ドットコムバブルでアマゾン株は9割下がった。インターネットが正しかったのに、である

AIを使う仕事をしていると、この技術が消えていく姿は想像できません。一度使ってしまえば、使わなかった頃には戻れない。インターネットのときも、スマートフォンのときもそうでした。だからAI関連株はこのまま持ち続ければよい。そう考えている方は、多いのではないでしょうか。

世の中に流通している反論は、だいたい3つです。株価が高すぎる。設備投資が過剰である。いつか調整が来る。どれも「AIは失速するかもしれない」という前提に立った話です。

この記事が立てる問いは違います。AIが失速しなかったとして、その恩恵は株主に残るのでしょうか。

目次

アマゾンは正しかった。それでも株価は9割下がった

1999年12月、アマゾンの株価は107ドル前後をつけていました。時価総額は約1,070億ドル。当時のアマゾンはまだオンライン書店で、年間売上は16億ドル、7億ドル規模の赤字でした。

2001年、株価は6ドルから8ドルの水準まで落ちます。下落率は9割を超えました。同じ時期、Nasdaq総合指数も2000年3月10日の5,132から2002年10月まで78%下がっています。

ここで重要なのは、下がった理由です。インターネットの普及が止まったから下がったのではありません。アマゾンの売上はこの期間も伸び続けており、1999年に16億ドル、2000年に28億ドル、2001年に31億ドルと増えています。事業は前へ進み、株価だけが崩れました。

あのバブルで沈んだのは、間違った技術ではなかった

2000年の時点で「インターネットはもう後戻りできない」と考えた人は、完全に正しかったのです。その後の25年が、その見立てを証明しています。

それでも株価は崩れました。理由は技術の失敗ではなく、設備投資が需要の数年先を走りすぎたことにあります。通信各社は将来の通信量を見込んで光ファイバーを大量に敷きましたが、需要が追いつくまでには数年かかりました。使われないまま眠った回線は、ダークファイバーと呼ばれています。

シスコシステムズの株価が、この構造を最もはっきり示しています。同社は2000年3月27日に80.06ドルの最高値をつけ、一時はマイクロソフトを抜いて世界一の時価総額になりました。同社の株価がその水準を回復したのは、25年後の2025年12月10日です。

インターネットの回線を売る会社として、シスコの見立ては正しかったのです。需要は本当に来ましたが、株価が織り込んだ速度では来ませんでした。

航空機は世界を変えた。航空会社の株主は報われなかった

もう一つ、はっきりした事例があります。

ウォーレン・バフェットは2007年の株主への手紙で、米国の航空業界が最初の90年間に生み出した利益の累計はほぼゼロだと書きました。同じ手紙にはこうもあります。最悪の事業とは、急速に成長し、成長のために巨額の資本を必要とし、そのうえでほとんど稼がない事業である。航空会社を思い浮かべよ、と。

航空機は世界を変えました。人が大陸を数時間で越えられるようになり、観光も物流も国際的な仕事の形も、すべて書き換わっています。技術としては大成功でした。

それでも利益は株主に残りませんでした。理由は3つあります。座席という商品が各社で同じものになり、価格でしか競えなくなったこと。航空機という巨大な固定資産を、借金で買い続ける必要があったこと。そして好況が来るたびに、全社が同時に増便して自ら供給過剰を作ったことです。

つまり航空産業では、技術の便益はほぼ全部、安く飛べるようになった乗客のところへ流れました。

値下げ競争が始まった瞬間、技術の恩恵は客のものになる

ここまでの2つは、同じ構造の別の現れ方です。

技術が本物だと全員が確信するので、全社が同時に巨額の設備投資へ踏み切ります。作られたものが似通っていて乗り換えが簡単だと、価格でしか差がつかなくなります。そして値下げが始まり、利益率が下がる。技術の恩恵は、株主ではなく利用者の手に残ります。

AIに当てはめると、どうでしょうか。回答の品質は各社で急速に近づいており、利用者が乗り換える手間もほとんどありません。推論の価格は毎年のように下がっています。そして航空機が25年使えるのに対し、AIの計算に使う半導体は3年から5年で古くなります。資本の消耗する速さでいえば、航空業より厳しい条件です。

利用者の側から見れば、これは良いことです。安くなり、賢くなり、選べるようになります。ただし、その値下げの原資は、どこかの株主が出しています。

AIへの投資は、いま利用者の支払いより先を走っている

数字を見ると、投資が先行している状況が確認できます。

2026年、アマゾン、アルファベット、メタ、マイクロソフト、オラクルの5社が計画している設備投資は、合計で6,600億ドルから7,250億ドルの規模です。前年のおよそ4,100億ドルから大幅に増えました。この5社が本業で稼ぐ現金のほぼ全額が、設備投資に消える計算になります。

その結果、5社を合計したフリーキャッシュフローは、2026年の第3四半期あたりでゼロを下回る見通しです。フリーキャッシュフローとは、事業で稼いだ現金から設備投資を差し引いた、自由に使える現金のことを指します。それが記録上はじめてマイナスに入るわけです。

一方で、その資金を受け取る側の数字は伸びています。エヌビディア、マイクロン、ブロードコム、アプライドマテリアルズの4社を合計したフリーキャッシュフローは、4,000億ドルを超える水準まで拡大しました。現金が、投資する側から機材を売る側へ移っています。

ここからは私の解釈です。この移動そのものは、危険信号ではありません。設備投資は損失ではなく、将来の収益のための支出だからです。問題になるのはその先で、5社が2026年と2027年に積み上げる投資に見合う支払いを、利用者の側が同じ速度で出せるかどうかにあります。ずれれば、シスコのときと同じことが起こります。技術は正しいまま、株価だけが待たされるという展開です。

公平を期すために、逆側も書きます

航空産業と同じ道をたどらない理由も、いくつもあります。

航空会社には、座席を売る以外の収入がありませんでした。今の巨大IT企業には、広告、通販、クラウドという別の収益源があります。AIへの投資が回収できなくても、会社そのものが傾くわけではない構造です。

回収の道筋も、すでに数字として見えています。グーグルのクラウド事業の受注残は4,600億ドルを超え、四半期で倍近くに増えました。AWSも28%成長しているので、借り手のいない設備を建てているわけではありません。

さらに、グーグルのTPUやアマゾンのTrainiumのように、自社で半導体を設計する動きも進んでいます。エヌビディアに払っていた分を自分の側へ取り戻す設計であり、航空会社が機体メーカーに対して持てなかった手です。

そしてもう一つ、今のAIには航空券になかった粘りがあります。毎日使い、対話し、仕事の一部になっている道具は、価格だけで乗り換えられるとは限りません。ここが最終的にどう効くかは、まだ誰にも分かりません。

判断基準は、「本物かどうか」ではなく「儲けが誰に残るか」

投資先を見るときに、この記事から持ち帰れる問いは一つです。

その会社が売っているものは、値下げ競争が始まったときに、値下げしても選ばれ続けるでしょうか。

これは技術が本物かどうかとは別の問いです。インターネットも航空機も本物でしたが、それでもシスコの株主は25年待たされ、航空会社の株主はほとんど報われませんでした。

確かめる点は3つあります。まず、利用者が別のサービスへ移るとき、手間はどれくらいかかるか。移る手間がほぼゼロなら、価格競争は避けられません。次に、その会社は設備を借金で買っているか、自前の現金で買っているか。借金で買っている側は、需要が遅れた瞬間に耐えられなくなります。最後に、その会社は他社が真似できない仕組みを持っているか。持っていないなら、儲けは競争で削られて利用者へ流れます。

ちなみに、この問いは資産の全体にも当てはめられます。AIが成功する前提の資産と、失敗する前提の資産を、両方持っているでしょうか。もし全部が同じ前提の上に乗っているなら、それは分散ではなく、同じ賭けを何度もしている状態です。

よくある疑問

Q:暴落しても持ち続ければ、アマゾンのように報われるのではないでしょうか。

A:報われた企業もありますが、それは生き残った側だけの話です。アマゾンは2000年3月の暴落直前に12.5億ドルの転換社債で資金を確保していたので持ちこたえられました。同じ時期には、ペット用品や食品配送の会社のように消えていった企業もあります。シスコは生き残りましたが、株価が元の水準に戻るまで25年かかりました。持ち続けることが正解になるかどうかは、その会社が値下げ競争を生き延びられるかで決まり、技術が正しいかどうかでは決まりません。

Q:AIが世界を変えるという見立てが正しいなら、暴落は買い場ではないのでしょうか。

A:長期で正しいなら、その通りです。ただし、その買い場が来る局面では、手元の資産も同時に大きく減っています。買い増す現金を、AI関連以外の場所に置いてあるかどうかで、実際に買えるかが変わります。

正しさは、株価の味方とは限らない

インターネットは後戻りできない技術でしたし、航空機も世界を変えました。どちらの見立ても正しかったのです。それでも、シスコの株主は25年待ち、航空会社の株主はほとんど報われませんでした。

AIについて「もう戻れない」と感じている感覚は、おそらく正確です。この記事は、その感覚を否定していません。

ただ、正しさは株価を守ってくれません。守ってくれるのは、値下げ競争が始まったあとに何が残るのかという設計だけです。

あなたの資産は、AIが成功する前提と失敗する前提の、どちらか片方だけに乗っていませんか。

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