば、そこが最優先の修正箇所になります。技術的な作業なので、サイトの保守を担当している会社に依頼できます。
第1層に問題がなければ、第2層に進みます。書き出した質問それぞれについて、答えになる文章が自社サイトのどこかに存在するかを確認します。存在しない質問があれば、そこが作るべきページです。すべての質問に対応するページがあるのに引用されないなら、内容が一般的すぎる可能性があります。自社にしか書けない事実が入っているかを見直します。
第3層は、並行して仕込みますが、成果の判定からは外します。年単位の投資として別に管理します。
この手順で進めると、施策リストを上から順に実行するより、はるかに少ない作業で動き始めます。
よくある疑問
Q:AIO対策とSEO対策は、どちらを優先すべきでしょうか。
A:分けて考える必要はありません。ここまで挙げた施策は、そのままSEOの施策でもあります。静的HTMLで読めること、質問に直答する構造、外部からの評価。どれも従来から効いてきたものです。名前が増えただけで、やることは重なっています。
Q:構造化データは必ず実装すべきでしょうか。
A:新しくページを作るなら、最初から入れておくべきです。ただし既存サイトへの後付けは、優先度が下がります。実際、構造化データが一つもない古いサイトが引用されている例はあります。AIが読んでいるのは本文であって、マークアップは補助だからです。限られた予算なら、本文の中身を直すほうが先です。
Q:効果が出るまで、どのくらいかかりますか。
A:ページを公開してからAIの回答に反映されるまで、1か月から3か月ほどのずれがあります。この間は数値が動きません。だから、施策の実行件数を別の指標として持っておくことをおすすめします。数値が動くまでの期間を、何もしていない期間だと誤解されないためです。
Q:外部の専門会社に依頼したほうが早いでしょうか。
A:やることの大半は、既存のウェブ実務です。サイトの保守会社と、ライターと、社内の判断があれば回ります。依頼するとしたら、自社では取得できない現状データの調査か、手を動かす人手の部分になります。
増やす前に、置き直す
AIO対策という名前は、何か新しいものを始める印象を与えます。実際には、既に持っているものをAIが読める場所に置き直す作業のほうが、比重として大きくなります。
自社サイトには、たいてい必要な情報が既にあります。ただ、理念の文章の中に埋もれていたり、JavaScriptの向こうに隠れていたり、質問の形になっていなかったりします。それを取り出して、答えの形に置き直す。派手さはありませんが、ここが最も効きます。
そして、この作業は外注しなくてもできます。必要なのは専門知識ではなく、自社の情報がどこにあるかを知っていることと、それを質問の形に並べ直す手間だからです。その二つは、社内の人間のほうが持っています。
新しい施策を探す前に、自分たちが3つの関門のどこで止まっているのかを確かめてみてください。止まっている場所が分かれば、やるべきことは一つか二つに絞れます。全部やろうとして動けなくなるより、一つを終わらせるほうが前に進みます。
