努力義務とは?罰則がなくても、企業はどこまで対応すべきか

監督官庁から、業界全体に向けた通知が出ました。私の会社にも届き「書類を1つ作りなさい」と書いてありました。根拠として引かれていた条文を開くと、努力義務でした。罰則はありません。

努力義務の説明は、どれも同じことを書いています。罰則はない。行政指導を受けることがある。いずれ法的義務へ変わるかもしれない。どれも正しいのですが、これを読んでも、手元にある通知にどこまで対応するかは決まりません。

それでも私は、調べた結果、努力義務でも対応したほうが良いと判断し、役員会へ提案して承認を得ました。判断の材料にしたのは、条文の5か所です。条文の末尾、是正命令の対象、報告と立入検査と指導の範囲、公表の規定、そして義務の条文からの参照。開く場所は、どの法律でも同じです。開いた順に書きます。

目次

努力義務とは何か。法的義務との違いは条文の末尾にある

法的義務か努力義務かは、条文の末尾で決まります。末尾が「〜しなければならない」なら法的義務で、「〜するよう努めなければならない」なら努力義務です。努力義務には、違反への罰則が置かれません。

監督官庁が出す作成要領や通知には、「求められている」という書き方が出てきます。この一文からは、法的義務なのか努力義務なのかは読み取れません。だから、通知に引用されている条番号を条文で開いて、末尾を見ます。私の場合は第11条でした。末尾は「講ずるように努めなければならない」で、努力義務でした。第11条が挙げているのは、使用人への教育訓練、規程の作成、統括管理者の選任、そして主務省令で定める措置の4項目です。この4項目は、あとの章でもう一度使います。

なお、末尾が「配慮しなければならない」の形は配慮義務と呼ばれますが、この記事では扱いません。

是正命令の条文に、その条番号が入っているかを見る

先に、行政が事業者に何かをさせる手段の地図を置きます。大きく2つに分かれます。是正命令のような行政処分と、指導・助言・勧告のような行政指導です。行政処分は、従わなければ罰則があります。行政指導は、従わなくても罰則がありません。この章で見るのは、行政処分の側です。

是正命令の条文は、対象になる条番号を列挙している形が多いものです。自分の条番号が列挙に入っていなければ、命令は来ません。私が受け取った通知の法律では、是正命令の条文は第18条で、列挙されているのは第4条、第6条、第7条、第8条第1項から第4項まで、第9条から第10条の5までです。第11条は入っていません。是正命令に従わなかったときの罰則は第33条で、2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその両方です。これも第18条の命令に紐づいているので、第11条には届きません。

報告と立入検査と指導は、努力義務にも来る

命令が来ないことと、何も聞かれないことは、別です。この法律では、第15条が報告、第16条が立入検査で、どちらも「この法律の施行に必要な限度において」と書かれています。第17条は指導で、「この法律に定める特定事業者による措置の適正かつ円滑な実施を確保するため必要があると認めるとき」と書かれています。3つとも、対象の条番号を列挙していません。是正命令だけが条番号を絞っていて、この3つは絞っていないので、努力義務の第11条も範囲に入ります。

このうち指導・助言・勧告は、行政指導の側です。行政手続法第32条は、行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものだと留意することを求め、第2項で、従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを禁じています。

報告に答えないと、罰則もある可能性

ここが、罰則はないという説明の外側にある場所です。第34条第1号は、第15条の報告や資料の提出をしない、または虚偽の報告や資料の提出をしたときは、1年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその両方と定めています。第2号は、立入検査での質問に答えない、虚偽の答弁をする、検査を拒むことにも同じ罰則を置いています。

努力義務そのものに罰則はありません。ただし、それについて聞かれたときの答え方には罰則が付いています。やらないと決めるにしても、報告を求められたら、やっていないという事実をそのまま答えることになります。そして、事案が起きて監督官庁から聞かれたとき、やることはやっていたが事案が起こってしまった、という説明ができません。その場面を想像してから決めるのと、罰則はないの一行だけで決めるのとでは、判断が変わります。

勧告に公表が付くかを、条文で見る

勧告に従わないと社名を公表する制度は、置いている法律と置いていない法律に分かれます。自分の法律の条文で確かめます。

この法律には、指導・助言・勧告に従わなかった場合の公表の規定がありません。監督の条文から罰則の条文まで読んでも、その規定は置かれていません。この法律の努力義務は、履行しなくても、指導・勧告を受けるところで止まります。

努力義務でつくる書面は、義務の判断に使われる

最後に見るのは、努力義務でつくった成果物が、罰則の付いた法的義務の条文から、判断の材料として使われていないか、です。この法律では、使われていました。義務の側の判断方法を定めた条文が、努力義務でつくる書面から得た情報を精査する、と書いています。

書面をつくらなかったこと自体に罰則はありません。それでも、書面が無ければ、罰則の付いた義務のほうの判断が、条文が名指ししている材料を1つ欠いた状態で回ることになります。努力義務をやっておくと、義務の履行が条文どおりに回るようになります。

条文の項目を、社内に既にあるものと突き合わせる

やる範囲を決める前に、もう1つ数えます。最初の章で書き出した4項目と、社内に既にあるものの突き合わせです。

私は、その4項目を全部これからやる宿題として資料に書きましたが、数え直したら違いました。4つのうち3つは、社内で手当てが済んでいました。規程に相当する対応ルールがあり、従業員教育の動画と受講記録も残っていました。統括管理者に当たる者は、代表者が自動的に該当していました。残っていたのは、リスク評価書の1つだけでした。冒頭の通知が作れと言っていた書類は、これです。

4項目が全部これからの宿題に見えていると、努力義務ならいらないじゃないか、と読まれます。そして期限に間に合うかの話になります。実際に残っていたのは1つで、期限の内側に収まりました。

罰則がなくても、やると判断した理由

罰則も公表もない以上、やらないという判断にも筋は通ります。それでも私は、経営企画室の責任者として、やると判断しました。

法令遵守は、コストといえばコストです。「短期的に見れば」です。しかし、長期的に見ればコストとは言えません。事案が起きて監督官庁から聞かれたとき「やることはやっていた」と言えるかどうかが会社を守ります。経営企画室の責任者として持つのは、この視座です。だから努力義務でも、実施したほうが長期的なコストに見合うと判断しました。役員会も、この形で承認しました。

なお、義務の範囲をどう読むかは条文の解釈になります。実際に判断が必要な場面では、弁護士など専門家に相談してください。

通知を受け取ったら、条文の末尾、是正命令の対象条番号、報告と立入検査と指導の範囲、公表の規定、そして努力義務の成果物が義務の条文から使われていないか。この5か所を順に開いてみてはいかがでしょうか。何が来て何が来ないかが決まってから、どこまでやるかを決められます。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次