カスハラ対策の義務化で何をするか。指針を読むと、判断は3つに分かれていた

カスハラ対策の義務化で決めることは、3つです。何がカスハラかの基準を現場に渡すか。その場の対応方針を誰が出すか。対応をやめる判断を誰が出すか。

しかし、カスハラかどうかを判断するのは会社です。従業員向けの資料に判断基準まで載せる必要はない、とも読めます。

厚生労働省の指針は、この3つを別々の場所に置いています。どれをどちらに置くかを並べます。

目次

何がカスハラかの基準は、従業員向けの資料に載せる

載せます。判断するのは会社ですが、基準を伏せると、現場が正当な苦情まで打ち切ります。

指針は、講ずべき措置の2番目に、カスハラの内容と対処の内容を労働者へ周知すること、を置いています。判断基準を資料に載せないと、この周知が欠けます。

指針は、正当な申入れとの区別も書いています。社会通念上許容される範囲の苦情は正当な申入れであり、労働者はそれを踏まえて業務を遂行する意識を持つことも重要である、とあります。区別を現場に渡さないと、この一文が回りません。

判断する場面は1つではありません。会社が後から判断する場面と、現場が電話を切るかどうかをその場で決める場面は、別のものです。前者のために会社が基準を持ち、後者のために現場へ基準を渡します。

措置義務そのものに罰則はありません。あるのは厚生労働大臣の助言、指導、勧告と、勧告に従わなかったときの公表です。ただし、報告を求められて答えなかったり、虚偽の報告をしたりすると、過料の対象になります。罰則がないからやらなくていい、とはなりません。

その場の対応方針は、管理監督者に上げる

基準を現場に渡すと、次に決まるのは、渡さないものです。その場の対応方針は、管理監督者に上げます。

指針は、直ちに管理監督者へ報告して指示を仰ぐこと、労働者を一人で対応させないこと、必要に応じて管理監督者が代わって対応すること、と書いています。

ここで管理職を中立の立場として書くと、資料が動きません。中立の人は、どちらにも寄らないので、代わりに前へ出ません。指針が求めているのは、労働者の側に立って代わることです。だから規程には、管理監督者が代わって対応する、と書きます。

対応をやめる判断は、現場に戻す

管理監督者に上げるものが決まると、上げないものも決まります。対応をやめる判断は、上げません。

対応を終える判断を上位職に上げると、上がるまで現場が対応し続けます。電話を切っていいかを部長に聞いているあいだ、その電話はつながったままです。

指針は、十分な説明をしてもなお要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること、と書いています。上位職の判断を待て、とは書いていません。

だから資料には、何分で切るか、何回説明したら切るかを書きます。30分を超えたら切る、同じ説明を3回したら切る。時間か回数で書くと、現場がその場で数えられます。

カスハラの加害者にならないための指針を、ガイドラインに盛り込む

切る条件まで書けたら、次は資料に入れる範囲です。自社の従業員が加害者になる側も、同じガイドラインに入れます。

指針は、労働者が他社の労働者への言動に注意を払うこと、事業主がその方針を自社の労働者へ示すことが望ましい、と書いています。

同じ従業員が、取引先に対しては顧客の側に立ちます。資料を2つに分けると、片方しか読まれません。1つにまとめて、両方を続けて書きます。

私有端末での録音は、漏れたときに何が起きるかで伝える

加害者にならない行動の1つが、録音の扱いです。私有端末で録るな、とだけ書くと、理由が伝わりません。

指針は、顧客とのやり取りを録音・録画することを対処の例に挙げ、個人情報保護法を守って顧客の個人情報を適切に扱うこと、と付けています。

私有端末で録った音声は、会社の管理の外へ出ます。そこに顧客の氏名や電話番号が入っていれば、漏れたときに個人情報の漏えいになります。だから、録るなら会社の端末で、と書きます。理由まで書けば、なぜ端末を分けるのかが伝わります。

規程とガイドラインで、書く内容を分ける

ここまでの中身を、成果物に振り分けます。同じ内容を規程とガイドラインの両方に書くと、直すときに2か所直すことになります。

私が作ったのは、規程、ガイドライン、説明動画、説明スライド、全社周知メール、動画アーカイブへの追記の6つです。規程には、会社が何を禁じ、誰が何をするかを書きます。ガイドラインには、現場が使う判断基準と、対応をやめる判断の条件を書きます。説明動画は、規程とガイドラインのどこを読めばいいかを示します。説明スライドは、動画の内容を後から探せる形にします。

振り分けの基準は、変わる頻度です。会社の方針は変わりにくいので規程へ入れます。運用は変わるので、ガイドラインへ入れます。

動画を見たかどうかを測る

動画を配ったら理解したかの確認が必要です。配布と周知は別です。視聴完了テストをウェブフォーム形式で受験させます。指針が求めているのは周知です。動画の末尾にウェブフォームへの導線を置いて、視聴完了テストを対応してもらいます。

よくある疑問

Q:指針が定める10の措置とは、何ですか。

A:方針の明確化と周知啓発、カスハラの内容と対処方法の周知、相談窓口の設置、相談窓口担当者の適切な対応、事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者への配慮の措置、再発防止の措置、悪質な事案への対処方針をあらかじめ決めること、プライバシーの保護、相談したことを理由に不利益な取扱いをしない旨の周知です。この記事が扱ったのは、2番目の周知と、8番目の対処方針です。

Q:判断基準を渡すと、現場が勝手にカスハラだと決めてしまいませんか。

A:基準を渡さないほうが、範囲は広がります。判断できないので、迷ったものを全部打ち切るか、全部受け続けるかのどちらかになるからです。基準があるほうが、切る範囲は狭まります。

Q:カスハラに当たるのは、どんな言動ですか。

A:厚生労働省は3つの要素で示しています。顧客等の言動であること。業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること。それにより労働者の就業環境が害されること。電話やSNS上のものも含みます。

判断を3つに分けて渡す

カスハラ対策の義務化で渡すのは、判断の分け方です。

施行日は2026年10月1日です。社内承認が間に合わなくても、施行日は動きません。承認前だと分かる形にして、先に周知します。

自社の資料を開いて、判断基準がどこに書いてあるかを探してみてはいかがでしょうか。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次