断食をすると、体にたまった毒が抜けるという話があります。これをデトックスと呼び、根拠として、16時間食べないとオートファジーが働く、オートファジーの研究はノーベル賞を取った、という説明がよく添えられます。
しかし、16時間断食やノーベル賞のオートファジーは、本当に断食のデトックス効果の根拠になるのでしょうか?
16時間断食もノーベル賞のオートファジーも、断食のデトックス効果の根拠にはならない
「断食でデトックスできる」という話に添えられる説明を、確かめられていることと、独自解釈されていることに分けると、以下のとおりです。
| 言われていること | 確かめられていること | 独自解釈されていること |
|---|---|---|
| ノーベル賞を取った研究 | 2016年、大隅良典さんが酵母でオートファジーの仕組みを見つけて受賞した | 断食の健康法として評価された |
| オートファジーは細胞の掃除 | 細胞の中の古い部品を分解して、材料として再利用する | 体に入った毒を外へ出す |
| 16時間食べないとオートファジーが働く | 動物の実験では、断食でオートファジーが強く働く | 人でも16時間で働く |
| 断食で肝臓の働きが消化に使われなくなる | 空腹のとき、肝臓は糖やケトン体という燃料を作っている | その分、体にいい |
| 断食で頭が冴える | 頭が冴えるかは測られていない。84時間の断食で、血液中のノルアドレナリンが増えた(11人) | 毒が抜けたから冴える |
どの説明も、確かめられていることに独自の解釈を足して、デトックスの話にしています。この先の章で、1つずつ確かめます。
デトックスで出ていく毒の名前は、示されていない
まず、デトックスという言葉の中身です。デトックスは、体にたまった毒を外に出すことを指す言葉です。ところが、健康法で言うデトックスは、どの毒がどれだけ出たのかを示していません。
アメリカ国立衛生研究所の一機関、国立補完統合衛生センター(NCCIH)は、デトックスを人で調べた研究は少なく、長期の影響を調べた研究はないとしています(2025年3月更新)。2015年にKlein氏とKiat氏がまとめた論文も、市販のデトックス食を食べた人と食べなかった人で効果を比べた試験は、著者の知る限り1つも無いと結論づけています。
ノーベル賞の受賞理由は、酵母でオートファジーの仕組みを見つけたことである
次に、ノーベル賞の話です。2016年のノーベル生理学・医学賞は、大隅良典さんに贈られました。受賞の理由は「オートファジーの仕組みの発見」で、断食の健康法を評価したものではありません。
大隅さんは、パンを作るときに使う酵母で、オートファジーに欠かせない遺伝子を15個見つけました。その実験では、オートファジーを起こすために、酵母の細胞を栄養のない状態に置いています。人が断食をしたときにオートファジーが進むかは、この実験では調べていません。
オートファジーが分解するのは、細胞が自分で作った古い部品である
オートファジーは、細胞が自分の中の要らなくなったものや、うまく働かなくなったものを分解し、材料として再利用する仕組みです。「細胞の中の掃除」と説明されることもあります。
オートファジーは細胞の中のものを分解する仕組みで、食べ物や空気から体に入った化学物質を体の外へ出す仕組みとは別のものです。「細胞の中の掃除」は、体の毒を出すという意味ではありません。
人では、何時間の断食でオートファジーが進むのかが確かめられていない
16時間という数字にも、人での裏付けはありません。2026年にSingh氏とSargeant氏がまとめた論文は、断食などでオートファジーが強く働くことは、動物の実験ではっきり示されているとしています。一方で、人のデータはずっと限られていると書いています。
人を対象にした研究の多くは、血液の中で、オートファジーに関わる遺伝子の働きやたんぱく質の量を測っているだけで、オートファジーが実際にどれだけ進んだかまでは測れていないためです。16時間断食でがん細胞が死ぬという話も、人ではまだ確かめられていない「断食でオートファジーが進む」ことを前提にしています。
断食中の肝臓は、体を動かす燃料を作り続けている
断食をすると、肝臓の働きが消化に使われなくなるので体にいい、という説明もあります。実際には、断食中の肝臓は、体を動かす燃料を作り続けています。
千葉大学の発表(2024年4月22日)は、糖を作る主な臓器は肝臓だとしたうえで、空腹のときに肝臓が脂肪からケトン体という燃料を作ることを説明しています。空腹のときは、肝臓が燃料を作る仕事をしています。肝臓の働きから見ても、断食でデトックスが進むという根拠は見当たりません。
断食で頭が冴えるのは、体が非常時の反応を起こしているからだと考えられる
最後に、断食をすると頭が冴えたり、体が軽く感じたりする理由です。食べない時間が続くと、体は目を覚まさせて集中させるホルモンを多く出します。
2000年にZauner氏らが、健康でやせ型の11人に84時間何も食べずに過ごしてもらったところ、3日目には安静にしているときのエネルギー消費が増え、それに伴って血液中のノルアドレナリンも増えていました。ノルアドレナリンは、体を起こして集中させる働きを持つホルモンです。頭が冴えるかを測った研究ではありませんが、断食中の冴えた感じは、毒が抜けたからというより、食べ物を探しに行けるよう体が目を覚ましている反応で説明できると思います。断食で体が元気になる感じも、デトックスの根拠にはなりません。
本物の研究が入口にあっても、断食のデトックス効果の根拠にはならない
断食でデトックスできるという話は、大隅さんのノーベル賞と、オートファジーの研究という本物の話を入口にしています。入口が本物なので、その先の「16時間で」「毒が出る」まで本当のように聞こえます。
入口の研究が本物でも、16時間断食も、ノーベル賞のオートファジーも、断食でデトックスできる根拠にはなりません。







