AI検索への対策として、外部の専門会社から提案書が届きました。LLMO対策やAIO対策と呼ばれている領域の話です。書いてあることはどれも正しそうに見えますが、それが自社にとって妥当かどうかを判断する材料が、自分の側にありません。
よく言われる答えは、だいたいこの3つです。複数の会社から見積もりを取って比べること。過去の実績と事例を確認すること。成果指標と評価の方法が明確かを見ること。どれも有効です。
ただ、この3つはすべて契約前の話であって、契約したあとに月ごとに出てくる個別の提案を見極める役には立ちません。この記事が立てる問いは別です。専門知識を持たない発注側が、目の前の提案の根拠だけを見て、その妥当性を判定できるでしょうか。
規格に対応していることは、クローラーが読み取ることを保証しない
提案の根拠として最も出やすいのが、規格を名前で挙げる形です。
これは業界の共通規格であり、主要な検索エンジンが対応しているので実装すべきです。こう説明されると、反論の余地がないように聞こえます。
説明そのものは正しいのです。ただ、規格に対応していることと、その情報を実際に読み取ることは、別の話です。
規格は、この書き方で書けば意味が通じる、という取り決めです。読み取りのほうは、ページを取りに来るプログラムが、いつ、どうやって、何を拾うかという実装の話です。取り決めが共有されていても、実装は各社が自分で決めます。
構造化データがその例です。これは、ページに書いてある情報を機械が理解しやすい形で書き添える仕組みを指します。今どの階層のページにいるかを示すパンくずリストも、この形式で書き添えることができます。
書き添えられるという事実と、書き添えたものが拾われるという事実は、同じではありません。
schema.org は、自分たちが標準化団体ではないと書いている
この規格の名前は schema.org といいます。運営しているのは Google、Microsoft、Yahoo!、Yandex の4社です。共同規格だという説明は、ここまでは正確です。
問題はその先にあります。公式のFAQに、こう書かれています。
Schema.org is not a formal standards body. Schema.org is simply a site where we document the schemas that several major search engines will support.
正式な標準化団体ではない。複数の主要な検索エンジンが対応する記法を、書き留めている場所にすぎない。そういう意味です。
同じFAQには、もう一箇所あります。schema.org のすべての情報が検索結果に反映されるわけではないので、具体的な用途は各社のドキュメントを参照してほしい、という記述です。
規格の側が、自分は保証の主体ではないと明言しています。だから共同規格だから読まれるという説明は、規格の紹介としては正しく、実装の根拠としては足りません。
これは、提案が間違っているという話ではありません。根拠の層が一つずれている、という話です。
実装方式を一つ聞けば、提案の確かさは判定できる
構造化データの書き込み方には、2通りあります。
一つはサーバーが返すHTMLに最初から埋め込む方式で、もう一つはブラウザでページを開いたあとにJavaScriptで後から差し込む方式です。人間が見る画面は、どちらも同じに見えます。
違いが出るのは、機械が読むときです。ページを取りに来るプログラムには、受け取ったHTMLをそのまま読むものと、受け取ったあとにJavaScriptを動かして画面を組み立ててから読むものがあります。前者から見ると、後から差し込んだ情報は存在しません。
OpenAIは、自社のクローラーの一覧を公開しています。検索用、広告審査用、学習用、そしてユーザーの操作で動くものの4種類です。ただし、それぞれがJavaScriptを実行するかどうかは、この一覧に書かれていません。
ここからは私の解釈です。検証された仕様の説明ではありませんので、そのつもりで読んでください。公式に書かれていない以上、実行される前提で設計することは賭けになります。実行されない可能性に備えるなら、サーバー側で出しておくほうが確実です。
だから、聞くことは一つで足ります。サーバーが返すHTMLに直接書きますか、それとも後から差し込みますか。
サーバー側だという答えが返ってくれば、その提案は機械の側の事情を踏まえています。後から差し込むという答えなら、なぜそれで届くと考えているのかを説明してもらう必要があります。ここまでのやりとりに、専門知識は要りません。
どの媒体に力を入れるかは、提案する側の推測で決まっていることがある
もう一つ出やすいのが、外部の媒体を指定する形の提案です。この業界のポータルサイトへの掲載を強化しましょう、という形をとります。
このとき確かめるのは、その媒体が選ばれた理由です。市場での規模や知名度から選んだのでしょうか。それとも、実際にAIへ質問を投げて、どの媒体のURLが引かれるかを数えた結果でしょうか。
規模と、引用されやすさは、一致しないことがあります。AIが答えを組み立てるときに読んでいるのは、媒体そのものの大きさではなく、その質問に答えている文章です。横断的な比較記事やまとめ記事で名前を挙げられている量のほうが効く場合もあります。
だから、なぜこの媒体なのかとは聞きません。実測されていますか、と聞きます。
実測していれば、投げた質問の一覧と、数えた件数が返ってきます。していなければ、推測だと分かります。推測が悪いわけではなく、推測だと分かってさえいれば、そこに予算を寄せる判断を保留できます。
発注側に必要なのは専門知識ではなく、二つの問いである
ここまでを一つにまとめると、聞くことは2つになります。
1つ目は、この根拠は規格の話ですか、実装の話ですか、という問いです。対応している、で終わっている説明は規格の話にとどまります。こう書けばこのプログラムがこう読む、というところまで下りていれば実装の話です。
2つ目は、この選定は推測ですか、実測ですか、という問いです。数字が出てくれば実測で、出てこなければ推測です。
この2つは、専門知識がなくても聞けます。答えの正しさを判定しているのではなく、答えの種類を判定しているからです。
正しさを判定しようとすると、相手より詳しくなる必要があります。種類を判定するだけなら、必要なのは一点だけです。対応しているという説明と、実際に読んでいるという説明を、混ぜないことです。
実測を求めることは、相手を疑うことではない
とはいえ、聞きにくさは残ります。専門家として依頼した相手に根拠を出せと言うのは、信頼していないように受け取られかねません。
公平を期すために、逆側も書きます。この問いを連発すると、相手は防御的になります。すべての提案に実測を求めれば、提案そのものが慎重になり、動きは遅くなります。踏み込んだ案が出てこなくなる可能性もあります。
避ける方法が一つあります。聞く前に、自分で数えてみることです。
想定される質問をいくつか決めて、AIに投げ、どのURLが引かれたかを数える。この作業に専門的な道具は要りません。10問なら、1時間はかかりません。
自分で数えてから持っていくと、質問の形が変わります。実測されていますか、ではなく、うちで数えたらこうなりましたが、そちらの数字と合っていますか、になります。聞いている内容は同じで、相手の立場だけが変わります。
提案を止める判断と、順番を入れ替える判断は違う
根拠が推測だったからといって、その施策が無駄だとは限りません。
構造化データがそうです。ページの階層を機械が読める形で書き添えておくことに、害はありません。テンプレートに1回入れれば全ページに反映されるので、着手のコストが極端に低い。
引っかかるのは、順番のほうです。AIがそのページを引用するかどうかを決めているのは、書き添えた印ではなく、本文に何が書いてあるかです。他社には書けない数字や事例があるかどうかが、引用される理由になります。
だから判断は、やるかやらないかの2択ではありません。どの順番に置くか、です。
コストが低いものは、優先度が低くても先に片付けて構いません。テンプレートに一度埋めるだけの作業は、他の施策と工数を取り合いません。並べ替えが必要なのは、人手と時間を実際に奪い合う施策のほうです。
そして、その並べ替えの材料になるのが、さきほどの2つの問いです。
よくある疑問
Q:提案してきた会社に、実装方式や実測の有無を聞いても失礼になりませんか。
A:なりません。どちらも、提案を実行する側が当然決めているはずの事項です。決まっていれば即答が返り、決まっていなければその場で決めることになります。どちらの場合も、聞いた側にとっては前進です。角を立てたくない場合は、見積もりの妥当性を判断したいので、という前置きを添えてください。
Q:構造化データは、結局やったほうがいいのでしょうか。
A:新しくページを作るなら、最初から入れておくのが安く済みます。既存のサイトへ後から足す場合は、実装方式によって効果が変わるので、そこを確認してから判断してください。ただし着手のコストが低いので、優先度が低いことと、後回しにすることは分けて考えて構いません。
Q:実測は自分たちでもできますか。
A:できます。自社が答えとして挙がるべき質問を10問ほど書き出し、AIに投げて、どのURLが引かれたかを記録するだけです。同じ質問を時期をずらして繰り返すと、変化も追えます。外注する意味があるのは、この作業そのものではなく、質問の設計と、結果の読み方のほうです。
Q:根拠が推測だと分かったら、その会社を替えるべきでしょうか。
A:それだけでは判断材料になりません。推測で提案すること自体は、この領域では避けられません。見るのは、推測を推測として説明できるかどうかです。聞かれたときに実測していないと答えられる相手なら、区別はついています。区別がついていない相手のほうが、あとで困ります。
分からないまま承認するより、聞いたほうが早い
LLMO対策を外部の専門会社に依頼したのは、自社に知識がないからです。だから、出てきた提案の正しさを自分で判定しようとすると、依頼した意味がなくなります。
判定する対象を変えれば済みます。中身の正しさではなく、根拠の種類を見る。対応していると言っているのか、実際に読んでいると言っているのか。推測なのか、実測なのか。
この2つを分けて聞くだけで、提案書の景色はかなり変わります。多くの項目はそのまま通り、いくつかの項目だけが、根拠を持たないまま先頭に置かれていたことが見えてきます。
手元の提案書のうち、実測された数字が添えられているのは何項目でしょうか。
