外注をやめる判断は、コストではなく解約後に残るもので決める

「この外注、やめたほうがいいのだろうか」。そう検索窓に打ち込んだことがあるなら、この記事はあなたのために書かれています。毎月の請求書を見ながら、自社でやったほうが安いのではないかと考える。けれど社内に人はいないし、止めた瞬間に業務が回らなくなる気もする。

検索して出てくる答えは、だいたい決まっています。コストを比べなさい。コア業務かノンコア業務かで切り分けなさい。総人件費で見なさい。どれも正しいのですが、読み終えても決められません。

この記事が立てる問いは違います。そもそもその外注を、一つの塊として考えていないでしょうか。

目次

独立するかどうかは、二択ではなかった

やめるか続けるかという問いの立て方そのものが、選択肢を狭めています。

音楽の世界に、わかりやすい実例があります。L’Arc-en-Cielは2024年に、バンド名を冠した自主レーベルを設立しました。ニュースの見出しだけを見れば、独立したように読めます。

ところが翌年に出たCDのクレジットは、そう単純ではありません。発売元は自主レーベル。製造元は所属事務所のMAVERICK D.C.。そして販売元は、従来どおりソニー・ミュージックレーベルズ。3つの役割が、3つの異なる主体に割り振られています。

独立したのか、していないのか。この問い自体が意味を失う構造です。彼らが決めたのは、独立するかどうかではありませんでした。どの機能を自分の側に置き、どの機能を買い続けるか。層ごとに、別々に決めています。

分けられるのは、機能が別々の契約だからである

層ごとに決められるのは、それぞれが独立した権利と契約だからです。

音楽業界の場合、事務所との関係はマネジメント契約です。原盤を誰が持つかは、著作隣接権の帰属の問題。全国の店舗や配信ストアに届ける流通は、販売委託の契約になります。三者はまったく別の法律関係で、束ねなければならない理由がありません。だから一つずつ選べます。

あなたが抱えている外注も、同じように分解できます。実作業を誰がやるか。成果物の権利が誰に帰属するか。運用に使うアカウントやツールの名義は誰か。判断のもとになるデータはどこに溜まっているか。改善の勘所を、誰が知っているか。

契約書は1通でも、中身は複数の機能の束です。束ねられているのは、そのほうが売る側にとって都合がよいからでもあります。

買い続けてよい機能と、手放してはいけない機能がある

分解できたら、次は順序の問題になります。すべてを一度に取り返す必要はありません。

Hi-STANDARDの歩みが参考になります。横山健さんは1994年、所属していたトイズファクトリーの中に、レーベル内レーベルとしてPIZZA OF DEATHを立ち上げました。制作を自分たちの側に持ってきた形です。この時点で流通はメジャーのまま。インディーズで制作し、メジャーの流通に乗せるという発売スタイルを、この期間に確立しています。

完全に独立したのは1999年のアルバム『MAKING THE ROAD』からでした。インディーズでの発売にもかかわらずチャート3位に入り、累計65万枚を超えています。

順序に注目してください。先に取り返したのは制作でした。流通は後回しにしています。取り返す価値が高いものから順に手をつけ、価値の低いものは買い続けた。二択ではなく、優先順位の問題として扱っています。

手放してはいけないのは、契約が切れたときに残らないものである

では、価値の高い機能とは何か。ここでこの記事の中心になる考え方を置きます。

原盤にあたるもの、と呼ぶことにします。契約が終わったあとも、自分の手元に残り、収益を生み続ける資産のこと。逆に言えば、契約が切れた瞬間に消えるものは、どれだけ費用を払っていても資産になりません。

GLAYの例が、この違いを痛いほど示しています。前の所属事務所は2005年ごろから、印税収入もコンサートの出演料も支払わなくなりました。GLAY側は契約を解除して独立し、未払い金の支払いを求めて提訴します。2009年10月の東京地裁の一審判決は、6億7千万円の支払いを命じました。うち楽曲の印税が約5億5千万円を占めています。

重要なのはその後です。GLAYは2006年、楽曲の原盤権、映像原版、ファンクラブの運営権を前事務所から買い取りました。関係を切っただけでは終わらせず、残るものを自分たちの側に移しています。

あなたの外注に置き換えるなら、こうなります。制作会社に払った費用で作った記事の著作権は、どちらに帰属しているか。広告アカウントの管理者は誰の名義か。ドメインとサーバーの契約者は。蓄積された運用データを、明日エクスポートできるか。問い合わせてきた顧客の情報は、自社のデータベースにあるか。

これらが相手側にあるなら、支払っているのは利用料であって、投資ではありません。

機能の値段は下がる。だから判断は一度で終わらない

もう一つ、既存の議論に抜けている視点があります。時間です。

外注か内製かを比較する記事は、今の価格を前提に判断基準を語ります。けれど機能の値段は、下がり続けています。かつて音楽の流通は、大きな資本にしか持てない機能でした。全国のCD店に商品を届ける網は、個人が用意できるものではありません。

いまTuneCore Japanを使えば、年間4,400円の定額プランで曲数の制限なく、55以上の配信ストアに一括で届けられます。収益は100パーセント還元されます。かつて数十パーセントの取り分と引き換えに買っていた機能が、年に数千円で手に入る。

ここからは私の解釈です。この変化が意味するのは、外注の判断が一度きりの決断ではなくなった、ということだと考えています。3年前に検討して「内製は無理だ」と結論を出したとしても、それは3年前の価格での答えにすぎません。機能の価格が変われば、答えも変わります。

判断が間違っていたのではなく、判断の賞味期限が切れただけ。そう捉えるほうが、実態に近いように思います。

Q:外注をやめるかどうか、どのくらいの頻度で見直せばよいのでしょうか。
A:契約更新のタイミングごとに、外注している機能を今いくらで買えるか調べ直すことをおすすめします。判断が変わるのは、自社の状況が変わったときだけではありません。その機能の市場価格が下がったときにも変わります。前回の検討結果をそのまま延長しないことが、実質的な見直しになります。

内製化のコストを、正直に書いておく

ここまで内製化を後押しするように読めたかもしれません。公平を期すために、逆側も書きます。

内製に移すと、変動費だった支出が固定費に変わります。仕事が減った月も、人件費は同じだけ出ていきます。外注をやめても社内の固定費が残るために、実質のコストが下がらないという計算もよく指摘されるところです。

もっと重くのしかかるのは、時間だと感じています。権利の整理も、運用も、採用も、自分の手元に来ます。本来やるべき仕事に使う時間が、そのぶん削られる。安くなった代わりに、遅くなることがあります。

そして、買い直せない機能もあります。見つけてもらう力です。大手の看板の下で人が動くときの情報の伝わり方は、自社のSNS投稿とは量が違う。L’Arc-en-Cielが自主レーベルを作りながら販売元をソニーに残したのは、おそらくここの見極めでしょう。制作と権利は自前にできても、届ける力は簡単には代替できません。

判断基準は、解約後に何が残るかである

以上を、明日から使える形に畳んでおきます。3つの問いです。

1つ目。いまこの外注を解約したら、手元に何が残るでしょうか。残るものを紙に書き出してみてください。何も書けないなら、支払っているのは利用料です。それ自体は悪いことではありませんが、資産は積み上がっていません。

2つ目。その機能は、いまいくらで買えるでしょうか。契約した当時ではなく、今日の価格です。ツールの進歩で、想定より安くなっている領域があります。

3つ目。残らないものを、いま自分の側に移す方法はあるでしょうか。契約を切らずにできることは、意外に多いものです。アカウントの名義を自社に変える。成果物の権利の帰属を、次の更新時に明記する。データのエクスポートを定例業務に入れる。

やめるかどうかを決める前に、この3つを埋めてみてください。埋めた時点で、続けるにしても中身が変わっているはずです。

調達は、選び直せる

外注を続けるか、やめるか。この二択で悩んでいるとき、私たちは相手との関係を一つの塊として見ています。けれど契約の中身は、いくつもの機能の束です。

束をほどけば、買い続けてよいものと、自分の側に置くべきものが分かれます。分かれれば、全部を一度に決める必要はなくなります。制作だけ先に取り返して、流通は買い続ける。そういう中間の形が、実際に選ばれてきました。

判断の軸は、コストの多寡ではありません。契約が切れたときに、何が手元に残るか。それだけです。

あなたの事業で、原盤にあたるものはどれでしょうか。

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