副業にかける作業時間を、どうにかして削りたい。そう思っていろいろ試してきた方は多いのではないでしょうか。
早起きして机に向かってみる。通勤の電車で片付けてみる。同じ手順の繰り返しは、道具に任せてしまう。
よく言われる答えは、だいたいこの3つです。時間を作る。作業をまとめて処理する。単価の高い仕事へ移る。どれも間違っていませんし、実際に効く場面もあります。ただ、この3つには共通の前提が置かれています。浮いた時間を、また副業に使うという前提です。
この記事が立てる問いは、そこを疑うところから始まります。効率化して浮いた時間は、本当に次の稼ぎに変わるのでしょうか。
副業の効率化は、浮いた時間をまた副業に使うことを前提にしている
効率化の話は、ほとんどが同じ図式の上に乗っています。時間を空ける。空いた時間で作業する。作業した分だけ収入が増える。
早起きも、隙間時間の活用も、作業の自動化も、単価の交渉も、全部この図式の中にあります。だから効率化は、収入を増やすための手段として語られます。
この図式は、時間と収入が比例していれば正しく働きます。1時間で3,000円になる仕事なら、2時間で6,000円になる。だから時間を空ける努力に意味が出ます。
問題は、比例していない仕事があることです。
時間を増やしても、扱える数が増えない仕事がある
仕事の中には、投じる時間とは関係なく、扱える数が先に決まっているものがあります。
私がいまやっている副業が、まさにこの形です。毎月、決まった数の商品が手元に届き、それを一つずつ個人間の売買サイトで売っていきます。届く数は私の都合では決まらず、相手側の仕組みが先に決めています。
作業を倍の速さで終わらせても、翌月に届く数は変わりません。1日中その作業に張りついても、次の商品は来ない。つまり、追加の時間を投じる先がそもそも存在しないのです。
同じ構造は、もっと大きな場所にもあります。日本の漁業には、魚種ごとに1年間で獲ってよい量の上限を決める仕組みがあります。1997年に導入され、当初はさんまやすけとうだらなど6魚種が対象でした。翌1998年にするめいかが加わって、7魚種になっています。
この仕組みの下では、漁の効率をどれだけ上げても、その年に水揚げできる量は増えません。上限のほうが先に決まっているからです。効率化して得られるのは、同じ量を早く獲り終えることだけです。
扱える数が決まっていると、働く時間と収入は切り離される
上限のある仕事を効率化すると、奇妙なことが起きます。作業がどれだけ速くなっても、収入は1円も動きません。
私は自分の作業を、一度すべて書き出してみました。届いた商品の情報を集めて一覧にまとめ、写真を用意して売り文句を書く。値段を決め、現物を確かめて出品する。売れたら梱包して送る。
そのうえで、機械に任せられるものと任せられないものを分けてみました。任せられないものは、現物を手に取って状態を見ること、値段を決めること、最後に出品のボタンを押すことの3つだけでした。
残りは全部渡せたので、1件あたりに残った手間は数分になりました。作業時間そのものは、何分の一かに縮んでいます。
それでも、月の収入は1円も変わっていません。届く商品の数が同じだからです。
増えたのは時間だけでした。
時給という数え方は、時間を増やせる仕事にしか使えない
作業時間が減って収入が同じなら、時給の数字は跳ね上がり、計算上はかなり景気のいい数字が出てきます。
ただ、この数字は使えません。時給という数え方は、時給と時間を掛け算できることを前提にしているからです。時給が2倍になったなら、同じ時間だけ働けば収入も2倍になる。その前提があるから、時給を比べる意味が出ます。
上限のある仕事では、この掛け算が成立しません。時給が10倍になっても、投じられる時間の側が増えないので、収入は変わらないままです。
それでも私たちが時給で考えてしまうのは、副業を始めた動機が収入だからでしょう。労働政策研究・研修機構が2022年10月に実施した調査では、副業をする理由として「収入を増やしたいから」を挙げた人が54.5%で最も多くなっています。18万8,980人から回答を得て、そのうち副業をしている1万1,358人を集計したものです。
収入を増やすために始めたのだから、効率化の成果も収入で測ろうとする。ごく自然な流れです。ただ、仕事の形によっては、その物差しが最初から合っていません。
上限のある副業のコストを、正直に書いておく
ここまで上限のある副業を悪くない形として書いてきましたが、公平を期すために逆側も書きます。
一つ目は、増やしようがないことです。どれだけうまく回しても天井が決まっているので、生活の形が変わる規模にはなりません。本業を辞める判断の材料には、まずならないと考えたほうがいいでしょう。
二つ目は、その上限を自分で決められないことです。相手側の仕組みが決めているので、来月から半分になることもあります。理由がこちらに説明されるとも限りません。収入の柱として頼るには、足元が不安定です。
三つ目は、効率化で浮いた時間が、放っておくと消えることです。時間は勝手に価値に変わりません。何に使うかを決めていないと、別の用事がそのまま埋めていきます。金額と違って残高が見えないので、失われたことにも気づきません。
判断基準は、時間を2倍にしたら収入も2倍になるかどうかである
明日から使える形にすると、問いは一つになります。
いまの副業に投じる時間を2倍にしたら、収入も2倍になるでしょうか。
なるなら、効率化は収入の話です。空いた分だけ作業を増やせば、そのまま収入に変わります。時給で測るのも正しいですし、単価の高い仕事へ移る努力にも意味があります。世の中に出回っている効率化の作法は、この側の仕事のために書かれたものです。
ならないなら、効率化は時間の話です。空いた分は収入に変わらないので、金額を眺めていても成果が現れません。見るべきなのは、その副業が1日のうち何時間を要求してくるか、のほうです。
一つの副業の中で答えが分かれることもあります。書いたものが読まれ続ける部分は時間に比例しますが、仕入れた物を売る部分は上限に当たります。同じ屋号でやっていても、性質は混ざっています。
よくある疑問
Q:上限のある副業は、やらないほうがいいのでしょうか。
A:そうは考えていません。上限があるということは、その仕事があなたの1日を無制限には要求してこない、ということでもあります。青天井の仕事は、うまくいくほど時間を吸い上げます。どちらが良いかではなく、いま自分が何を必要としているかで決まります。
Q:効率化しても収入が増えないなら、効率化する意味はどこにあるのでしょうか。
A:意味は時間の側にあります。同じ収入を、より少ない時間で受け取れるようになります。副業に明け渡していた夕方や週末が、そのまま戻ってきます。収入の欄だけを見ていると、何も起きていないように見える点には注意が必要です。
Q:自分の副業に上限があるかどうか、どう見分ければいいでしょうか。
A:来月、いまの2倍の量をこなしたいと考えてみてください。そのとき増やす必要があるのが自分の作業時間だけなら、上限はありません。作業時間のほかに、仕入れや枠や割り当てを増やす必要があるなら、そこが上限です。そして、その上限を自分で動かせるかどうかを見ます。
効率化で受け取れるのは、金額ではなく1日の使い道である
上限のある副業を効率化しても、通帳の数字は変わりません。変わるのは、1日の中でその副業が占めていた場所です。
本業に集中できる時間が戻り、楽器の練習や運動に使える夕方が戻ります。家族と食卓を囲む夜も戻ってきます。どれも金額では表せないので、成果として数えにくい。ただ、効率化する前に失っていたのは、そちら側でした。
ここからは私の解釈です。学説として確立された議論ではありませんので、そのつもりで読んでください。上限のある仕事は、効率化の成果を時間でしか受け取れません。受け取り方が一つしかないので、かえって迷わずに済むのだと思います。上限のない仕事では、浮いた時間をまた仕事に戻す道が常に開いていて、気づけばそちらを選び続けている、ということが起こります。
効率化を始める前に、一度だけ確かめてみてはいかがでしょうか。あなたの副業は、投じる時間を2倍にしたら、収入も2倍になるでしょうか。







